2話 色付き瘴気
こくんと頷く子供、名前はエリィと言うらしい。
エリィがそっと両眼を閉じると、汚れていた全身と武器が淡く輝き、その汚れが消え去っていた。
どうやら《浄化》の魔法を使用したようだ。
返り血や泥汚れ等でわかりにくくなっていたが、ローブは深く美しい紫色で、光沢もありとても上質なことがわかる。ローブだけでなく、履いている黒いズボンとブーツも、手にはめている革のグローブも見るからに上等品だ。
「このローブとかもまずいかな、アレクはどう思う?」
エリィが服装を気にするように自分を見下ろしてから、青猫に顔を向ける。
「まずいって? あ~確かに上等すぎて目立つかもしれへんけど、それ以外の品なんてあったやろか。まぁ、なんにせよ一旦小屋に戻ろや」
アレクと呼ばれた青猫は、エリィに背を向けて歩き出す。
「ちょっと待ってよ、折角の獲物なんだし回収していくわ」
アレクの言葉に、慌てて足元に横たわる爪ウサギに手を伸ばすと、何もない空間に爪ウサギのぐったりとした身体が吸い込まれていく。
「設定どうしとこう? いつも通り素材化でいいかしら」
「それでええんちゃうかな。それにしてもエリィの収納は超高性能やなぁ、入れるだけで勝手に解体して素材化してくれるんやもんな、その上個別で回収設定もできて収納上限なしってなぁ、大きさも制限なしなんやろ?」
「そうね、まぁ使える使えないは別にして、ステータス諸々、存在そのものがチートだわね、体力以外は」
エリィは顔の前に現れた透明なパネルに視線を動かし、つらつらと内容を確認する。
「なんだかんだで結構素材も溜まってるわねって、爪ウサギの爪って結構いいお値段してるのね」
パネルに表示されている収納の内容物には、状態やら量の他、どうやらこの世界での相場らしきものも表示されていた。調査鑑定スキルなどとも連動していることが伺える。
それぞれの横に表示されている歯車マークは設定なので、そこから任意に表示も変更できる。ついでに言うなら下欄には検索の虫眼鏡マークも完備している。
「各説明文も表示するように設定しとくかな、いろいろと増えたときにわかんなくなりそうだものね」
「都度鑑定するんやったらあかんの?」
「それだと一々収納から出してしないといけないでしょ? 面倒よ」
なるほどなぁ~とアレクが呟くのを聞き流しながら、周辺を警戒しつつ一人と一匹は歩を進める。
かなり深い森であるようで、木々の一本一本はどっしりと太く、とても薄暗い。
まだ時間的にはお昼にもなっていないはずなのに、日差しが茂る葉に遮られているのだろう、地面まではあまり届かず地表を覆うのは苔などのほうが多い。
それでもたまに見かける草は薬草の類も多く、エリィは時折足を止めそれらの草を丁寧に摘み取っては収納へと回収している。後程スキルで薬化でもするつもりなのだろう。
更にしばらく進んだところでエリィが足を止める。
今度は何を見つけたのやらとアレクを振り返ると、エリィは足元を見ているわけではなかった。
警戒するように周囲を探っている姿にアレクは慌てて駆け寄る。
「どないしたんや、魔獣の気配はあらへんで?」
「瘴気が……何かいつもと違う瘴気が混じってる、何だろ悲しい…? 違うな、怖い、なのかな」
「色付きの瘴気なんか、やばいな、どの方向かだけでもわからへんか?」
「色付き?」
「あ~、感情とか気配がのっかったモンとでも言えばええやろか、で、どっからや?」
問われてエリィは再度周囲へ感覚を飛ばす。
徐々に感知範囲を広げ
「こっち!」
「僕が見てくる、エリィはここで待っとって!」
エリィが指示した方向へ身体を向けながら彼が言い放った途端、その身体を薄く包むように薄緑色の魔力層が作り出され、低姿勢から勢いよく地面を蹴って飛び立った。
その姿はまるで弾丸のようで、とてもではないが追いつけそうにない。
「ちょっと!!」
呼び止めようと声をかけたときには、もうアレクの姿は見えなくなっていた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
至らぬ点ばかりのお目汚しで申し訳ない限りですが、いつかは皆様の暇つぶしくらいになれればいいなと思っております!
リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。