174話 夕暮れ時の合流
もしスキル使用後、嫌がっていたら速攻解除しようと、近づいてきた蜜蜂にそっと掌握をかける。
案ずるより産むがやすしとはこの事か、あっさりと複数掌握ができた。
画面を見れば、こちらもちゃんと表示が増えている。
掌握1:スフィカ{387}
デル・ファナン・セピトナ{387}
命令:掌握主とその眷属は襲撃不可(永劫継続)
蜜蜂及びその巣の探索{387}:探索完了(対象への攻撃不可)
思念同調:継続中
掌握2:東陸蜜蜂{2581}
※{識別名もしくは識別番号を決定してください}
※{群体名可・個別名可}
命令:設定してください
要望:不明(思念同調推奨)
思念同調しますか? ⇒はい
いいえ
東側の陸地に生息する蜜蜂だから東陸蜜蜂なのだろうか。
何にせよこちらは深森蜂と違い、要望欄が不明になっていて、思念同調推奨になっているのが不思議だ。
魔物である深森蜂達より、昆虫と言う通常生命体の方が遠慮深いとでも言うのだろうか? よくわからない。まぁ推奨されているのならそれに準じるだけだ。
サクッと思念同調を済ませ、群れを呼び寄せれば後は異空地へご案内するだけとなる。何分思念同調した結果、要望は『少し暖かい風が吹いたから出て来たけどまだ寒い。もっと暖かい所に行きたい』それだけで、異空地への案内は彼らにとっても渡りに船だったようでとても喜んでもらえた。
これでやっと受粉が進み、果樹他も楽しめるようになる。
異空地に入ってムゥ、ルゥと顔合わせをさせたが、蜜蜂達の様子にあまり変化はない。個体識別能力はどの程度なのだろう。前世地球の蜜蜂は人の顔を見分ける事が可能だったようだが、しばらく様子を見ていればその辺も分かるだろう。
名前も『ビーネ』とあっさり決定し、異空地の方はムゥとルゥに任せて外へ出た。
ちなみに大籠蜘蛛の卵はまだ孵化していなかった。
さて、深森蜂達はどうしよう。出来る事出来ない事等を訊ねていく内にわかったのは、魔物である深森蜂達には追跡能力があるという事。
魔力を持つ者はその魔力の痕跡を追えるし、魔力のない者は魔力がないなりに生体パターンとも言うべきものがあるらしく、それを追ったり見つけたりできると言うのだ。
勿論魔力にしろ生体波にしろ、徐々に霧散し薄れていくもので、いつまでも無制限に探せるものではないらしいのだが、十分に有用だ。
流石魔物だと感心すれば、別に魔物だからと言う訳ではなく、社会性を持つ集団だから、そういう識別能力が高いのだろうとフィルが言っていた。
これを聞いてエリィは結構喜んだ。
それと言うのも、実はカデリオとの連絡手段に困っていたのだ。
一応クーター経由で連絡を取れるよう、雛菊意匠のコインは渡されているのだが、現在西の森なので連絡の取りようがなかったのだ。
彼の調査結果で特に問題がない人物であれば、エリィは自分が持っている証拠品を渡してしまいたいと考えている。
この国に深く関与するつもりはないし、出所を追及されてもそれはそれで面倒なのだ。
そうしてエリィは深森蜂に新たな指令を与えた。
――カデリオの捜索と伝言
そう遠くない先の時間で、不快な羽音と共に50㎝を超える蜂達に取り囲まれ、カデリオが顔を引き攣らせ死も覚悟する羽目に陥るとは、今のエリィには想像もついていない。
とにかく早くと前線砦に文を送信し、ギルドへの送付承ったと一報は貰っていたが、そこからは梨の礫で、マツトーは周囲の安全を確認してから重い身体を木の根元に預けた。
有難い事に傷はエリィからのポーションでかなり良くなり、体力もそれ用のポーションで何とかなってはいるのだが、やはり不調は誤魔化せない。
