181話 ロリでコミュ障で改名 そして新たな面倒事の種
「……えっと、カデリオさんはロリか何かなのかしら? 生憎と見た目と違って中身は幼女じゃないわよ?」
言葉を交わしたのは過日の一度だけ。
にも拘らず『気に入った』とか言われる理由があるとしたら、もうそれしか浮かばなかった。
「ロリって?」
「うぅん、何て言えば伝わるかしらね……幼女大好き…?」
今度はカデリオの方が目を丸くしている。
「あ~、なんかすごく誤解を受けたわけだな。いや、そう取られても仕方ない?」
一人腕組みをしてぶつぶつ言い始めるカデリオに、エリィとアレクは同時に半歩後退した。
「おい、下がんな」
「………」
「えっとだな、幼女だからとか言う理由じゃない。というか俺だってこんなに喋るのは初めてなんだ。こう、どう言えば良いのかよくわからなくてな…」
「ロリでコミュ障?」
「さっきから何なんだ、それ…って、そうじゃなく、アンタからの仕事なら今後も請け負っても良いかと思ってさ」
「仕事?」
無意識の鸚鵡返しをすればカデリオは大きく頷いた。
「俺は殺されても文句が言えねぇ仕事をしてきた。自分で手を下さずとも、俺がした事で間接的に死んだ奴だっている。
勿論望んでやってたわけじゃない。ズースが組織に雁字搦めにされて逃げられなくて、その弱みを握られてズルズルってやつでさ。だからといって俺に罪がないなんてふざけた事は言わねぇ。何たって実兄殺しまでしてるんだしな。
だから俺はいつ死んでも文句はない、しかしこのブローチをデボラさんに届けるまでは死ねなくなった。
だったら金を得るための仕事は選んでもいいかなと思ってな」
「……選んだ結果が私と言うのは短絡的過ぎません?」
「そうか?」
理解できないエリィの方に非があるのだろうか……無駄に爽やかに言い放つ、どことなく影のあるイケメンにもにょる。
「そうだな……アンタに渡した誓文、破くのはこれからなんだろ? ちょっと見せてくれよ」
伸ばされた手に、思わず反射的に誓文を渡してしまった。
受け取った誓文に目を落として、カデリオは薄く笑む。
「やっぱりな。ペナルティは書かれていないし、これ、もしかして発動もしてないよな?」
どうやって見分けるのかさっぱりわからないが、言われたことは事実なので言葉に詰まる。
「これを悪用はしない、その上一方的だと言ってくれたアンタだから、今後もアリかと思ったんだ。何より『これまでの継続を望んでいないようにみえる』と言ってくれただろう?」
なるほど。
確かにエリィには前世の価値観によるものなのだろう、対等な取引が望ましいとという意識がある。どちらかに比重の傾いた不平等は、不満の温床にしかならず不快な気分になるものだ。
そんな事を考えている事に引きずられたのか、前世での一幕を思い出す。
(あれはいつだったかなぁ。笑顔で接客とマニュアルにあるからそうしていれば、『こっちはしんどいのに、何を笑ってんのよ!!』とか、それならと無表情で対応すれば『愛想がないわね! 怖い!』とか、どうすれば満足なのよって奴いたわね……はぁ、ほんと客は神様とか言い出したのは誰よ、あれこそ不平等の体現みたいなもんじゃない。ほんといい迷惑だったわ)
仮面は勿論、それを覆うように巻いている包帯のせいで見えてはいないだろうが、エリィは遠く虚ろな瞳をしていた。
でもまぁ、そういう理由ならアリなのか、仕事は選べるなら選びたいと言うのは普通に頷ける。
そして現在に納得できていなかったのなら、確かにきっかけにはなったかもしれない。
とは言えお願いしたい仕事等、今はないのだが……それをそのまま伝えると。
「あぁ、何かできたら呼んでくれ。それであんたの名前を教えてくれ。それと連絡方法なんだが…………魔物の蜂は勘弁して、くれないか?」
余程恐ろしかったのか、口の端がかすかに引き攣っているのが見て取れる。
