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216話 精霊達の危険な児戯



 3つの光球がデノマイラ邸の正面門の内側、前庭に上空から真っすぐに降りて来ると同時に、人型へと変化する。

 その瞬間一気に薙ぎ払うような力の波動が、3名を中心に周囲へ波及した。

 警護に当たる騎士達も、邸内に滞在する面々も一部を除いて、そんな大きな力の波動に気付かない訳がない。

 まず真っ先に駆け付けたのは、邸外ではあるが、敷地内の巡回に当たっていた騎士達だ。


「な、何事だ!?」


 3名が降り立った場所から少し離れた所を巡回中だった騎士達は、波動を感じると同時に震源方向から押し寄せてきた強い風に、思わず腕で頭部を庇いながら、全員が揃って姿勢を低くして身構える。

 風が吹き抜けた後は、まず帯刀していた剣を抜き放ち、震源に向かって真っすぐ駆け付けたのだが、あれほど大きな風が巻き起こったにもかかわらず、やっとほころび始めた前庭の花々は、何の影響も受けていないように見えた。

 全員が首を捻りながらも、周囲の警戒をしつつ歩を進めていると、小さな人影を認めて、抜身の剣を構え直す。


 3つ確認できた人型は、やはり一見人族の子供に見えるのだが、そのうち1人は薄っすらと発光し、残る2人もその背中に何か光が筋を描いているような気がする。

 エルフであるパトリシアと違い、人族である騎士達には、どうやらはっきりと翅の形には見えないようだ。

 とはいえ、突然現れた御伽噺の存在に、騎士達も戸惑いを隠せない。


「た、隊長……あれは」

「………いや、そんな…まさか」

「でも光る人なんて」


 口々に無意識にか洩れる呟きに、隊長と呼ばれた男性が真っ先に呆けるのをやめた。


「敵かどうか咄嗟に判断は出来ないが、ここには自分達が守るべき王弟殿下が居るのだ。皆、気をしっかり持て!」


 体調が剣を構えたまま一歩を踏み出し、3名の人外の子供……アンセ、フロル、セレスに近づくが、何かを踏んでしまったのか、パキッと小さな音が響いた。

 その音に反応したのか、精霊達全員がくるりと振り向いた。

 3人のうちの1人、春色を纏った、とても美しい少女の双眸が、冷ややかに眇められる。


「まぁ、あれらは何をするつもりなのでしょう?」


 その言葉に答えたのは、美少女と同じく背に光の筋を背負う、こちらも春色の美少年だ。


「さぁ、どういうつもりなんだろうね」


 薄っすらと全身が発光している最後の1人は、眉根を寄せて口をへの字に曲げている。


「………」

「……不愉快だわ。どうして立ったまま、あんな無粋な物を私達に向けてくるのかしら?

 以前から思っていましたけど、人間種って私達の住処にも無断で、しかも土足で踏み入ってきますでしょう? あぁ言うことが出来る輩だから、こんなに厚顔無恥ですの?」

「確かに、あれは不愉快だったから、僕が懲らしめてやっただろう? 

 それにしても…武器を向けてくるのも不愉快だけど、僕としては立ったままでいられる方が不愉快だね」

「いや、精霊の領域って普通は人間種も禁足地にしたりしてくれるんだけどな? 下手に踏み込む方が危険だし、実際アンセの懲らしめって、もう筆舌にだな………けどさ、あれはごく一部の奴らであって、皆がそうだって訳じゃ……それより、今は武器の方が困るだろうが…」


