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192話 各々の階(きざはし)



「これは……」


 テーブルに広げられた書類にはスオーラ伯爵のサインがあった。


「スオーラ伯爵と言えば、辺境貴族家の?」

「そう。そして我が母の生家、ガザロン侯爵家の遠縁でもあるな」


 ローグバインは記憶の抽斗をひっくり返す。

 元々はホスグエナ伯爵領の隣領を治めていた家門で、可もなく不可もなくの辺境貴族家の一つだった記憶を何とか引き出した。

 生憎とローグバインが籍を置いていたティゼルト辺境伯家とは接しておらず、それ以上の情報はとなると曖昧ではあるが、確か5年前の件による領地再編で南の方へと領地替えになった辺境貴族家の一つのはずだ。


「ガザロンの祖父母がオリアーナ嬢ならば是非家でと言っていたんだが、あまり目立って彼女に危険が及ぶ事態は避けたくてね。無難にと考えた結果だ。

 今回は伯爵家から侍女としてテレッサの宮に入ると言う体で来てもらう予定なんだがどうだ?

 あぁ、勿論この件が片付いたらガザロンの方に入ってくれても構わないし、ティゼルトの名を残したいという事であれば、当然協力しよう。

 まぁそれが可能かどうかはさて置き、だがね」

「……ぁ、いや、わかった」

「まぁ、そのまま来て貰ってもよかったんだが、精霊と子供という爆弾が一緒にやって来るし、何より宮殿内警備の第1騎士団がワッケランと繋がっている可能性が高い。

 入ってくるときに警戒されるのは避けたい所なのだよ」


 困惑気な表情のローグバインを横目に見ながら、にこやかにソアンが話す。


「それにオリアーナ嬢は平民となって暫く経つだろう? 行儀見習いの為という理由も齟齬が生じないと言える」

「………」


 沈黙してしまったローグバインに、ソアンが片眉を上げた。


「どうした? 何か問題がありそうか?」

「いや、ただ、オリアーナ様がどう思われるかとつい、な」


 戸惑うようにローグバインから呟かれた言葉に、腕組みをしてソファに身を預ける。


「ふむ……一応こちらとしてできる準備を整えただけで、それを活用するかどうかはオリアーナ嬢に任せても良いのだが……」


 ソアンはソファにドッカリと凭れ込んだまま双眸を閉じる。


「その辺の調整もログに一任しよう。ただ、叶うならこちらの手に乗ってほしいとだけは伝えてくれ」

「すまない」

「ログが謝る事ではないだろう? お前が彼女の気持ちを大事にしたいというのはわかるし、それでも尚こちらの事情を押し付けようというのだから、お互い調整して歩み寄る事は必要だろう」

「ソアンからの命と言えば黙って従ってくれるかもしれないがな」

「私の名程度でどうにかなるなら、いくらでも使ってくれ。

 それに私はログの想いも叶えてやりたいんだよ。お前は私にとって仲間で友人であると同時に弟のようなものだ。ヒースだって同じ思いだと思うし、何より今は亡きイグルークもそう願ってると思う」

「イグルーク……兄上…」

「あぁ、彼女が貴族の地位に戻る事は悪い事ではないはずだ」


 ―――コンコンコン


 ノックの音に一瞬双眸を眇めたソアンだったが、直ぐに表情を切り替え入る様に指示を出した。

 開錠する音の後に扉が開き、ヒースが入って来る。


「返事が届きましたのでお持ちしました」


 ヒースが頭を下げながら一枚の紙をソアンに手渡した。

 その様子にむすっとした表情を隠しもせず、言葉と短く言いながら受け取る。

 ゆっくりと頭を上げたヒースは苦笑していた。


「ふ……やっと頷いたか」

「全く、どんな手を使ったんだ?」

「大したことはしていない。王都支部のギルド長にちょっとお願いをしてみただけさ」


 その言葉でローグバインとヒースは同時に天井を仰いだ。


「気の毒に」

「あぁ、気の毒としか言いようがない」

「何が気の毒なんだ。私は実に良い仕事をしただけだろう?」


 ヒースが肩をガクリと落とし、生暖かい視線をソアンに向ければ、口をへの字に曲げる。


「何がいけないと言うんだ? 私はテレッサから人選を依頼されて、最高の相手を見繕っただけだと言うのに」

「しかしなぁ…テレッサ様には反対に辛い人選なんじゃないのか?」


 どうやらヒース達はテレッサ王女の感情を心配して難しい顔になっていたらしい。


「テレッサ王女はまもなくノークヴェーンの貴族と婚約が整うんじゃなかったか? そうなれば……」

「ふむ、テレッサの気持ちを乱すなと、そう言いたいのか?」

「彼女は王女としての立場も義務も理解している。だから否と言う事無く嫁いでいかれるだろう……勿論、想い人にエスコートしてもらうと言う、最後の良い思い出になるかもしれないが」


