182話 提案と委託
「村サブが嘘を吐く必要もありませんが、精霊などと言う存在を鵜呑みにはできないというのが本音です。
ですのでエリィ様にお話を伺いたいのですが」
まぁそうだろうと思う。
普段から見えるなりしていれば兎も角、姿を隠していると言うのであれば、精霊にしろ何にしろ御伽噺でしかなくなるのは必然だ。
そう考えると神様と言う存在にしたって同じようなものだろうと思うのだが、何か違いがあるのだろうか……前世日本人で『苦しい時の神頼み教(つまり信仰心無しだ)』なエリィからすれば精霊も神様も大差ない。
話はズレたが、ここは本人…本精霊? の意向を聞いてからにしたい。
「精霊云々は少し待ってもらえませんか? その当事者がまだ目覚めていないので」
「ふむ……」
考え込むヴェルザンにエリィが更に言葉を続ける。
「実際、精霊だなどと言われても困るのでは? 無駄な騒ぎになるくらいなら、最初から蓋をしてしまえば済む事じゃないかと思うんですが」
エリィからの言葉に一度顔を上げたヴェルザンだが、再び顎に手を当てて考え込む。
少ししてから小さく肩で息を吐いて眉根を下げた。
「そうですね。確かにエリィ様の言う通りではあるんです。
精霊と言う子供を見たと言っているのは村サブ1人。怪我のせいで意識がもうろうとしていたのだろうとすれば済む話です。
しかし……実は追加報告が来ていまして」
「追加報告?」
「はい。西方前線の方からなのですが、明らかに瘴気が後退していると」
なるほど。瘴気が後退したタイミングに何もなかったなら、そういう時期だったのだとか言えるかもしれないが、村マス村サブ救出劇は既に西方前線の者なら知ってしまっている。
聞けば最初は少数精鋭だけで事に当たるつもりだったらしいのだが、副官達がこぞって捜索隊の規模を大きくしてしまったと言う話だ。
しかしそれについては副官達を責めるのは酷だろう……普段踏み込まない場所にも踏み入るとなれば、厳重に準備するのは当然とも言える。
「だったらギルドマスターとサブギルドマスターの尽力によりという事で片をつければ良いと思うのですが?
目立たずに済むならその方が……」
そう、どうせ誰も真相を知っているわけじゃない。目立つことで諸々の厄介事に巻き込まれるのは御免なので、まるっと請け負ってもらえれば、エリィとしては平穏で済んで有難いのだが。
「そういう結末も考えましたが、その、一つご提案があるのですが……。
子供達が精霊であった場合も、私としてはエリィ様、貴方を救世主として報告させてもらうと言うのはどうでしょう?」
いやいや、目立ちたくないと言っているのに何故そうなる? ヴェルザンの提案は想定外すぎる。
「村サブから報酬として昇級も提示されているんですよね?
私としても異論はないですし、すんなり通ると思います。
何しろ村マス、村サブを無事救出したのですから、昇級は妥当なところです。しかし恐らく5階級が精一杯だと思われます。大地の剣も5階級ですしね。あまり一気に上げ過ぎて要らぬ反感を買うのもまずいかと思うのですよ。
ただそうなると5階級と言うのは正直微妙な階級でしてね。実力は認められるが、面倒事は押し付けられる。残念ながら貴族も5階級程度なら対等には見ません。まぁ7階級くらいでやっと言葉を選ぶ程度でしょう。それでも高位貴族ならば普通に下に見てきます。
だったらいっそ目立ち切ったほうがエリィ様としても都合が良いのではないですか? 精霊を救出したことで瘴気を後退させることが出来たとなれば、もう救国の主です。高位貴族も頭を下げねばならなくなるでしょう。
この辺境の村で、下位貴族に絡まれ不自由を強いられたことを思えば、そう言うのも良いのではないかと思ったのです」
目立った方が手を出しにくいという事だろうか。
というかほどほどの階級だった場合、手を出してくるバカが多いという事にならないか?
それはさておき、確かに頷ける部分も多い、だがどちらにせよセレスがどう振る舞いたがるかによるので即答は出来ない。
正直にそう伝えれば、ヴェルザンは胡散臭い笑顔で頷いてくれた。
ならば次は自分の番だとばかりに、エリィは横に置いていた背負い袋から出す振りをして、諸々の証拠品をテーブルに積み上げた。
「これは?」
「実はですね、私、少し前にとある方から色々と譲り受けまして」
ズースの植物図鑑に隠されていた書類や、カデリオ改めノルシークから渡された手帳等々を、ズイッとヴェルザンの方へ差し出した。
訝しげな表情のまま、そのうちの一つ、手帳を手に取った。
ヴェルザンは最初ぱらぱらと頁を捲っていたが、徐々に表情が抜け落ちていく。
「エリィ様、とある方からとおっしゃいましたが、何時何処でこんなものを?」
ヴェルザンは手帳に目を落としたまま問いかけてきた。
「そこはそれ、お察しください? まぁ言う気はないです。その方に迷惑をかける気はないので。
ただ言える事は貴方を信じてお預けするという事だけです。
貴方ならこれらを正しく活用し、役立ててくれると思っているのですが?」
手にしていた手帳を閉じ、テーブルに戻したヴェルザンは目を伏せて嘆息した。
「エリィ様も中は見たでしょうけど、そうですね。
正しく私達が追い詰めようとしている者達に繋がります。一つ一つは小さな証拠でも、これだけあれば……それにこれは大きいですね」
そう言ってヴェルザンが手にしたのは、ズースの植物図鑑に隠されていた書類と、ノルシークの幼馴染の形見でもある手帳だ。
「これは公爵家とのやり取り、そして王兄との繋がりを裏付けてくれます。他もかなり重要な証拠品となるでしょう」
「役に立ちそうなら良かった。私は国のゴタゴタに絡むつもりはないので、まるっと預けられて反対に助かりました。という事で念の為……出所の詮索はナシでお願いできます?」
「承知しました。
まぁここまで入り込んだ情報となれば、繋がり浅からぬ方でしょうが……一つ伺っても?」
エリィは何事かと首を傾がせる。
「その方は今後我が国にとって厄災の種になりそうな方ではないのですよね?」
なるほど。それは確かに知っておきたい所だろう。
だが彼とそういう話は一切していない。
「そうですね、受けた印象のみでのお話になりますが。
友人の為だけに悪事に手を染めた方の様ですし、余程酷い事でもしない限りはひっそりと生きていくんじゃないかなと思います。
まぁ、あくまで私の印象だけですけれどね」
エリィの言葉にヴェルザンがにっこりと笑う。
「そうですか。ならば良しとしましょう」
良いのかと間髪入れずに内心で突っ込んだエリィだったが、問い詰められても困るので黙っておくとする。
なんにせよもう用向きは終わった。早々に退散するに限ると立ち上がった。
「それじゃ私はこれで失礼しますね」
「はい、ありがとうございました。
あぁ、返事はお待ちしていますので、何時なりと。後昇級含め報酬についても後日きちんと纏めておきます」
お願いしますと言いおいて、エリィはそそくさとヴェルザンの部屋から出て行った。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)