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185話 『ありがとう』と『ごめんなさい』



 少しばかり渋々と言った空気を隠さず、セレスが俯いたままのアンセとフロルに近づく。ポリポリと後頭部を掻く仕草にどういう意味があるのかわからないが、そんな仕草をしながら足を止めてぼそりと呟いた。


「その…そんなつもりじゃなかったんだよ。お前らならわかってくれるよな?」


 セレスが言葉にすると同時に、フロルが顔を上げキッと睨みつける。そして言い終るや否や右手を大きく振りかぶり、彼の頬を綺麗に打ち抜いた。


 パァァァァァン!!!!!!!


 キレッキレの音を立てて頬を打たれたセレスも、それを止める間もなかったアンセも微動だにせず固まっている。


「セレス! 私達に謝るより先にエリィ様に、エリィ様達に御礼は!?

 誰が貴方を助けてくれたと思っていますの!?

 ほんっと信じられませんわ!……どういう了見でいらっしゃるのか、私には理解できません!!

 それにその言い方は何ですの!? それで謝罪なさっているつもりですか!? 心底あり得ませんわ!!」


 打ち抜かれて赤く腫れあがった頬を手でおさえながら、セレスは下唇をキュッと噛みしめた。

 ぷるぷるの唇をへの字に曲げて、セレスを叩いた方の手をブンブンと振りながら、フロルはそのきつい眼差しを今度はアンセに向ける。


「お兄様もお兄様ですわ!! セレスの友人と自称なさるなら、その友人を諫めずして何としますの!?

 いったい2人して何年生きていらっしゃいますの!?」


 フロルの剣幕の前に、実は自分が口を挟もうとしていたフィルも黙り込む。


「ぁ……ぅん、そうだね。ごめん。エリィ様もごめんなさい」

「ふぇ!? ぃぁ……私は別に…」


 口を挟めなかったのはフィルだけではなく、エリィも蚊帳の外気分でいたので反応に困ってしまう。


「甘やかしてはいけません!! 確かに精霊は季節を運んだりするお手伝いをしております。ですがだからと言って偉い訳でも何でもありませんわ!

 私達は古くからの役目を果たしているにすぎませんの!

 にも拘らず傲慢になり、瘴気の中へ突っ込み迷惑をかけるだけでは飽き足らず、助けてもらった御礼も言えないなど……許してはならない行動ですわ!」


 正論すぎてぐぅの音も出ないのか、セレスは黙り込んだままだ。

 そんなセレスにアンセがそっと顔を向ける。


「セレス、フロルの言うとおりだよ。まずはエリィ様達に御礼を言わないと。

 本当に……本当にエリィ様達には何日もご迷惑をおかけしたんだ。途中で諦められたって仕方なかった程に。

 だけどセレスを救出してくれたんだ」


 フロルのように鋭くない、静かに諭す様な言い方で……だからこそ心を抉ってくる。

 セレスは下唇を噛んだまま、ギュッと両手を拳に握りガバリと頭を下げた。


「ごめんなさい! そして助けてくれてありがとうございます!」


 頭を下げたまま『待て』の状態になっているセレスとそれを向けられているエリィに皆の視線が集まる。

 いやまぁ『ありがとう』と『ごめんなさい』が言えるようなら良いのか……前世日本人時代で幼かった頃、勉強は馬鹿でも良いから『ありがとう』と『ごめんなさい』は言える大人に育ってくれと言われていた事を思い出した。

 だからセレスも謝れるなら一旦矛を収めるとしよう。

 それ以外は今度の態度言動如何だ。

 もっとも自分が嫌だからと言って強要する事など出来ない。だがセレスが望んで行動を共にしたいと言うならば、こちらが譲れない部分は宣言しておく方が良い。


「ァ、ハイ」


 矛を収めるとした以上、それ以外に言い様もない。

 激しくセレスの態度とフロルの剣幕に出鼻を挫かれ訳だが、実の所ヴェルザンからの提案の返事を待ってもらっている状態なので、この件はここまでにして、まずは全員に状況の共有を優先する。


