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173話 天敵包囲網

「イラチ」:せっかち、気が短い等の意




 カチカチカチ


 掌握と言うスキルのせいなのか、深森蜂との間に言語は介在していない。

 それでもエリィ達の言葉は理解できているようなので、問う形で訊ねれば簡単な意思疎通は図れる。

 他にもステータス画面を呼び出し、そこの掌握のページでも色々と確認できるが、彼らの希望なども表示できれば更に便利かもしれない。


「何、どうしたの? お腹空いた?」

カチカチ

「もしかして蜜蜂が見つかった?」

カチ

「おお! そっか、じゃあどうしたら良いんだろう」

………

「連れて来るとか無理だもんね。ぅぅん……ぁ、じゃあ蜜蜂の所まで案内してくれる?」

カチ


 顎を1回鳴らすのが肯定、2回が否定のようだ。

 もしかすると首を振ったりする行動は、警部への負担が大きいのかもしれない。


 しかして深森蜂が案内しようとエリィ達に背を向けてから、翅を動かしかけた所で余計な同行者の存在を思い出す。

 ちらりと転がされているバラガスをじとっと見つめるが、まだ夢の中のようなので大丈夫だろう。

 顔を深森蜂の方へ向け直した。


「まだ食事の片づけもできてないし、少し待って」


 スープなのが幸いして、それぞれ急いで飲み干し出発の準備を整える。

 一番手間取りそうな食器類の洗浄も、エリィが収納へ放り込むだけの簡単作業なのであっという間に終わってしまった。



「遠い?」

カチカチ


 エリィ達を先導してゆっくりと低空飛行する深森蜂が、こちらを見ないまま顎の音だけで返事をする。

 あまり遠くないならその方が助かる。

 それにしてもずっと見つからなかったのに、このタイミングで見つかるとはどういう事だろう…やはりセレス解放が鍵なのだろうか。

 無言で歩きながらエリィが考えていると、アレクも同じような事を考えていたようだ。


「それにしたかて、えらいタイミングやな」

「ん?」

「やっぱアレか? 関係あらへんかもやけど、セレス救出できたんが良かったんやろか」

「あ~、それは関係してるかもしれないねぇ」


 アレクの疑問にレーヴも同意らしい。


「セレス解放と同時に風が変わったからねぇ」


 レーヴが足を止めて周囲を見回す。

 エリィとアレクを除く全員が首肯しているので、ぼんやりとした予想に留まっていたのはエリィとアレクだけのようだ。


「そんなに変わってるの?」

「はい! それはもう!」


 エリィの呟きにフロルが反応する。


「セレスがあぁなってる間、少しでも風を操ろうとは努力したんですが、やはり本家にはかなわないと言うか…」


 フロルの反応の後を引き継いだアンセが、フロルと顔を見合わせながら「ね」と頷きあう。

 停滞していた季節がやっと進むという事だろうか。

 確かにずっと肌寒かったし、良い方向に変化が訪れると言うなら、あの黙々作業を敢行した甲斐はあったと言うものだ。


 そうして話しながら先導する深森蜂の後をついていくと、女王蜂が大きな木の傍でじっとしていた。

 音に気づいたのか振り向くと、彼女はブンと翅を一度震わせる。

 大きな木を見れば、小さく空いた洞の裂け目から小さな蜂がうろうろしているのが見えた。深森蜂の女王が出す羽音にビビッて何もできないでいるようだ。

 更によく見れば大樹の上の方にも深森蜂達が控えており、天敵包囲網は完成していて、蜜蜂たちが思わず気の毒になる。


 その小さな身体を軽く鑑定してみれば、間違いなく蜜蜂だった。

 深森蜂は蜜蜂そのものを捕食するわけではないが、彼らが集めた蜜は大好物らしく、巣を襲うのだそうだが、50㎝を超える体長を持つ巨大蜂が、地球のソレと変わらない大きさの蜜蜂の巣を強襲する様は、想像しただけでゾッとするものがある。

 とりあえず好物の蜂蜜を蓄えた巣を前に我慢させているのだから、深森蜂達には別の好物、魔物肉を出すことにする。


「見つけてくれてありがとう。これお礼代わりに」

♪♪♪


 収納から取り出した魔物肉の塊をいくつも積み上げてやれば、嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。

