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37話 廃村への道で



 最後に残ったテントの鍵を解紋し、中に残されていたものもテント自体も、一旦はすべて収納し終えた。


【さて、撤収完了ね。で、これからどうしようかしら?】

【どうって、南の欠片取りに行かなあかんで】

【彼らを連れていけないのではないか?】


 セラの言葉にアレクが情けない表情を一瞬浮かべる。


【せやったわ】

【セラの言う通り、一緒には行けない。だけど折角助けたんだから、置き去りにしたりは気が進まないでしょ? 私としてはどっちでもいいのよ、『罪悪感』と『こっちの都合』、どっちの比重が重いかと言えば、私は『都合』の方よ。面倒事は御免だしね】

【僕のせいやね…ゴメン】

【それが悪いとは思ってないから大丈夫よ。そういう優しさみたいなものは、きっと失くさない方がいいんだろうと思うし】

【俺も都合を優先したいのは事実だが、アレク殿の感情を蔑ろにしたいわけではない】

【セラも私側だったかぁ、まぁアレクは私達の『最後の良心』と言ったところかしらね。で、今回はアレクの気持ちを尊重って決めたんだから、気に病まないの】

【…ぅん…おおきに、ありがとさんやで】


 もしこの場に、誰か見るものが居れば、平民幼児に青猫そして魔物が無言で見つめあうという、奇妙な光景を目撃することができただろう。


【で、話を戻すけど、不審者は中継の廃村含めて撤収ってメモ残して行ったのよね、これなんだけど】


 そう言いつつ収納から取り出した件のメモを、アレクとセラに見せた。


【なるほど、では敵は去ったと考えて良さそうだな】

【そっか…せやからエリィはここにあったモン、全部回収してたんやな】

【偽装も兼ねて、ね。おかげでこの服も手に入ったし】


ふふんと両手を腰に当て、胸を張るエリィに溜息が2つ程聞こえる。


【ぁ~ぅん、せやね】

【…そう、だな】

【とりあえずは平民に見えたらいいんだから、問題ないはずよ…ってそうじゃなく、どこに向かうかよ。あの不審者は南の方に向かってったと思うのよね】

【南か、ここに中継地には寄るなとあるのだから、廃村はそれ以外の方向の可能性が高そうだな】

【なんや廃村目指すん?】

【彼らが休めそうなところが他にあればそれでもいいんだけどね。西…いや、北西の方向に轍というか獣道というかがあるから、恐らくそっち方向にあるんだと思うのだけど。アレク、ちょっと上空から見てきてくれない?】

【木の上まで上がれってか!? そないな高さまで上がれるんやろか…いや、欠片も貰たんやし、行けん事はないか】

【俺が行こう】

【荷車ずっと引っ張ってくれてたし、まだ近くに人間種がいるけど、いいの?】

【問題ない】


 返事と同時にセラは荷車から離れると、大きく翼を広げ力強い羽ばたきと共に上空へあがって行った。



 暫く待っているとセラから念話が届く。


【村らしきものを見つけた。今主たちがいる場所から少し北よりの西方向だな】

【やっぱり轍の先だったかぁ、ありがと】

【一応別の方角も探してみたが、そこから一番近い村がそれだ。だが距離は少しあるぞ】

【わかった、戻ってきて】

【気ぃつけてな~】

【承知した】



 

 暫くしてセラが戻ってくると、すぐにその場を後にした。

 森の中は決して歩きやすいものではないが、これまで何度も誰かが通っただろう道は、荷車を引くことができる程度には均されていた。

 テント群のあった場所から離れ、丁度廃村まであと半分ほどの距離になった所で、野営のために立ち止まった。

 途中起きないカーシュと麻袋の人物には、補給代わりにポーションを振りかけたりしてはいたが、等級が低いこともあり心配ではあった。なので諸々の準備が整ったら彼らを起こすことにして、エリィは収納からあれこれ出し始める。

 