かなり濃い瘴気に触れたのだから仕方ないとはいえ、辛いものは辛い。
とは言え身体のどこも変化しておらず、辛いだけで済んでいるのだから喜ぶべきだろう。
ふぅと大きく息を吐きながら、託してきたバラガスの事が気にかかる。
自分よりも長く瘴気に触れているはずの彼の無事は、なかなか望み薄かもしれないと弱気な事を考えつつ、ポーチから取り出した携帯食を口に運んだ。
渡されたポーションはとっくに使い切り、伝書箱用の魔石も残量は0だ。
携帯食も残り少ない。
普通なら道中で魔物他を狩り食料の補充に充てるのだが、エリィ達が狩っていたのだろうか、ここまでの道すがらほぼ魔物に出くわすことがなかった。出くわしても小物か魔石獣で、食料の補充が大してできていない。小物は一応解体したが、得られた肉は労力に見合わない程度だ。
「本気でマズいな……伝書が届いていさえすれば、ヴェルザンがどうにかしてくれると思っているが」
何とか身を起こし魔物除けを配置する。少し時間は早いが、動けなくなる前に何度目かの夜の安全を確保すべく準備し始めた。
「自分がいては足手纏いかと戻る道を選んだが、こうなると彼女と共に行動していた方が良かったかもしれないな」
あの後、飲まず食わずのぶっ続けで頑張っていたエリィ達が聞いたら激怒ものの呟きを零し、マツトーが睡魔に身を任せようとしたところで、微かに地面を踏みしめる靴音が耳に届いた。
休息を取らせろと泣き言を言いそうになる身体を無理やり動かして、マツトーは身を預けていた木の裏側に回り込む。
「(おい、こっちであってんのかよ)」
「(方向音痴は黙ってなさいよ)」
まだ距離があるのだろう、近づく話声は小さい。だがマツトーには聞き覚えのある声だ。自分の身体から緊張が抜けていくのがわかる。
「おい、もうすぐ日が落ちる。大声を出すな」
「ゲナイド、それなんだが周囲を探っても大した気配がないんだが」
最初に聞こえたのはラドグースか、それに反応したのはナイハルトだろう。しっかりと注意をしたのはゲナイドで、最後がカムラン。
安堵からマツトーの疲れた顔に苦笑が浮かぶ。
「おーい、俺はここだ」
「「「「!!」」」」
一瞬緊張を帯びる気配に更に笑みが深くなる。
ガサガサと気配を殺すことなく近づいてくる4人の目の前に、気の後ろ側から四つん這いでのそりとマツトーが姿を現した。
前線中央砦へコッタム総指揮官の確保に向かっていたゲナイド達一行だが、程なくヴェルザンからマツトーの保護も頼むと連絡が入った。無事に合流できたわけだが、既にギルドと直接送受信できない場所な為、どうしたものかと思案に暮れている。
「魔石切れって訳じゃないんだろう? なら砦経由でギルドへ連絡して貰えば済む話だ」
そう隠せない疲労に塗れた声で言うマツトーに、ゲナイド達は苦い顔を浮かべる。
「あ~、まぁそうなんですがね。ちょっと今はタイミングが悪いと言うか……」
歯切れの悪いゲナイドの言葉に、マツトーが首を傾げる。
そう、マツトーはバラガス捜索の為不在期間が長く、色々あった事を知らないのだ。何分出張ってる間に受け取ったのは新人が大地の剣を下した事、それによる階級の飛び級問い合わせの連絡のみ。それに承諾の返信をした後は直接連絡が取れる距離ではなくなったため、現状を知るはずがなかった。
「そういや君ら、新人にやられたんだって?」
よりにもよってそのネタかと、苦笑交じりに嘆息するしかないゲナイド達だったが、さて、何処から話したものだろうと、葉の隙間から覗く夕から夜へのグラデーションが美しい空を見上げた。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)