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188話 それぞれのその後 その6



 返信すれば本当に待ち構えていたのだろう、速攻で返事が来た。

 今度はかなり文章量があるが、要約するとホスグエナの長男を保護したのだが、どうしたらいい? という内容だった。

 最初の文書に『困った事になった』と書かれていたので、思わず頭を抱えたが。これは紛う事無く頭痛案件だ。


 暫く考え込んだ後、全て王都に任せた方が良いと結論付ける。なにしろこんな辺境のトクスでは保護も何も手が回らない。

 実際パウルに逃げられると言う前科があるのだ。まだトクスに到着してはいないが、そのうちここへ着くコッタム子爵共々王都で保護してもらった方が間違いがないだろう。


 オリアーナへ返信する前に王都のソアンへその旨を送れば、少しの間の後了承が返ってきた。すぐさまオリアーナへ連絡する。彼女の事だから放り出すことなく付き添ってくれる事だろう。

 コッタム子爵は会って話をしてからになるが、恐らくゲナイド達と共に王都へ向かってくれるだろうと思える。

 後はエリィには一応隠さず伝えておいた方が良いだろう。


 そう考え、今、エリィが宿泊する宿の部屋の前で待っている。




「済みません、お待たせしました」


 エリィは扉を開けると中へどうぞと言わんばかりに、間を作るように少し避ける。それに済みませんと返しながら室内へ足を踏み入れれば、セラとアレクがじっとヴェルザンを見つめていた。

 少々居心地の悪さを感じ、早々に辞そうと入ったその場でヴェルザンは話し始めた。


「お返事をお待ちすると言ったのに済みません」

「あぁ、いえ、明日にでも伺おうかと思ってたんですけど、先に返事しますね。王都に向かいます」

「あぁ、それは良かった。ギルドの力だけでどうにかなれば良かったのですが、身分を笠に着られますとどうしても……それならいっそ手出しできないほど目立ってしまった方が問題は少なくできるかと」

「はい」

「それで、エリィ様が王都へ向かうという事であれば、やはりお伝えてきてよかった。オリアーナ様も別件で王都へ向かわれます。あとゲナイド様達も向かってもらえればと考えています」


 オリアーナとゲナイド達の動きは、特にエリィと関わりがないと思うのだが、どうして伝えに来たのだろう。


「それで、もしかして途中出くわすこともないとも限りません。ただその時、オリアーナ様やゲナイド様達がどう振る舞うかわかりませんが、それに合わせて頂ければと思いまして、先に伝えに来た次第です」


 あぁ、なるほど、何か事情があってオリアーナもゲナイド達も動いているのだろう。だから例えば、他人の振りをして来るようなら、それに合わせてくれという事か。


「わかりました。私達も明日には出発する予定です。ここでお会いできましたので、ご挨拶には伺わずに、そのまま出発しますね」

「承知しました。

 それとお預かりした証拠品なのですが、ついでと申しては何ですが、エリィ様が移動するときに運んでもらえませんか? あぁ、村サブがまだ戻ってないので報酬の決定が遅れていますが、受け取りは王都のギルド舎でも可能なのでご安心ください。証拠品運搬の追加報酬ももちろん加算しておきますので」


 追加報酬も出るのであれば構わない。どのみち収納に放り込む以外の手間はかからないのだから。


 時間としてはそれほど長く接したわけではないが、濃密だったせいか一抹の寂しさの様な物が無きにしも非ず。

 とは言え色々あった辺境の村トクスから離れ、皆が王都へ向かう事となった。







 ―――コンコンコン


 少し余裕のないノックの音から、急いで駆け付けた事が窺えた。

 苦笑交じりに扉脇に控えているヒースに頷けば、彼が扉を静かに開く。

 扉の向こう、隙間から見えるのは第2騎士団副団長ローグバイン・ビレントスだ。


 ヒースに促されて室内に入ってきたローグバインを、座ったまま目線で向かい側のソファに誘導すると、ソアンはお茶のお代わりを伝えてきた。

 その為ヒースは一礼して場を後にするが、それを見送ったソアンが口角を引き上げた。


「これまでの膠着状態が嘘のように色々進み始めたな」


 目線の誘導を違えることなく向かいのソファに腰を下ろしたローグバインが、がくりと肩を落とし盛大な溜息を零す。


「割れ壷団長の処分通達も行っただろう?」

「あぁ、おかげで天手古舞だよ」


 疲れ切った声で言うローグバインに、ソアンは踏ん反り返ってフンと鼻を鳴らした。


「あれが囮だ何だと騒いだせいで、ホスグエナの捜査に支障が出たんだ。処分は遅すぎるくらいだよ。まぁ、おかげで第3と持ち場交換なんて幸運にも恵まれたのは僥倖だったが」

