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204話 デノマイラ側の一幕

台風接近…とても心配です。



「いや、私が行く」

「お嬢はこっちで待っててくださいよ」


 デノマイラの中心街から少し外れた閑静な場所に、華美ではないが、なかなかに大きな邸宅が建っている。一番大きな本棟と、それを挟むように両サイドに副棟があり、庭園を挟んで別棟も見える。

 建築様式や色彩は少々離れた所に見える他の建物とさして変わらず、大きさ以外はあえて目立たないように建造されているのだが、それに加えて周囲を囲む塀と堀があり、そのおかげであまり気に留まる事もない。

 ここは王家の持ち邸の一つで、視察や外交の際にも使われる事のある邸で、かなり大きな邸ではあるが、今はソアンが私的に使用しているので、使用人などは殆どいない。

 ローグバインの部下の騎士がちらほら散見する程度だ。

 それで警備は大丈夫かと言う話になりそうだが、この邸は魔具で警備を肩代わりしている部分もあるので、そのメンテナンスさえしっかりしていれば、人数は少なくて済む。


 そんな邸宅の入り口、外門どころか別棟までさえもかなり距離があるので、言い合っている人物たち以外の人影はない。


「しかし私が行った方がエリィも安心すると思うのだが?」

「まぁそこは否定しやしませんがね…ですが俺らもエリィとは顔見知りですから、全く、全然! 問題なんか欠片もありゃしませんよ」


 言い合っているのはオリアーナとゲナイド達『大地の剣』面々だ。


「お嬢様、ここは私らに譲っていただけませんか?

 その……ねぇ?」


 ナイハルトも情けなく眉尻を下げて懇願の構えで、スイっと視線を一度奥へ向けてから微妙な間の後、足元へとそれを落とした。


 一度流された視線の先には本棟の開いたままの扉があり、その更に奥、重厚に磨き上げられた階段に立つ人影が3つ見える。


 一つは一番目立つ衣装が目に眩しい。煌びやかな臙脂のフロックコートの様な上着と襟元の大きな宝石も深い赤でまとめられていて、少し癖のある金髪が素晴らしく映えている。

 別の一つは全体的に黒でまとめられていて、まるで影のように控えているため意識に残りにくいが無駄に圧があるように感じる。

 最後の一つは、色味は大人しく纏められているが、黒にも見える深い青のマントを羽織るすらりとした体躯が目に留まる。


 遠目なので顔立ちなんかは識別できないが、3人が3人ともそれぞれ違った意味で人目を引くのだ。


 そう、彼らは王都の3人。

 オリアーナ達を保護するべく向かう予定だったローグバインは兎も角、何故かソアンとヒースまでやってきていたのだ。


 ソアンは言うに及ばず、ローグバインも現侯爵である。実の所ヒースもソアンに仕えているため取沙汰される事は滅多にないが、伯爵家の令息で、揃いも揃って高位貴族が雁首揃えている状態だった。


 そんな、どう考えても緊張を強いられる場所に誰が残りたいと思うだろう…。

 ゲナイド達はいの一番にエリィ達の出迎えに志願した。しかしオリアーナにした所でこの場に留まりたいとは欠片も思っていなかったので、こうしてエリィ出迎え争奪戦となったのだが…。