【早速活用できるわね、テント】

【テントって…犯罪者が使ってたやつなんちゃうん!?】

【収納で浄化済みだし、モノに罪はないわ】

【…ほんまエリィの収納様は超高性能で涙出てくるわ】

【俺とアレク殿は少し離れた場所の方がいいだろう。何かあれば呼んでくれ】

【離れた場所? なんで?】

【俺達は彼らに見られないほうが良いだろう?】

【ぁぁ、それなら大丈夫。鍵付きテントは2つあるし、魔具だから中の広さは外観に比例してなかったのよ。セラが見たあの大きさの何倍もの広さが内部にはあるから】

【せやったんか、ほんなら僕とセラはテントに隠れとったらええんやな】

【そういう事、それじゃ設置しちゃいましょ】


 恐らくコンパクトに畳んだりする機能もあるはずだが、収納性能に物言わせてそのまま回収していた為、出せばもう設置完了だ。

 いつものように結界石を取り出し設置しようとしたところで、エリィは『魔物除け』を撤去していなかった事を思い出した。どうしようと少し悩んだが、思い出せば木製の網箱に草玉という、そのうち自然に還る素材だった為、そのまま記憶から抹消することにする。

 テントを2つ、並んで設置し終えると、手伝ってもらってカーシュと麻袋を荷台から降ろし、テントの1つに運び込んで寝かせた。

 二人とも起きる気配がないので静かに外へ出ると、エリィは改めて鍵の魔紋を見つめる。


(さっきは解紋する事しか頭になかったからなぁ、他にも機能があるみたいだけど)


 じっくりと読み解くと、施錠以外に遮音、温度湿度維持、防水、防火まで組み込まれた魔紋だった。


(なかなか高性能じゃない。犯罪者って儲かるのかしらね…まぁ関係ないけど。それにしても遮音という事は、不審者はなんで声かけてたんだろう? テントの性能を知らない? そんな訳ないわよね。あぁ、そういう事、だから揺らしてたんだ、理解)


 今は施錠も何もいらないだろうと、そのままにしてアレクとセラには、もう一つのテントの方へ入っててもらう。


【肉焼いて持ってくるから、中で待ってて】

【主殿、手数をかける】

【うん、大人しう待っとくわ】


 こちらのテントには念のため、鍵を始めとして全機能を起動しておく。

 2つのテント前で火を熾し、アレクとセラ用の肉串を用意する。

 肉の焼ける香ばしい香りにカーシュ達が起きるだろうかと思っていたのだが、彼らのテントからは何の音も聞こえない。やせ細っていたから、食事はきっと満足に与えられていなかっただろうし、肌の変色は一部内出血によるものなのは確かだが、それ以外は恐らく汚れだと思われる。何の汚れかは考えるのをやめたが。

 

 肉が焼きあがったので、アレクとセラへ先に届ける。

 二人が食べ始めたのを確認してから外へ出て、魔紋を再度起動させると、今度は隣のテントへ行き、まず麻袋の拘束を解いていく。

 入れるのは一人ではできなかったが、出すのは全部短剣で切って捨てればいいので、一人でも何とかなる。

 久しぶりに解放された負傷少年の傷口を観察したが問題なかった。しかし、彼を先に起こすとまずい予感がしたので、まずカーシュの方を軽く揺さぶって起こしにかかった。

 小さく身じろいでから、右手で寝ぼけ眼を擦り薄く目を開けたのを確認。


「カーシュ、起きた? 起きたらそっちの人、お兄さんだっけ? 起こしてあげて」


 何故先に外へ出ておかなかったのだろうと、後程遠い目をすることになる。

 




ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。


至らぬ点ばかりのお目汚しで申し訳ない限りですが、皆様の暇つぶしくらいになれればいいなと思っております!


リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしています(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)


ゆっくりではありますが、皆様に少しでも楽しんでいただけるよう更新頑張ります。


どうぞこれからも宜しくお願いいたします<m(__)m>

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