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179話 カデリオの受難



 ブゥン…ブゥゥゥゥン


 背筋がゾワリをする不快音にカデリオが囲まれたのは、コッタム子爵領の邸を後にし、聖英堂転移を行って暫くしてからの事だった。


 行きと違い情報を得ながらと言う訳ではなかったので、トクス近くの聖英堂まで一気に飛んだのだが、金がまた減るなと口をへの字に曲げ、腰のポーチから水筒を取り出す。

 少しばかり喉を潤し、魔紋のある部屋の扉から外の様子をまず耳で伺う。

 裏の仕事も請け負う聖英信団なので、魔紋のある部屋は大抵建物の裏側に位置しているのだが、それでも一般信者に出くわさないとも限らない。


 扉越しに外の気配を窺って安全確認をしてから外へと出たのだが、暫く身を顰め夜になってからトクスへ入るかと考えながら少し歩いた所で、冒頭に事態となった。


「!」


 すぐさま身構えるが、その音にカデリオの額から嫌な汗が滑り落ちる。


 昆虫タイプの魔物は毒性も強く、かなり手強いのは事実だが、何より恐ろしいのは群れを成している事だ。

 単体ならば強いと言っても、何とか相手取れるが、集団となればそうも行かない。例え一匹排除に成功したとしても、次の瞬間には別の個体に狙われているのがおちだ。


「ったく……出くわしたくない相手なんだがな…これは流石に俺も終わりか?」


 自分の不運を呪うように一人ぼやくが、そんな呟きに何の効力もない。

 意を決し、剣の柄を改めて握り込み、体勢を低く整える。鞘から静かに刀身を抜き、一歩足を踏み出したところで何かが頭上からひらりと落ちてきた。

 いつの間にか頭上も制圧されていた事に気付き、カデリオの顔色が更に悪くなるが、一瞬だけ落ちて来た物に視線を走らせる。

 落ちて来た物は一枚の紙のようだった。

 何故魔物の蜂がそんな物をと訝しく思ったところで、更に気付くことがあった。


「え……文字?」


 距離はあるとは言え、すっかり周りを魔物の蜂に取り囲まれていたカデリオは、前に進み出てきた蜂の一匹が、その文字の書かれた紙とカデリオを交互に見ている事に気付く。

 もうどう足掻いても逃れようがないと思えば反対に肝が据わり、そろりそろりと細心の注意を払って、その紙へと手を伸ばした。

 不思議な事に、圧倒的優位に立っているはずの魔物蜂は、そんなカデリオに襲い掛かる様子はない。

 知らず息を詰めていたのか、ふぅと息が洩れるのが自分でもわかったが、襲ってこないのであればそれで良いと、とりあえず紙の方に意識を向けた。


 とてもきれいな文字が並んでいる。

 だがそのの字に目を落としているカデリオは、すっかり毒気をぬかれたかのように脱力して頽れた。


「まじか……」


 並んでいた文字は……


《 そっちの状況は如何ですか?

  もし少しでも情報が得られているようなら、今夜あたり何処かでお会いできればと思います。

  返事は蜂ちゃんに渡してください。


  それでは宜しくお願いしますね 》






 一方『深森蜂に配達を任せる』と言う、カデリオを恐怖に陥れる常軌を逸した行動をとったエリィはと言えば、意識の戻らないセレスと眠らせたままのバラガスを連れた状態で、仕方なくのんびり徒歩移動となっていた。しかし、これにエリィが音を上げる。

 どうせ確認だけでも良いと言う条件だったのだから、生きてるだけで御の字じゃないかと問答無用で収納へ放り込んでしまった(設定だけは穴が開くほど何度も確認したのは言うまでもない)。

 おかげで移動はフィルの転移で、あっさりトクス手前にまでついている。

 このまま村に真っすぐ入り、バラガスをギルドに押し付ければ依頼完了となるが、その前にすることがあった。


 周囲に何の気配もない事を確認してから、収納からバラガスを出し、バイタル確認。これ大事。

 呼吸も顔色も特に悪いという事もなく、念の為軽く鑑定してみるが、薬による睡眠状態と出るだけなので問題なさそうだ。


「それじゃセラ、申し訳ないんだけどここで少し待ってて」

「あぁ、承知した。そこの人族の安全を確保していればいいのだろう?」


 何とも気持ちよさそうに眠る中年おっさんに何故かイラッとしてしまうが、苦笑いが歪みそうになるのを抑えつつ、エリィはセラに頷いた。


「うん。セレスは異空地に「却下です」……ぁ~、ぅん」


 フィルが断固反対するのでセレスを異空地に入れることが出来ず、だからといってこのままなのも少し可愛そうなので、当初の予定通りトクスの宿の部屋を最終目的地とし、せめて宿の寝台に寝かせてやる他あるまい。