どういう状況だったのかわからず聞いてみれば、返事を書く間、ぐるりと取り囲まれて、ずっとカチカチ顎を鳴らされ続けたと言う……うん、それは恐いわ。
今後の縁もあるのなら偽名ではなく呼び名を教えておく方が良いだろうと、名についてはエリィと伝えた。
連絡手段についてはいずれ通信魔具を作るか手に入れるかするつもりなので、それまでならギルド経由で連絡可能ではないかと話す。
折角登録してあるのだ、活用しない手はない。
これで用は済んだと、満足気に立ち去ろうとしたカデリオだったが、ハッとしたように顔を上げた。
「そうだ、ついでに俺に新しい名をくれないか? 自分の名に思い入れなんかないし、嫌悪の方が強いんだ」
唐突な願いにエリィとアレクは思わず顔を見合わせた。
【これってまさか主君スキルのせい!?】
【かもしれへん……】
慌てて念話で相談し、フィルとレーヴが無言になる中、セラが提案してくれた名を伝える。
ノルシーク・ヴァラン
今は亡き古い国の言葉でノルシークは飛翔を意味し、ヴァランは平穏を意味すると言う。
そんな古語を知っているセラの博識に驚いた。
そんなこんなで色々ありはしたが、夜明け前には宿に戻ることが出来た。
軽く仮眠をとった後、先だって渡された物も一緒に全ての証拠品をヴェルザンに押し付けるべく再び出かける。
相変わらずのギルド舎を奥へと進み、扉をノックすると中から返事があった。
静かに開いて中へと入れば、ヴェルザンがにこやかに立っている。
「お待ちしてましたよ」
昨日は何時ごろとも言わずにそそくさと後にしたので、もしかすると随分早い時間から待っていたのかもしれない……申し訳ない事をした。
促されるままに室内に入り、ソファへ腰を下ろすと、素早くお茶が出された。
香りは少し変わっていて、ハーブティーかなにかのようだ。頂きますと小さく呟いてから口にすれば、思ったより飲みやすくてほっとする。
「エリィ様からの報告をお聞きする前に、村マスの回収は無事終わりました。
夜に一度目覚めたんですが、余程眠かったのか再び寝てしまってまだ起きてきませんが、大きな傷もなく……あれ、エリィ様がポーションを使って下さったんでしょう? その分の代金もきちんとお支払いしますのでご安心を」
「道中素材を見つけては練習がてら作った物なので、別にタダでも問題ないですけど、頂けるという事でしたら有難く」
「えぇ、勿論です。まずは感謝を。本当にありがとうございました」
ヴェルザンは座ったまま深く頭を下げた。
その後エリィからは村サブであるマツトーと出会った事、奥に居るはずの村マスの確認をしてほしいと言われた事等を報告する。
昇級や報酬については良い様にしてくれるだろうと、さらっと言うにとどめた。
今回の騒動の発端を思えば中途半端が一番危ないと思われるので、がっつり昇級してくれるなら兎も角、無難に収まるくらいなら辞退しようとも考えている。
エリィからの報告が一段落すると、今度はヴェルザンの方がこれまでの事を話しだした。
携帯伝書箱を持っていたマツトーから西の中央砦経由で連絡が入ったのだが、その時に中央砦からも捜索隊が編成され無事合流、現在護送中らしい事。
当然聞かされる話は西方前線砦の長たるコッタム子爵とやらにも及び、およそ想定外の広がりを見せていた事にエリィは口をへの字に曲げてしまった。
更に不味い事にマツトーが『精霊』の存在にまで言及していた事だ。単に子供とでもしていればよかったのだが、どうやらしっかりはっきり報告していたらしい。
その上砦の方から追加で齎された報告に、瘴気の減退が確認されているという一文があると言う話で、これはタイミング的にも『精霊』と結び付けられるのは想像に難くないだろう。
正直エリィには面倒しかない事態に転びそうで、憂鬱この上ない。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)