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219話 情報共有 その1



 オリアーナやゲナイド達はエリィの方を気にしているようだったが、その場は一旦解散となった。

 妙な緊張感を孕んだ女性使用人が、何かあれば自分にと告げた後、名を教えてくれる。その女性使用人、マローネに案内されて部屋に入った。今回は同行使用人が少ないという事もあり、ゲストは全員本棟に集められている。


 荷ほどき等が終わった頃迎えに来ると言う言葉の通り、少ししてからマローネがやってきて、別の部屋へ案内された。

 王家所有と言う話だったが、確かに広さだけでなく、壁の装飾に至るまで手が込んでいる。


 扉を開けてもらい中へ入れば、見知ったヴェルザンとパトリシア以外は、先程名を知ったばかりの王都側の面々に限られているようだ。


「疲れているだろうに、すまないね」


 ソアンが向かいのソファを軽く手で勧めながら声をかけてきた。それ自体には返事することなく、勧められた席に腰を下ろすと、それを待っていたかのようにマローネがワゴンを押してやってきた。

 エリィの前に湯気の立つカップが置かれ、そこからどこか花の様な香気が広がる。


「さて、改めて。私はソアンと言う。一応この国では公爵位を持ち、王弟でもあるな。とは言えここでは他の目がある訳ではない。無礼講で構わない」


 後を促すように、言葉を切ったソアンがエリィの方へ視線を流す。


「………呼び名はエリィ。基本情報はそちらのヴェルザンさんやオリアーナさん達から既に得ていると思うので、そちらからの問いに答えると言う形で良いかしら?」


 エリィの言葉に室内の空気が一瞬固くなったが、ソアンが微笑みと共に了承すれば、それも直ぐになりを顰めた。


「証拠品の運搬を頼んでいたんだったね。それも出してもらいたいが、その……精霊殿達は来ないのだろうか?」

「呼べば直ぐ姿を現すと思いますけど、精霊だなんて信じるんですか?」


 正面で顔を上げたままのエリィが微かに笑むが、目元の包帯、そして被ったままのフードのせいもあって、酷く酷薄に見える。


「………ソアン様、その前に。エリィ様、大変申し訳ないのですが、せめてフードを外すなど、最低限の礼儀くらいは示して頂けませんか? さすがに看過できません」


 酷薄な笑みを口元に刻んだまま、エリィが小さく首を傾けるより早く、ソアンが視線と声で制する。


「ヒース、控えろ。私が良いと言っている」

「しかし!」


 目の前の少々剣呑なやり取りに、エリィが肩を竦めてフードを下ろした。


「フードを外したからと言って、何も変わらないですけどね」


 露わになった頭部は、フードから覗いていた時は目元だけ包帯に覆われているように見えていたが、実際には鼻と口元以外は全て包帯で覆われていた。

 それを見て、ヒースが小さく息を呑み、困惑気に視線を下げる。ヒースの隣、ソアンの後ろに控える様に立っているローグバインも同様だ。


「済まない、私の従者が失礼な事を」

「別に気にしていません。私の扱いに困っているのも確かでしょうしね。

 一応先に宣言するなら、こちらに手を出してこないなら、特段敵対するつもりはありません。

 精霊だのなんだのと目立つのも困るという事であれば、報酬だけ頂いてさっさと出奔しますので、先に証拠品はお渡ししておきましょう」


 ソアン達が何か言うまもなく、エリィは運んできた物を袋から出す素振りで、目の前のテーブルに積み上げる。


「それは…マジックバッグか?」

「見た目が汚れていますし、御貴族様に相応しい代物とも思えませんけど、私から取り上げますか?」

「まさか、そんな事はしない………その、エリィ殿は貴族が本当に嫌いなのだな…」


 エリィの塩対応に、ソアンが少し悲しげに呟いた。


「まぁ好きではありませんね。突然仲間を渡せとか、頭おかしいんじゃないのかと思うような輩に出会ったせいもあって、良い印象はないんですよ」

「それは…その、随分と酷い言われようだが…」

「実際そうでしょう? 今だって貴方達は私をどう利用できるかだけ考えている。違いますか?」