 となればバラガスが急に宿の方に現れるのは不自然なので、セラに見張って貰いながらここに一旦置いていこうとなったのである。


「万が一目が覚めたら面倒だから、適当に頭叩くなり何なりしといて」


 容赦のないエリィの言葉だが、誰からも反対意見は出ない。

 それじゃまた後でと言葉を残し、セラとバラガスを除く全員がフィルの転移魔法で宿に戻ってきた。


 人気のなかった部屋はひんやりとしていて、陽光のない外より寒いかもしれないが、精霊だし大丈夫だろうと、とりあえず部屋のベッドにセレスを寝かせた。

 どこにも怪我はないし、瘴気の膜は全てエリィによって取り除かれているので、目覚めないのは単に消耗しているからだろう。実際鑑定をかけてみれば疲労状態と出たので特に心配はいらない。そのうち目覚めるだろうと、セレスはそのままベッドに放置し、それ以外の全員で一旦居空地へ移動する。


 入ってすぐ、エリィ達の気配に気づいたのかムゥとルゥが近づいてくるのに軽く手を振って挨拶してから、徐に収納から取り出したのは蜜蜂達の巣だ。

 先だって案内してもらったその場で居空地へ案内はしたものの、『入った場所にしか出る事は出来ない』という制限が現在ある事を思い出した為、後々の事を考えムゥやルゥが入った地点、宿の部屋で居空地に入り直してもらおうという事になったのだ。

 ここから旅立つときには、今一度収納に入ってもらう予定である。


【【おかえりなさーい】】


 ムゥとルゥからの出迎えの言葉を脳内に聞きながら、蜜蜂達の巣をいつの間にか結構な大きさに育っている木の根元に置いて、パネルを呼び出し確認する。

 命令の所に書き込もうとしてエリィは固まってしまった。

 この異空地でしてほしい事は、蜜蜂達にとって特に変わりない日常業務のはずなので、何を書き込めばいいのか考え込んでしまったのだ。

 しばらく考え込んで『平常運転で』と書き込む。

 途端に小さな蜜蜂達が巣から飛び出し、花々に散って行くのを見てエリィは小さく頷いた。

 彼らに通じているならそれで良いのだ。


 改めてムゥとルゥに向き直ると、ムゥが足元で身体を伸ばしながら左右に大きく揺れている。


「ムゥ?」

【うぅぅ~ん、主様、キラキラ卵、ずぅっと卵さんのまんまなのよぉ】


 ムゥが言っているのは以前預けた大籠蜘蛛の卵たちの事だろう。


「あぁ、まだ孵化してないって事ね?」

【はい、あれから近づいたりしてませんが、一応お預かりしましたからね! 偶に様子を見てるんですけど】


 ムゥの頭の上にルゥが乗っているので、ムゥに目を向ければ必然的にルゥも見る事になる。

 それにしてもムゥが大きく身体を揺らしているのに、どうやっているのか全くブレることなく一緒に揺らされているルゥに、感心するような、呆れるような、何とも言い難い笑みを曖昧に向けた。


「まぁ仕方ないわよ。魔物だし、どういう条件で孵化するのかもわからないしね。あ~、死んじゃったとかではないのよね?」

【それは勿論!】


 あんなにビビり上がっていたのに、しっかりと囲われているおかげか、ほんの少し偉そうに胸を張ってルゥが言う。


「だったら暫くはこのまま様子見で」

【【はい!】】

「それじゃ慌ただしくて申し訳ないんだけど、私は出るわね。フィルはついてきてくれる?」


 外に残してきたバラガスも放置できないし、ギルドに向かうにしても無人だったはずの宿の部屋からと言う訳にも行かない。

 そんな理由で一旦村の外へフィルに転移で送ってもらい、外から帰ってきたと言う体を取る予定だ。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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