183話 ヴェルザン、王都へ報告
エリィを見送ってすぐ、ヴェルザンは簡単な手紙を認めた。
宛先は王都、ソアン。
エリィから託された品々の事をまず報告せねばなるまい。それと村マスの帰還と村サブ発見、そして精霊についても忘れないようにしなければ。
「これらが閣下達の更なる一助になれば良いのですが」
伝書箱に手紙を放り込んで、少し休憩しようと立ち上がった所で着信があった。
返信だとしたら随分と早い反応になるので、ギルド関係かと思いながら確認してみれば。
『話がしたい』
自分以上に簡潔な文面に苦笑が洩れる。
ヴェルザンは指先をそっと躍らせ、返信文を消し去ると、ザイードの部屋へと向かう。
エリィ同様、もうザイードの軟禁は解かれているのだが、丁度良いとばかりにちゃっかり休暇申請をだしたら通ってしまったので今も絶賛滞在中だ。
それならそれでギルド舎の一室に籠っている必要はないのだが、聞けば自室より備品が揃っているらしく、休暇中はここで過ごしたいと言うので放ってある。
単に放置していたにすぎないのだが、思わぬところで功を奏した。
―――コンコンコン
扉をノックすれば欠伸交じりのボンヤリした応えがあった。
「……ふあぁぁ~い」
「まだ早い時間にすみません。少し良いですか?」
ヴェルザンの声に気づいたザイードが慌てて扉を開けてくれたが、寝ぐせだろうか頭髪が爆発している。
本当に起き抜けだったようだ。
この分では朝食もまだだろうし、どうしたものかとヴェルザンは腕を組んでしまった。
「ヴェルザン様?」
「ぁ、あぁ、いえ、すみません。少々急ぎでお願いしたい事が……ただ朝食は摂って貰った方が良いかと思った物ですから」
その様子に何か思い至ったのか、ザイードがポリポリと頬を掻きながらヘラりと笑う。
「もしかして繋ぎます? んじゃ急いでなんか腹に入れてから向かうすよ」
「済みません。では私は部屋で待っていますね。あぁ、だけど慌てなくても良いですから。朝食くらいはちゃんと摂って下さいね」
そう言い残し部屋へ戻ったヴェルザンは、まず少し時間を貰いたいと伝書箱から送り、ザイードが来る前にとエリィが残して行った品々の整理をし始めた。
見れば見るほど出所を問いただしたくなる証拠品だ。
北部のドラゴン騒ぎの首謀がホスグエナだと分かる品もあるし、何よりワッケランとの関係を示す手紙に、王兄タッシラとの繋がりもこれで分かる。
ケッセモルトが情報を流していた事も、最早言い逃れできまい。
メナルダ、モーゲッツの名は言うに及ばず。それどころか他の貴族家の名もちらほら散見される。
しかも『施設』なる新情報まである。その施設で何をしていたのかははっきりと記されていないが、他の資料と照らし合わせれば薄っすらと見えてくるものがある。
多くの人間種の搬入。各種薬品の輸入、中には禁輸品まであるのだ。
―――コンコンコン
扉をノックする音で、すっかり証拠品に見入っていたヴェルザンは、ハッと顔を上げた。
「どうぞ」
「すまね~です。遅くなっちゃって」
「いえ、朝食はちゃんと摂りましたか?」
「はい! もうどんだけ気を失っても大丈夫すよ!」
胸を張るザイードに、ヴェルザンは何も言えず苦笑を浮かべる。
そのままソファに座る様指示し、テーブルにはソアンとの通信用の半割されたオレンジ色の魔石を置く。
準備が整った旨を送信すると、秒と掛からずに返信がある。あちらも待機してくれていたようだ。
それを受けてザイードはテーブルに置かれたオレンジ色の半割魔石を手に取った。
ゆっくりと目を閉じればザイードの手にある魔石が、ふわりと光を帯びる。
光が安定したのを見計らっていると、魔石から声が響いてきた。
《ソアンだ。色々とありそうだな》
「申し訳ありません。文面ではお伝えしきれるとは思えず」
《構わない。それで? まずは証拠品の事を聞かせてくれるか?》
「私もまだしっかりと目を通したわけではありませんので、ざっくりとですが。
過日のドラゴン襲来による北部放棄ですが、どうやらホスグエナ伯爵の仕業のようです。あとホスグエナとワッケラン、タッシラ殿下のつながりを示唆する手紙など、他にも色々とございます」
《な! それは誠か!?》
「はい。勿論、後程改竄等がないか鑑定はしなければなりませんが」
《でかした。あぁ、もうその報告だけで私は満足できる》
「それ以外にも村マスが無事帰還しました。ただ村サブの方からの報告が少々……」
《二人とも無事だったのだな。それに何か問題でもあったのか?》
「先日よりの気候の変化にお気づきでしょうか?」
《ん? あぁ、そういえばやっと風が緩んできたな。それがどうした?》
「実は精霊なる存在に出会ったと」
《………………いや、ヴェルを疑うつもりではないんだが……お前、正気か?》
「えぇ、しっかりと正気です。村サブはしっかりとその目で見たと報告して来ています」
《ふむ……だがそれの何が問題だ? どのような夢想だろうが公にしなければ良いだけの話だろう?》
「そうなのですが、私としましては公にして頂ければと考えています」
《……どういう意味だ?》
「こちらで囮にしてしまった新人ギルド員がいた事を覚えていますか?」
《あぁ》
「彼女が関わっているのです。村マス村サブの救出をしたのも彼女です」
《……ほう 新人と言う割には随分と優秀なようだな》
「はい、優秀過ぎて反対に目障りに思うものも現れるかと」
《なるほど。つまり反対に手出しできないほど目立たせてしまいたいという事か?》
「お察しの通りです。それに彼女自身、あまり身分と言うものに良い印象はない様でして」
《まぁ、早々に巻き込まれたわけだしな》
「はい。証拠品の搬送依頼ついでに彼女に王都に向かってもらおうと思っているのですが、そちらでの受け入れをお願いできましたら助かります」
《ふむ。確かに証拠品はこちらに持ってきてもらった方が助かるが……わかった。手配しておこう》
「ありがとうございます。ただ実を言いますと彼女からの返事待ちですので、後日改めて報告させてください」
ふと魔石を抱えてスキルを発動しているザイードの身体がゆらゆらと揺れ始めている事に気付いた。
「済みません。そろそろ時間切れのようです」
《あぁ、そうだな。報告に抜けがある様なら、後は伝書してくれ》
「はい。それでも伝えきれない場合には他の手段を考えます」
《わかった。それではな》
ヴェルザンの返事を待たずに通信が途絶える。それと同時にザイードの身体がぐらりと傾き、手を伸ばす間もなくソファへ横倒しに倒れ込んだ。
床に倒れたわけではない事にホッとしながらも、エリィからの返事が早く来ればいいのだがと、窓の外、流れる雲に目をやった。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)