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32話 少ない情報で動き出す



「それにしても主殿は大丈夫なのか?」

「何が?」


 東棟の扉が見えてきた辺りで銜えていたアレクを、セラが自身の背中に放り投げてから心配そうに訊ねてきた。それに足を止めて振り返ると、コテリと首を傾げた。


「先ほどの事だ。アレク殿もこの有様だし、主殿の体調が心配だ」

「あぁ…まぁ、ね。と言うか、アレクが軟弱すぎでしょ…これまで魔物は狩りまくってるのにさ。解体は収納任せだけど返り血浴びたり、ちょっとミスって内臓や肉片飛んだりもしたのよ? 確かに狩りと違って悪意は残留してた感じだけど」


 ふむと唸るセラに、軽く肩を竦めて見せる。


(でもまぁ、悪臭被害だけだったのは不幸中の幸い…? 腐乱だとか諸々の、視覚的グロ情報が追加されてたら、私の方こそリバースしてたかもしれないし)


 東棟の扉前に着き、エリィは囚われていた思考を頭を振って解放する。


 西棟と違って扉は軽い力で開いた。

 へばっているアレクのお守りをセラに頼んで、エリィは内部に足を踏み入れた。木箱の間を通り抜けると、カーシュと負傷少年はさっきまでと変わらぬ位置にいたが、カーシュの方は音に吃驚したのか、扉の方へ顔を向けて少し震えている。


「ぁ~、ごめん。私よ、《ハナミ》。驚かせるつもりはなかったんだけど、ごめんね」


 聞き覚えのある声に、カーシュの肩がフッと下がるのが見えた。


「ぃ…ぃぇ、ごめ…なさい」


 エリィは腕組みをして考え込む。


(何かを判断しようにも、情報が圧倒的に足りてないわよね…とはいえここに長居するのは、どう考えても得策じゃない)


「カーシュ、良かったら教えてほしいんだけど、この付近に村とかはない? 何人ここに居たのか知らないけど、生活できると思えないのよね。食料もないし」


 ここにあったものは、杜撰に建てられた建物と、それに偽装した施設。木箱は置いてはあるが、『ゴミ置き場』と称される場所に3つだけ。そこそこ大きさがあったそれらの中は確認していないが、あまり荒らして痕跡を残したくないので手を触れていない。施設の方は、見えた備品以外には何もなかった。チェストの中を見忘れたなぁと思い出すが、今更あの胸糞な場所に戻りたくはない。木箱同様放置と決め込む。

 こうして思い返しても、やはりどこにも生活感の欠片さえ見つからない。


 座り込んだまま、何かを思い出そうとしているカーシュに、意識を向ければ視点の定まらない目を伏せていた。


「ここ、に連れ、て来ら…る前、はもう少し建、物…多い所…皆捕ま、ってま、した」

「建物が多い所…ここじゃない場所なのね。拠点…?。そこに彼らの仲間がまだいるとなると危険か…ん~情報が乏しすぎる」


 エリィの言葉は尻すぼみに小声になったが、カーシュは聞き取れたのだろうか、必死に自分の知っていることを伝えようとする。


「大人た、ち皆、殺…って、僕、達ももう要…ないか、ら殺す…て」


 ぶるりと身を震わせたカーシュが、奥の影で倒れている死体に、子供らしくない複雑な表情を向ける。

 それは恐怖や憎悪を泥で塗り固めたような、決して子供がしていい表情ではなかった。

 カーシュが途切れ途切れに語る情報の欠片をかき集め、パズルのように組み合わせながら考える。


(カーシュ達は要らない…つまり被害者たちは不要になった。ふむ…不要になった被害者は彼以外残っていない上に、兄かもしれない少年は切られて倒れていると……兄がカーシュだけは守ったってところか。他の被害者たちがどうなったのかは、わからないままだな…推測はできるけれど。けれど加害者側も数は減ってると考えてもいいんじゃないだろうか…実際ここに一人死んでるわけだし)


 腕組みをしていた右手の、軽く曲げた人差し指を唇に押し当てながら、エリィは目の前の死者と生者を眺める。


 暫く眺めてからくるりと反転し、一旦外へ出てアレクとセラの様子を見る。

 アレクはセラの背中から降りていて、苦々しい表情で溜息をつきながら地面にへたり込んでいる。セラの方はと言うと、ちゃんと周辺を警戒して頼もしい限りだ。

 そんな彼らに近づいて声をかけた。


「床で寝てる怪我人を、縛り上げたいんだけど手伝って」

「ぁ”?」

「主殿、縛り上げるとはどういう事だろうか?」

「ここに長居すべきじゃないのは同意してくれるわよね? じゃあ彼らも連れてとっとと離れるしかないでしょうが」

「連れていく必要はないのではあるまいか?」


 セラのその言葉に、ぐったりとしていたアレクが情けない顔で見上げてきた。

 エリィは『わかってる』と言いたげにお手上げポーズをしてから、セラに向き直った。


「ここに放置してまた危険な状況になったら、頑張って癒した労力が無駄になるじゃん? それに後味の悪い思いをしたいわけじゃないからね。さ、手伝って」


 まずはロープよと全員で建物周辺を探すが、それはあっさり見つかった。

 東棟横にあった所々黒く汚れている荷車、そこに大きな麻袋のようなものとロープがあった。

 それらをセラに預けて、エリィは一旦カーシュの所へ戻ると、彼を外へと誘導した。かなり弱ってもいるのだろう、立って歩くだけでもふらふらとして足元がおぼついていない。それでも何とか荷車のあった場所と反対方向へ、連れだすことに成功した。カーシュにはその場で待つように伝えてから、足早にアレクとセラの所へと戻り、そのまま内部へと入る。


「ぅ”…縛り上げンのは僕とエリィでやったら…ええんやな…」

「そうそう、手も足も縛り上げて。猿轡と目隠しもしてから麻袋に放り込んで口を閉じればいいでしょ」

「「……」」


 さっさと負傷少年を観察するように転がしてから、手を縛り始めているエリィに、アレクとセラはやや半眼になっていた。


「やっぱりエリィは薄情…ちゃうな、鬼やな」

「傷を負ったものに、して良い所業なのだろうか?」

「聞こえてるわよ~、傷は塞がってるから問題ないわよ。ほれさっさと手を動かして。それにしても起きないわね…その方が助かるけど」


 ロープの太さや重さに四苦八苦しているエリィが『ぁっ…』と小さく声を漏らして手を止めた。


「私のせいか…体力回復のポーション、使ってなかったわ。いや、今の場合英断? 流石私ね」

「「…………」」




ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。


至らぬ点ばかりのお目汚しで申し訳ない限りですが、いつかは皆様の暇つぶしくらいになれればいいなと思っております!


リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしています(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)



そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

ゆっくりではありますが、皆様に少しでも楽しんでいただけるよう更新頑張ります。


どうぞこれからも宜しくお願いいたします<m(__)m>

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