230話 過去の損失を引き摺って
「悪役令嬢の妹様」という、元々だらだらと書いていた物を、端折って端折って短編にしたものを先日公開しました。
宜しければお暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しいです!
そして何と……長編のご希望頂きました!!
奇特な方がいて下さったぁぁぁ:: 本当に、本当にありがとうございます!!
頑張って書き始めますので、どうぞ宜しくお願い致します!!<(_ _)>
【ただ、その誰かさんは、その後何処に行ったのかわからなくなりましたわ。
蜂さんは監視対象しか追う気はない様でしたし、私もそっちとパッとしない人物の方の会話に興味があったので】
フロルが最初に見かけ、追おうと思った誰かさんは、ホスグエナの使用人か、何らかの繫がりがあるだけの、ただのメッセンジャーだろう。
【会話というと、何か気になる話でもしてた?】
【それが怪しい……どっちも怪しいからややこしいですわ……蜂さんが監視していた方は黒い布を纏っていたので『黒布さん』としますわね。パッとしない方はそのままで】
【ぁ……ぅん】
【黒布さんが何か袋を取り出して、それをパッとしない方が受け取っていましたわ。その袋は後ろに立ってた護衛さんかしら…その人に渡してましたの】
【何か言ってた?】
【ぇっと、確か……
『菓子だと使いにくい』とかそんな事を言っていましたわ。ただ黒布さんが女性か子供かに異変が起これば、それだけで会場は混乱するから問題ないだろうって】
なるほど、少し見えてきた。
どうやら何としても騒ぎを起こしたいらしい。ただ何のために騒ぎを起こしたいのか、そこがまだはっきりとしないが、その騒動の切っ掛けに、袋に入って受け渡しされた物……多分汚染された菓子が入っていて、それを使うつもりなのだろう。
しかし、些か……いや、かなり浅はかではないだろうか。
感染症を舐め過ぎと言うか…。
空気感染するものでないなら、確かに感染経路に注意を払えば良いと言えるかもしれないが、それはあくまでその場だけの話だ。
この世界の貴族家の日常生活など知る由もないが、一見中世風に見える以上、あまり衛生観念は高くないと思った方が良いだろう。いや下手をするとそれ以前である可能性もなくはない。
事実、エリィ自身は使用する必要もないが、自分に宛がわれた部屋を興味本位で一通り見て回った時に、トイレなんかも見たのだが、当然水洗ではなかったし、洗面台などもなかった。
トクスの宿屋に、魔石を用いた水場が設えられていた事は、驚愕すべき事だったのだと、今になって見ればわかる。
女将が元テイマーで、従魔の事を本当に考えた宿だったのだ。流石オリアーナ推薦の宿である。
そして医療水準も……何しろ消化器系感染症も呼吸器系感染症も、兎に角感染の広がりを止められない物をまるっと『悪気』と呼んでいるような世界なのだ…推して知るべしだろう。
空気感染しないモノでも、初速は劣るかもしれないが、間違いなく広がり大きな傷跡となるのは間違いない。
つまり、病……ここの言い方なら『悪気』を広げた加害者も、いずれ被害者になりかねないという事だ。
そして当然ながらその場での騒動にまで繋がるかと問われれば、難しいと言わざるを得ない。
ニモシャの発症は汚染菓子を口にしたのが、前日…休憩所がどうとかは聞いた覚えがあるが、時間までそう言えば聞いていなかった気がする。しかし、子供が外に居てお菓子を口にしようとする時間と考えれば、お昼前後だろうか…。ざっくり、かなりの誤差を見越しても、半日程度の潜伏期間があると考えて良さそうだ。
となれば夜会で汚染菓子を口にしたとして、発症するのはやはり夜が明けてからならば、夜会そのもので何かしようとしている訳ではないのではなかろうか。
【それで、フロルは今どこに居るの?】
【私は探偵さんですから……何でしたかしら、よ…よーじ、しゃ?】
エルフレイアね、うん、知ってた。多分そんな事だろうと思ってた。
どうやらエルフレイアさんとやらは、ミステリーだのもお好きだったようだ。
【容疑者、ね。じゃあ伯爵の方に張り付いているのね?】
【はく…? パッとしないさんですわ!】
【ぁ、うん……スーもまだ一緒?】
【蜂さんは黒布さんの方を追っかけて行きましたわ】
