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187話 コダルサから届いた伝書



 掌握画面でスー達に鶏や牛の捜索を命じようとして、ふいにエリィは固まった。

 エリィが実際に見たり聞いたりして『そうと感じた物』については意訳翻訳されるのはほぼ間違いないだろう。しかし前世でそう言っていた物を、そのままこちらの世界で理解してもらえるだろうか。

 ここは素直に相談した方が良い。


【皆、今少し良い?】

【はい、如何なさいましたか?】

【どないしたんや?】


 今異空地に居るのはエリィとルゥ、ムゥ、後はビー達だけで、他は外、宿の方に居る。スー達は宿にも居ないが……。

 まぁそんな事情なので念話で相談する事にした。


【実は……】





 相談した結果、一番役に立ってくれたのはアレクだった。

 フィルとレーヴは、確かにエルフレイアがら『トリ』だとか『ギュウ』だとか聞いた事はあったらしいが、それがどういう生き物化までは聞いた事がないと言う。

 専らそれらの単語が出るときには食べ物の話で、その供給源となる生き物の話になった事はなかったのだとか。そう言う事ならわからなくても仕方ない。

 アレクは地球の方へもエリィの魂を探して何度も行ったことがあるので、あちらの事もある程度走っていると聞いて納得した。


【せやなぁ、ただ魔物と動物、どっちがええのん?】

【どっちって?】

【ミルクや卵を目的としてるんやったらどっちでもええと思うけど、ほら、エリィは名前つけたら色々と繋がってまうやろ?】

【……】


 確かにそこまで考えていなかった。

 名前を付ければ脳内会話ができるようになる可能性があった事を失念していた。アレクの言う通り、食肉用を想定していなかったので問題ないと言われればそれまでだが。

 そうなると普通の動物の方が無難な気がする。


【動物の方やな? ちょい待っとってや。こっちで相談するさかい】

【了解】


 待っている間、ルゥに動物の食草になりそうな植物について聞いたりして時間を潰す。動物によって食べてはいけない植物もあるから、その辺りはしっかり押さえておかな狩ればならない。


【エリィ、今ええか?】

【ん? 大丈夫だけど、どうなったかしら?】

【どっちも候補は決まったさかい、スーを寄越してくれへんか? どんな生き物探すんか直接教えるよって】

【わかった】


 掌握画面でスー達への命令を書き換える。

 これで鶏と牛の探索は進むだろう。そう考えればエリィの頬が緩むのも仕方ない。

 シミュレーション等に限らず箱庭系でも、こうナイナイ尽くしの初期が一番楽しいのだ。勿論異論は認める。

 今はゲームではなくリアルではあるが、チート能力他も相まって至極ゲーム的な部分が多く感じる。苦労する部分もこれから出てくるだろうが、それはそれだ。


 異空地に足を踏み入れた途端のレベルアップ、そこからの建設、捜索と色々な事を一気に推し進めてしまったが、折角居住小屋もできた事だし、先にアンセとフロルを異空地に招いてしまうかと考えた所で、フィルから念話が入った。


【エリィ様、来客のようです】

【来客? 誰かしら……了解、一度出るわ】


 ムゥとルゥへの挨拶もそこそこに異空地から宿の部屋へと戻る。時盤は持っていないので断言はできないが、窓の外に落ちる影の様子から、結構時間が経っていたことが察せられた。


 ―――コンコンコン


 ノックの音に意識を戻し返事をする。


「はい、済みません、少しお待ちを」

「あぁ、エリィ様、いらっしゃったようで助かりました。はい、お待ちしております」


 扉の外から帰ってきた声は、今朝方も聞いたヴェルザンの声だった。




 少し時間を戻し―――


 エリィを見送った後ヴェルザンは、ソアンとの通話で倒れたザイードを部屋に寝かせてから戻ると、流石に少し休憩したくなったのでキャビネットに近づき中を漁る。

 何もない事にがっくりと肩を落とすが、いっそ食事にしてしまうかと食堂へと足を向けた。


 ギルド舎内に設置された食堂が込み合うのは夜から朝にかけてだ。

 依頼の報告や納品にギルド員達が次々訪れ、そのまま食事や酒盛りになる。そこから朝まで騒ぐ者もいるので、食堂の職員たちは昼夜逆転になってしまっい、夜勤専門にしている者も多い。

 そんな理由で食堂の職員は朝と夜とでは顔ぶれが違う。だというのに、いつ来ても見かける顔がある。

 トクス村ギルド舎食堂料理長ボッソル、その人だ。


「おう、補佐殿、どうした? こんな時間に」

「ボッソルさん、貴方いつ寝てるんですか……」

「あ? 適当に寝てるぞ。で?」

「あ、あぁ、少し早いですが昼食を頂こうかと」

「おう、そんじゃカウンターで良いか、注文はお任せで構わんだろ? 適当に座って待っててくれや」


 色々とやらかしてくれた夜勤組ではないが、食堂職員は全員搾り上げられたので、ヴェルザンの顔を見て慌てて背を向ける者や棚の陰に隠れる者もいて、苦笑するしかない。


「待たせたな」


 そう言って料理長ボッソルがカウンターテーブルに置かれたのは、見慣れたパンとスープ。焼いた肉と緑一食のサラダだ。

 スープを一口して、ヴェルザンはホッと息を吐く。

 恐らくエリィが口にすれば眉間の皺を深くしそうな味付けだが、この世界に生まれ生きてきた者にとっては薄すぎる味付けも、反対に塩辛いのも馴染みの味だ。


「なんだなんだ、こんな時間から疲れ切ってんじゃねぇか」

「はは、まぁそうですね…色々あるんですよ」

「最近忙しそうだからしゃーねぇだろうけどよ、ちゃんと食事と睡眠はとれてんのか?」

「昼夜問わずここに居るボッソルさんに心配されるとは」

「補佐殿、俺に酷すぎね?」


 確かにここ最近は何気ない会話を楽しむような余裕もなかったと、しみじみ耽っていると、入り口の方からケイティの声が響いてきた。


「ヴェルザンさーん、食事中なのにすみません。ティゼルト隊長から封書送るって連絡が来てます」

「ティゼルト隊長から? あぁ、わかりました。すぐ見に戻ります」


 伝えなければならない事は伝えたと、直ぐに窓口に戻るケイティを見送ると、カウンター越しにボッソルが難しい顔をしていた。


「村マスが戻った事は聞いてるし、まだ動けない事も聞いた。だから補佐殿が中心になるしかないのはわかるが、だからこそ倒れたらまずいってのはわかってるだろうな?」

「えぇ、十分に」

「また後で来い。作り直してやるから」

「ありがとうございます」


 そう言うと直ぐにカウンターから離れ、送られたと言う封書の確認に向かった。


 確かに届いていた封書を広げ中を見た途端、ヴェルザンは頭を抱えた。



-------------------------------


 ヴェルザン殿へ。


 ナゴッツに盗賊の回収に向かったが、そこで少々困った事になった。

 今コダルサに居る。盗賊の護送は無事終わったが、その後どうすべきか判断に困っているので相談に乗ってほしい。

 返信はコダルサの詰め所に頼む。


-------------------------------



 どんな困った事が起きたのか想像もつかないが、恐らくオリアーナはコダルサの伝書箱近くで返信を待っている事だろう。

 とにかく返事を送らねばなるまい。




ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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