 そんな彼らのやり取りを階段に立ったまま眺めるソアンが、フッと口角を上げた。


「なぁ、我々はもしかして敬遠されているのだろうか?」

「あのなぁ…それはそうだろ。こんな場所で、いや、場所は兎も角、誰が王弟閣下とその側近様に会いたいと思う奴がいるんだ?」

「えぇ? 酷いなぁ。私はそれなりに人気があったと思うんだがね」

「誰もが喜ぶわけではないと言うだけの事だ」


 微笑み交じりに疑問を呟くソアンに、ローグバインが呆れた声を漏らし、ヒースが纏める。

 彼らにとってはいつもの光景だが、ギルド員達は兎も角、オリアーナには出来れば留まってほしいので、ソアンは目線はそのままに、後ろに控えるヒースに小さく告げる。


「爆弾お嬢さんの迎えはギルド員達に。オリアーナ嬢は残って貰うよう伝えてくれ」


 頷いたヒースが静かに階段を下りた所で、階段脇の部屋から出てきたヴェルザンと目が合った。

 ヒースが行くより、ヴェルザンに頼んだ方が、彼らの衝撃は少ないかもしれないと、ヒースはソアンからの伝言を伝えて頼む。

 仕方ないと言いたげな表情で肩を竦めるヴェルザンを見ていたソアンが呟く。


「無事揃って一安心だよ」

「そう…ですね」


 村サブの護衛としてトクスに来てくれたトタイスだったが、実の所、抵抗などすることなく、あっさりと同行を了承してくれた。

 瘴気が後退したと言う事実も大きかったのだろうが、トタイス自身、色々と覚悟を決めていたのかもしれない。

 付き添われていた村サブは、一旦トクスに留まった。それというのも仕事が山積している事と、後は王都に向かう予定の為、再びトクスを留守にするので村マスであるバラガスと調整をするためだ。

 まぁ村サブマツトーは王都に来ても来なくても特に問題はない為、後から来ると言うならそれでいいと、ヴェルザンはトタイスと大地の剣面々を連れて、さくっと転移でデノマイラへ飛ぶ事にした。この転移については村マス、村サブ、果ては王弟ソアンにも許可を貰っている。

 その為一番出発が遅かったにも拘らず、一番最初にデノマイラへ到着する事になったのだ。


 オリアーナはトタイスによって命を救われた子供とドマナンを連れての旅となったので、少しゆったりとした旅程ではあったが、あちこち寄り道し、到着を先延ばしにする気満々のエリィ達よりは先に到着する。


 結果、数々の証拠品と件の精霊を連れたエリィ達が、最後の到着となった訳だ。


 しかし、そんな諸々でソアンがデノマイラまでやってきたわけではない。

 デノマイラに一番に着いたローグバインは、まず邸の受け入れ準備に奔走していたのだが、そうこうするうちにヴェルザン一行が到着する。

 トタイスは重要証人でもある為、部屋に留まって貰ったが、ヴェルザンやゲナイド達は受け入れ準備の手伝いを買って出てくれた。

 おかげでオリアーナ達一行が着く頃には、すっかり準備は整っていたのだ。


 今トタイスと、ホスグエナの長男、そしてドマナンは大人しく軟禁されてくれているが、一方で情報交換と共有、そしてそれぞれの近況などをやり取りに、ローグバインは忙殺される事になってしまった。


 ソアンとしては、この機会にオリアーナ嬢を何としてでも射止めて貰い、ローグバインにも王都、いや王宮に留まってもらい、正式な側近になってほしいという願望がある。

 それがためにデノマイラ行きをローグバインにしたのに、仕事に忙殺され、オリアーナと時間を取る事もままならない状態では本末転倒なのだ。

 その為、さっくりと王宮での仕事を片付け、何かあればすぐ連絡するようにとテレッサに言い置いて、転移でやってきた。

 まぁ、エリィが揃った時点で、ソアンが居れば、離宮への転移ならすぐに行えるというメリットもある。実際証人や証拠品の移送は、素早く終えられるならその方が良いに決まっているのだ。


 そんな下心もあってソアンはここへ来ていたのだが……本人はそう言って憚らないが、そんなのは理由の半分、もしかすると3割ほどでしかないかもしれないと、ローグバインとヒースは思っている。


「それにしても平穏だ。平穏過ぎて暇だよ」


 ソアンの傍に留まっていたローグバインも、伝言をヴェルザンに頼み階段を上がって戻ってきたヒースも、本音が出たなと苦笑するばかりだった。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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