「まったく……こちらとしては身動きはしやすくなったが、その分忙しさが半端じゃないよ」

「フ…何とか乗り切ってくれ」


 含むようにソアンが笑んでいると、お茶の用意に下がっていたヒースが戻ってきた。

 お代わりのお茶にジャムを入れてご満悦の様子だが、そんな忙しいにもかかわらず呼び出した用件を聞かねばならない。


「それで? こう忙しいときに態々呼び出したんだ。何があった?」

「あぁ、風雲急を告げると言っても良いかもしれないね」


 ジャム入りの紅茶をソーサーに戻し置いたソアンが、にっこりと笑う。


「まぁ色々だよ。ホスグエナの長男は見つかるし、コッタム子爵も保護できそうだ。更には数々の証拠品が王都にやってくる」

「………え?」


 告げられた情報量の多さにローグバインが、目を丸くする。


「ついでに西の森の瘴気が後退したと言う喜ばしい事実と、色々な不祥事を覆い隠してくれそうな爆弾も一緒に、後……オリアーナ嬢も、な」

「……そんな話聞いてないぞ」

「それはそうだろう。ついさっきヴェルから届いた所だからね」

「ッ…」


 もやもやしているだろうローグバインに、ヒースがその肩を叩いて苦笑する。


「落ち着け」

「わかってる」

「とりあえず俺の方からの報告を」


 結構な紙束をいつの間にか持ってきていて、それをテーブルの上に置く。


「まずは『実験』とかいう話だが、噂程度はつかめたが、あまり進展はない。早々に証拠隠滅に動いていたようだ」

「ふむ。まぁそうだろうな。それについてはやって来ると言う証拠品を待っても良いかもしれないね」

「あぁ。もうこっちが動いているのは向こうも承知しているし、それで諦めたのかはわからないがホスグエナは今の所動きはない。大人しいもんだよ。だがワッケランと王兄は…」

「あぁ、あれらが大人しくなる事はないさ」

「そうだな。それでなんだが第1王女の方に動きがあった」


 ソアンとローグバインの視線がヒースに集まる。


「ナゴレン侯爵の夜会に参加するようだ」

「ナゴレン? あぁ、何と言うかパッとしないあれか」


 本気で忘れていたのだろう、一瞬だが完全に沈黙したソアンが手を打った。

 ちなみにローグバインはつい最近覚えのある名だったので、直ぐに思い出せた。


「招待客のすべてを把握できたわけではないが、ナジャデール王国の商会が来る様だ」

「ハッ、何ともわかりやすい。

 しかしナゴレンか……さっぱり印象も何も記憶にない家なんだが、可もなく不可もなくと言った貴族家ではないという事か」

「それでなんだが…」


 ヒースが殊更ゆっくりとローグバインの方へ向き直り、にっこりと微笑む。


「ナゴレン侯爵家の夜会参加潜入と、オリアーナ嬢含め諸々の受け入れの件、どっちに従事する?」

「な、何故その二択なんだ」


 狼狽えるローグバインに、ずいとヒースが詰め寄る。


「ナゴレンからの紹介状送られてきてるんだろう?

 まぁどっちでも良い、まだ間はあるからな。お前の好きな方を選んでくれ。どっちになっても俺は困らない。まぁ受け入れ云々の方をお勧めしてはおく」

「そ、それは何故、だ…」

「あ? お前あそこの行き遅れに目をつけられてるらしいじゃないか」

「!」


 そこまで大人しく聞き手に回っていたソアンがニヤリと笑って身を乗り出した。


「ヒース、そんな面白そうな話、何故私にしない?」




ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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