「!」


 エリィの言葉にソアンが身じろぐ。視線を少し泳いだ後、右手第2指を軽く噛んでから、観念したような吐息を漏らした。


「済まない、そんなつもりではなかったと言うのは通じないだろうな。

 君を私側に引き込めれば…等と考えたのは事実だ。謝罪しよう」

「謝罪は不要です。口だけの謝罪に価値等ない事は、御貴族様なら良くご存じでしょう?」

「本当に辛辣だな」

「でもまぁ、あまり煽っても後ろの方が飛び掛かってきそうなので。さっさと本題に入りませんか? 回りくどいのは面倒なので」


 言われて、ヒースが無意識に噛んでいた唇を緩めた。


「私はこの国の者じゃないので、命令を聞く必要はないと考えています。ですが、仕事として依頼、もしくはお願いという事でしたら、最初から無碍にするようなことはしませんよ。自分達への利益と不利益、ちゃんと天秤にかけるくらいは門前払いにせずにやります。

 ただ私達にとって不利益が大きいと判断したら、とっとと出ていきます。私にとって大事なのは、仲間であって、貴方達ではない」


 ヒースの様子にソアンが苦笑を深めた。


「こちらの情報……まぁ有体に言えば公にしたくない事を隠しながら、どうにか助力を得られないかと考えていた。貴女ほどの力量があれば、少々の事で危険は及ぶまいと……しかし、貴女の意思を考慮していない時点で、論外の考えだった。済まない。

 エリィ殿、貴女がどこまで知っているのか、私は詳しく把握していないが、これから話す事は他言無用で、どうか頼めないだろうか」

「節操なく吹聴する気はありません。ありませんが、参加面子に不備があるのでは?」

「ふむ……誰を呼ぶのが良いかな」

「オリアーナ嬢、後こちら側で少し呼びたい面子が居るので、それは任せてくれると有り難いですね」


 パトリシアも何やら話したいことがある様だったし、呼んでおいた方が良い気がする。




 斯くして揃った顔ぶれは、先程の面子に加えて、オリアーナと一人の男性、セレス、そしてパトリシア、後何故かアレクがやってきた。


【アレクは何故…?】

【うん? 僕以外適任居らへんやろ?】

【何の適任よ…】

【まぁええやん。僕が何も言わんでええんやったら、それでかまへんし】



 区切りをつけるかのように、ヴェルザンがパンと手を打ち鳴らす。


「閣下が話をしても良いと思うんですが、後ろに控えた者達のストレスを鑑みて、私からお話しさせてもらいます。ただ私も全て知っているわけではないので、適宜補足をお願いできますか?」

「ぁ、あぁ、勿論だ」


 自分達の主人であるソアンが、平民どころか自国の民ですらなく、何処の馬の骨とも知れぬようなエリィに、適当な対応をされるのはかなりキテいたらしい。エリィとしてはそれほど攻撃したつもりはないので非常に不本意だが。


「そしてこちらの方はエリィ様はご存じないですよね? こちらはトタイス・コッタム子爵。西方砦の総指揮官でいらっしゃいます」


 紹介された精悍な顔立ちの男性が、きっちり一礼してきたのでエリィも会釈を返す。


「とは言え、何処から話したものでしょうね……」


 少し困ったように零すヴェルザンだったが、現在王宮内が安定していない事。その背後に王兄、公爵家、そしてホスグエナ伯爵家が噛んでいる事等を、過去のドラゴン襲来捏造も含めてまず話した。


「ただ未だわからないのが、その『実験』とやらの内容と、何処にその施設があったのかまでは特定できていません」


 ヴェルザンがそう言って、少し溜息を吐く様子に、エリィはどうしたものかと暫し逡巡するが、この場は隠し事なしと決めたのだから言うべきだろう。


「実験内容は恐らく魔力の譲渡ないし移植ではないかと思います。施設はナゴッツ村から北にかなり離れた場所で……地図はありますか?」


 淡々と新情報を話すエリィに、その場の空気が一瞬固まったが、すぐにヒースが動いて地図をテーブルに広げた。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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