【わかった。じゃあフロルはそのままその人を見張ってて。ただ動きがあった時に困るから、どうしよう……アンセにそっちに向かってもらうから、何か動きがあったら、分かれて見張って貰える?】
【まぁ…あちらについて行った方が良かったのでしょうか…私、失敗しましたわ】
どうやら伯爵の動きの方が早かったようだ。
いや、この場合エリィが動くのが遅かったと言うべきか……。どちらにせよフロルは未だ伯爵の傍で、その伯爵が人に指示を出したようだが、そちらは不明。スーはナジャデールの手の者の方と言う配置になっているようだ。
伯爵がどんな指示をしたのかわからないが、汚染菓子が使われようとしている事がわかっただけでも儲けものだ。
「おーい」
「エリィ様?」
フロルとの念話に続き、長考が過ぎたようだ。
気づけばオリアーナとテレッサが心配そうな表情で、エリィを覗き込んでいる。
「ぁ、済みません。ちょっと……」
適当に誤魔化そうかとも思ったが、精霊の存在はもう知られているし、都合が悪くなったら『精霊』というパワーワードで乗り切ろうと決める。
「……そうですね、まずその夜会に饗される飲食品に、そのナジャデールの商会が噛んでいるなら尚更、納品物は調べたほうが良いと思うんです。
毒物他、何が混入しているかわからないでしょう?
その夜会、騒動が起こるのは望ましくないんですよね?」
「ふむ、確かにエリィの危惧は当然だ。しかし、やはり変に介入すればその貴族家…今回はナゴレン侯爵家の顔に泥を塗りかねないからな」
「そうですわね。少々難しいですわ」
彼女らの言葉にさくっと精霊にお願いしてみると言うと、何故かテレッサが満面の笑みで精霊にあってみたいと詰め寄ってきた。
フロルとアンセには調査で動いてもらう予定なので、暫くは無理かもしれないが、セレスに顔出しして貰えば良いだろう。
一応伯爵の方に動きがあった事も伝えれば、マローネの表情がスッと静まり、すぐに部屋を持していった。
恐らく伝えに行ってくれたのだろう。
結局ガッツリドップリ関与する事となったが、このまま流れに身を任せるしかないだろうと、エリィは諦観の色を深めた。
ローグバインが険しい表情で、ノックもそこそこに、扉を開けて入ってきた。
部屋の主であるソアンは、それを咎めることなく一言問いかける。
「どうだった?」
マローネからの知らせで、ホスグエナ伯爵に動きアリと、見張りに付けた者に連絡を取っていたのだ。
「あぁ、それなんだが見張りは伯爵の不在に気づいていなかった」
「つまりホスグエナ邸への出入りする別の道があるという事ですね」
ローグバインの言葉に、ヴェルザンが苦いものを噛んだ様に呟いた。
「やはり影を動かす事は出来ないか?」
続くヴェルザンの言葉にソアンが首を振る。
「難しいな。王家の影の全てが現王に忠誠を誓っている状態とは言い難い。そんな状態でマティクルの家の力を借りることも……どこで誰が繋がっているのか…」
マティクルとはヒースの生家で、マローネもそこの縁者である。
王家の影とマティクルの暗部、どちらも先の内紛騒動の時に何人もの死者を出し、今はかなり弱まってしまっている。特に精鋭達が死亡してしまった事は痛手だった。
それ故デノマイラでの一幕のように、裏とも関わりのある家でありながら、聖英信団との繋がりが切れてしまっている。
そんな事情から秘匿された一団でありながら、ワッケラン公爵や王兄タッシラのの息がかかるのを防げなかった。
「今回は幸運な事にエリィ様が居てくださいましたが、あの方は自身でおっしゃっていたように、この国に留まってはくださらないでしょう。
夜会までまだ少し時間が残されています。
今の間にどうにかせねば……」
ヴェルザンの零した言葉に、ヒースが固い表情で口を開いた。
「ソアン……済まないが少し家に行っても良いだろうか……父に話をして来る」
今マティクルの暗部を掌握しているのはヒースの父であるマティクル伯爵その人で、ヒース自身には指揮権も何もない。
「私は……あの女性が言った通りまだ未熟なのは否定できない。
だが、はいそうですかと俯いていられない」
ソアンは無理はするなと言い、ローグバイン達は黙って頷いた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)