 最後のセレスの呟きには誰も答えず、春色の美少年ことアンセが左手を一振りした途端、目にも止まらぬ勢いで地面から何かが伸び、騎士達の手足を拘束した。

 そしてそのまま手加減なしで、伸びた蔓を地面に戻す。

 そうすると必然、彼らは地面に這いつくばる姿勢となり、その時手にしていた武器も取り落とした。


「く!」

「は、放せ!!」

「いたっ!」


 警護騎士なのだから、当然鎧を装備しているので、引き倒された瞬間カシャンガシャンと耳障りな金属音が響く。


 眉根を不快そうに顰めたままのアンセが、更に手を一振りしようとしたところで、何者かが飛び掛かってきた。


「貴様!」


 ローグバインが上段に構えた剣を振り下ろしながら、這いつくばる様に地面に拘束された騎士達とアンセの間に割って入る。


「何者だ? ここは王家所有の屋敷だ。問答無用で斬り捨てる事も可能なんだぞ」

「まぁ、斬り捨てるですって」

「出来るものならしてみるれば良い」

「……おい、2人とも煽んなよ…」


 セレスの呟きが終わるかどうかという所で、返答なしと判断したのか、ローグバインが更に剣を横一線に薙ぎ、更に騎士達との距離を稼ごうとするが、どう考えても相手が悪い。

 アンセが手を一振りする前にフロルが囁く。


「花達、私達の敵に思い知らせてやってくださいませ」


 尚も剣を引くことなく、アンセの隙を伺って襲い掛かろうとするローグバインの剣の柄部分に巻かれた装飾紐が、唐突好き勝手に動き出し鷹と思うと、見る見るうちに蕾が膨らみ、ローグバインの顔正面を塞ぐように大きな花を咲かせた。


「な!?」


 咄嗟にローグバインが自分の剣から手を放すと同時に、一歩後ろへと下がってしまった。そんな格好の隙をフロルが見逃すはずもなく、取り落とされた剣の飾り紐から伸びた花が更に大きくなって、ローグバインを飲み込んだ。

 後を追って来たのか、後方に辿り着いたヒースが、その足を止めることなく走りながら短剣を引き抜こうとするのを見て、今度はセレスが渋々手をかざした。


「おい人間種、少し大人しくしてくれねーかな。でないと俺も参戦しなきゃなんなくなるんだ」


 翳された手から突風が吹き出し、ヒースも、その後ろについてくる形となったソアン、ヴェルザン、それにオリアーナやゲナイド達もまとめて吹き飛ばす。


「ふふ、セレスったら、やっぱり繊細さが足りませんわ。まとめて薙ぎ倒してしまいましたのね」

「怪我がない様に手加減しているのがセレスらしいけれどね」

「うっせえ!」

「お兄様」

「そうだね、このまま全員ひれ伏させよう。それとも邸内の全員締め上げる方が良い?」


 呑気に話す精霊達とは違い、拘束されたままの騎士達、花に飲み込まれたままのローグバイン、セレスに吹き飛ばされた全員が、訳も分からず呆けるしかなくなっていた。


「ほんとに躾がなっていませんのね」

「だから僕達が先んじて来たんだろう?」

「これ、躾とか言う話か?」

「これらの頭に種を植え込めばいいかしら…」

「キリがないよ?」

「……お、おい、横暴なのはどう見てもこっちだっつーの…」


 セレスが珍しく正論を吐いているような気がするのだが、アンセもフロルも聞いていない。

 そんな様子を見ながら、こちらも空気を読まない呑気な声が、少し離れた地面の方から聞こえる。


「これはどういう状況なんだろうね? よかったら説明してくれると助かるのだが?」

「ソアン!?」

「「「閣下!!??」」」


 無駄に絢爛な上着が目に眩しい、王弟ソアンのおっとりとした様子に、ヒースやローグバインは勿論、ゲナイド達まで目を見開いている。


「いや、だって状況がわからないと、対策の立てようもないだろう?」

「対策以前の話だと思いますが」


 ヴェルザンの冷静な突っ込みに、精霊達を除く全員が内心で頷く。


「まぁ♪ 人間種と言うのは、醜くて愚かで……だけど面白いのも存在するのね」


 フロルが目を丸くして、だけどどこか楽しげに呟いた。


「君達は何処の手の者だろう? 一応直ぐ殺す気はない様だし、答えてくれると嬉しいんだが?」


 フロルが地面に転がるソアンと話していると、何かに気付いたらしいセレスの顔色が、目に見えて悪くなっていく。


「(ぉ、ぉぃ……ぉぃって……フロル気付けって!!)」


 セレスの顰めた、だけど焦ったような声音に気付いたアンセの顔色も、すぅっと悪くなっていく。


「(フロル……フロル…)」

「(ぁぁ、俺、知らねーからな……って、俺も怒られんのか!? あぁぁ…)」


 美少年二人の様子も知らず、フロルは意気揚々と人間種達を見下ろす。


「何処のって……住処の事を聞いているのかしら? 人間種にはあの辺りってどう言えば伝わるのかしら……よくわからないけど、私達は…」


 スパーーーン!!


 フロルの言葉が最後まで紡がれる事はなかった。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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