「なるほどねぇ、アタシはアリだと思うよ。王侯貴族なんて訳のわかんない輩に頭下げるなんて真っ平ごめんだしねぇ」

「ワタクシめも否やはございません。エリィ様御身の尊さを人間種如きに理解できるとも思えませんが、知らしめるのは悪い事ではございません」

「せやなぁ、なんや乗せられんのも癪やけど、その方がコソコソせんでええやろしな」

「無駄に手出ししてくるような者達を牽制できるのであれば、その方が良いですわ」

「僕達が正々堂々と精霊だって言って姿を見せれば良いだけなら、拒否する理由はないです。それに僕達は後は異空地に居て良いのでしょう?」

「それは勿論。ムゥとルゥがお世話してくれて、蜜蜂達も来て貰ったけど、まだそれだけだからね」

「エリィ様の異空地なら何でも育てられそうですわ。あぁ、どうしましょう。あれもこれも、育ててエリィ様に召し上がって頂きたいものが沢山ありすぎて」

「フロル落ち着いて」


 はしゃぐフロルたちを後目に、しょげかえっているのはセレスだ。


「俺は……どう、すれば……俺」


 微かな呟きを耳で拾ったエリィは頬を指先でトントンとしながらセレスの方へそっと近づいて内緒話のようにこっそりと声をかける。


「精霊の担っている仕事と言うのを私はわかっていないのだけど、少し留守が問題ないなら一緒に来る?」


 お子様俺様は嫌いだが、だからと言って打ちのめしたまま放置する程、底意地は悪くないつもりだ。

 エリィからの囁きに、セレスの顔に喜色が一瞬で浮かぶ。


「い…いいのか……俺、ずっと森の中で暮らしてて、外も一度くらい見て見たかったんだ」

「但しさっきも言ったけど、お子様俺様は、私は本気で苦手だから気を付けてくれるかしら? まぁそういうのが好きな人もいると思うけど、私はそうじゃないから。単に好悪の話なだけで、そういう人の方が好みだって方はいると思うけどね」

「ぅ、うん、気を付ける」


 素直にコクコクと頷く行動に、少し離れた場所に居たフィルが呆れたような顔をした。


「まったく……ワタクシ達アルメナが、どれほど注意しても改まる事等ありませんでしたのに。やはりエリィ様は素晴らしい」


 そんなフィルの呟きを耳にしたセラが首を僅かに傾けた。


「フィル殿、アルメナは精霊の補佐をしていると言う話であったが、もしや他の精霊達も……?」

「あぁ、そうでございますね。光と闇はまだしも、それ以外には我が兄弟も手を焼いております」


 この話はこれ以上突っ込まない方が良いと判断したセラは、そっとフィルから離れアレク達の方へと足を向けた。


 とにかく方針は決まった。

 ヴェルザンに返事をしなければならないが、エリィが渡されている伝書箱は受信専用なので、後で間が出来た時にでも良いだろう。後はどうしようと考えて雛菊の意匠のコインを取り出した。

 結局返しそびれてしまったが、彼にも一応伝えておくべきだろうか。


 今回の件に限りと考えていたが、あちらから今後の縁を求めてきたのだし、何より人間種の伝手はあるに越した事はない。

 ならば邪険にする必要もない。


 名をつける事でやはりと言うか何というか、チャンネルが開いてしまったと言うべきか……念話が通じるようになってしまったノルシークにも、一応王都へ向かう予定を告げておくとしよう、そうしよう。


 そして念話を繋げば酷く驚かれたが、肝が据わっていると言うべきか、意外とすんなり受け入れるノルシークに苦笑が浮かぶ。

 王都に向かうと告げれば、少しの間の後に分かったと言う返事があった。

 ついでにコインの返却について訊ねれば、邪魔になるなら捨てればいいし、ならないなら持っていれば良いと言う返事だった。


 まぁ、良いのか……? 良しとしよう。


 エリィは収納へコインを放り込んだ。



ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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