 ヒースが暗い表情で途切れさせた言葉を、ローグバインが引き取った。


「そうだな。テレッサ王女はずっとヴェルザンを想っていらっしゃったからな」

「あぁ、しかし王や王妃は良い顔をなさらなかったんじゃないのか?」


 テレッサ王女自身が初恋だと言って憚らず、その恋心も知る身としては、遣り切れないとばかりに暗い表情のまま、お互い言葉を詰まらせるローグバインとヒースに、ソアンがニヤリと片頬を引き上げた。


「あぁ王妃、義姉上の方は問題ないぞ。ノリノリで賛成してくれたからな。ただ兄上の方は何分年齢差があるせいで乗り気でないのは本当の事だ。まぁ、兄上が何を言おうと関係ない。

 そうだな……今ワッケラン公爵家に反旗を翻す様な輩はいないだろう。それ故カレリネが王位継承権を持つことが出来た。あいつが兄上の子でないとしても、だ。

 だからこそ何とかして国外に出すべくカレリネの婚約は整えたが、あいつは不満しかなかったようだ。もっともやらかしてくれたから今更推し進める事もできないし、解消の話し合いを既に進めているよ。解消になるのか破棄になるのか、その辺りも含めてね」

「ということはテレッサ王女を国外に出さないと?」

「前提がかわったのだから国外に出す必要もないだろう?

 ノークヴェーンとの話はまだ合意に達したわけじゃなく話し合いの途中だった。あちらの令息の年齢がまだ10歳だったか? だからノークヴェーン側としても、もう少し年齢的に見合う令嬢がいればそちらの方が良いだろうし、その意思確認も終えている。この国に3家ある公爵家の内、ヤタリシエの令嬢が7歳だったはずなので、そちらに変更すると言う話で既に進み始めているんだ。

 国内の力関係としても王家としても、中立派のシセドレ公爵家と縁づけるならその方が良い」


 なるほどと2人は頷いた。

 カレリネ王女は現王の血は引いていない。公然の秘密と言うやつで誰も口にはしないが、貴族ならまず知っていると言うか察している事だ。

 だが、前王のやらかしで求心力を失くしていた王家に、ワッケラン公爵家の後見は不可欠だった。

 勿論ワッケラン公爵家以外にも、ヤタリシエ公爵家、シセドレ公爵家はあったが、貴族たちのご機嫌を取らねばならなかった当時には、貴族派閥からの力添えがどうしても必要だったのだ。またシセドレ公爵家には令嬢がおらず、この点でもシセドレ公爵家は後見候補から外さざるを得なかった。

 ワッケラン、ヤタリシエと言う残る公爵家2家ともに貴族派閥ではあったが、資産的にも力量的にもワッケラン公爵家一択状態だったのだ。例えワッケラン公爵自身が、ヒッテルト4世ではなくその兄であるタッシラを贔屓していたとしても。


 だがワッケラン公爵家、その子飼いのホスグエナ、カレリネ王女もやらかしてくれたおかげで、一掃し貴族派閥の力を大きく削げるかもしれない局面に持ってくることが出来た。

 ならばテレッサの恋の成就に手を貸すのも吝かではない。いや、ソアンとしてはむしろ積極的に手を貸したい。何なら罠を仕掛けて囲い込む気しかない。


「ヴェルザンも可哀そうに。折角逃げたのにな」

「だがシセドレ公爵はこの事態も見越していたのか? ヴェルザンは除籍されていないだろう?」

「ヴェル本人はずっと頼んでいたみたいだがな。まぁ何にせよ今度は逃がさないさ」


 しかし、そこでローグバインの表情がスンと落ちた。


「だが……ヴェルザンの気持ちは? もし他に想う相手がいたら……」


 ローグバインの呟きにソアンとヒースが同時に目を丸くして顔を見合わせた。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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