 さて、目的達成できたことだし、深森蜂は解放して蜜蜂を掌握するかとパネルを呼び出せば、つい今しがたまで嬉しそうな様子を見せていた女王蜂が動きを止めてじっとエリィ見つめてきた。


「………」


 エリィの表情は強張り、背には嫌な汗が浮かぶ。

 ちらりと窺うが、蜂の表情など読み取れるわけもなく、何故こんなに圧を込めて見つめられないといけないのかと困惑を深める。

 しかしこんな状況ではおいそれと掌握を解除するわけにもいかないかと、改めてパネルの方へ顔を向ければ、一部表示に変化があった。

 先だって『彼らの希望も表示できれば』等と考えたのが良かったのか悪かったのか……何にせよ表示が増えている。



 掌握:スフィカ{387}

    デル・ファナン・セピトナ{387}


 命令:掌握主とその眷属は襲撃不可(永劫継続)

    蜜蜂及びその巣の探索{387}:探索完了(対象への攻撃不可)


 要望:複数要望あり

 思念同調しますか?  ⇒はい

             いいえ



「………」


 思念同調とやらが増え、それに選択肢がついている。

 これは「はい」を選べば会話ができるという事だろうか? その辺はやってみないと分からないが、不可解な圧をかけられ続けるのは精神的に宜しくない。であればここは「はい」一択だろう。

 カーソルを動かし「はい」を選択。


<何しようとしてるの? 待って待って、まさかと思うけど掌握解除する気じゃないでしょうね!? 襲撃強奪しなくても食べ物が手に入る今にワタシは満足してるの! 蜜蜂だって見つけたわ! ちゃんとお仕事は完遂頑張るからこの環境を取り上げないで! お願い! まだ……>


 「はい」を選択した途端、凄い勢いで文字が表示されていく。

 思念同調と言っても直接エリィに念話として届くのではなく、パネル上に文章として表示されるようだ。

 なるほど……目的は達成したので他にして欲しい事も特に見つからないのだが、道中増え続ける魔物肉の消費を助けてくれると言うのであれば、現状維持も吝かではない。

 

「何か彼らに可能な仕事を捻出するか……」


等と言葉に出せば、再び文字が流れ始めた。


<ホッ もう焦らせないでよね! 現状維持大正解よ! さぁ次の仕事を早く! お肉も蜜もお仕事の報酬だって理解してるの! だから仕事を早く寄越しなさい!>


 エリィの後ろからパネルを覗き込んでいた一同は目を丸くしたまま固まっているが、アレクの呟きに全員が徐に頷いた。


「なんや、えらいイラチな御人やな」


 『人』じゃないがな。

 そんな突込みはさて置き、深森蜂を掌握したまま蜜蜂の掌握もできるものなのだろうか。

 こちらの思考は読めないようで、さっきのように言葉にしなければパネルに文字が溢れる事もない。


「掌握って複数種にできるものなの? というか掌握スキルを行使されたときって不快になる?」


 エリィがそう声に出せば文字が勢いよく流れる。


<複数に使えるかどうかなんてワタシにはわかんないわよ。だけどそうね、使われたのはわかったけど特に不快にはならなかったわ! だってお肉くれたし! 今だってこんなにたーくさん! ワタシ達は冬眠なんてしないから、寒くても狩りに出ないといけないのよね。これが辛いのなんのって、それでね……>


 スフィカさんはとてもお喋り好きのようだ。

 掌握スキルの被行使側は不快にはならなかったと聞いてホッとしたが、複数にできるかどうかは不明なままだ。

 とはいえ今ならスフィカ達が包囲してくれているので、失敗してもどうにかなる。


 こちらへ来て欲しいなと願いながら、戦々恐々としている蜜蜂の方へ手を伸ばす。

 まぁ思考は読める訳がないし、こんな天敵包囲網が築かれた中では空気も読めるはずもない。膠着したまま時間だけが過ぎ、痺れを切らしたのか深森蜂達が蜜蜂の巣ににじり寄って羽音を響かせ始めた。

 思い切り脅している空気は感じるが、エリィとしては苦笑を浮かべつつも見守るしかない。何しろ蜜蜂さんを何とかしてお迎えしたいと言う希望があるのだ。


 暫くして深森蜂隊の脅しに屈したのか、一匹の小さな蜂がエリィ方へゆっくりと降りて来た。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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