172話 西の森、戻り道での一幕
「行きしな」:行き道中の事
離れて見守っているだけだった組にフィルがいるので、出来れば転移で移動したい所だが、薬で眠らされているだけのバラガスが意識を取り戻さないとも限らない為、安全策として徒歩移動している。
万が一転移する瞬間等に目覚めることがあっては、後々面倒な事になるのは想像に難くないからだが、そうなると距離は稼げず、どうしても休憩が小刻みに入ってしまう。
来た道を戻るだけなので魔物の駆逐も一旦はすんでいる道なのだが、時間がそれなりに経過しているため魔石獣は既に再配置されてしまっていた。道すがらそれらを殲滅しつつ、小刻みに入る休憩時に新たに拾った魔石他の整理をする。
「この魔石、結構大きいわね」
エリィが両手で持った魔石の透明度を見ているのか、軽く上に掲げ上げながら呟く。
「魔石獣のんやから、形があんましやけど、その大きさやったらいいお値段つきそうや」
「1万エクだって」
「前に買い上げに出した黒ネズミのんより安いやんか」
「あっちは魔石獣じゃなく魔物のだったせいもあるんじゃない?」
エリィとアレクが魔石の値段について話していると、レーヴが右手を腹部を擦る様に置いて、萎れながら小さく零した。
「魔石獣じゃぁ素材が……肉が……」
その様子に皆が苦笑を浮かべる。
「行きの道程で狩った魔物肉は山ほどあるし、考えたらセラもレーヴも作業中は交代で摘まむ程度しか食べられてないものね。ちょっと休憩を長めにして何か作ろうか」
エリィが両手に持っていた大き目の魔石を、アレクの耳手に押し付けて立ち上がる。
地面に直接座り込んでいたので、服に着いた土を軽く手で払ってから、収納を漁った。
フィルがセラの横に放り出されている中年男性を軽く見遣り、まだ夢の中であることを確認してから人型へと姿を変えつつ、エリィの傍に近づいてきた。
「ワタクシめが代わりますので、エリィ様は休憩なさっててください」
「ん~、じゃあお任せしちゃおうかな。ありがとね」
丁度収納から出そうとしていた肉塊をフィルにそのまま渡し、エリィは再び地面に座り込む。
「そう言えばこの黒いのも何なのか見ておかないと」
アレクの方を見ながら呟けば、うんうんと頷いているので、とりあえず収納へ放り入れた黒い球体を取り出す。
大きさはわかりやすく例えるならテニスボールくらい。
色はむらなく漆黒で、無駄に艶やかさで、ファンタジー世界あるあるの輝きなどはなく、吸い込まれそうな程に真っ黒だ。
手に持てばひんやりと冷たく、磨かれた石のようと表現するのが近い気がする。
外観をゆっくり観察してから、こちらも軽く鑑定。
・高密度瘴気の塊
・触れると危険
2行目を読んでエリィは目を真ん丸にする。
そこは詳細を見ておかねばと、続きを読もうとすれば表示が増えた。
・高密度瘴気の塊
・触れると危険(人間種及び動物が触れた場合、絶命、変化等を引き起こす)
なるほど。
とりあえず人外であるエリィや精霊、魔物達なら大丈夫という事だろうか。となると一行の内、気をつけないといけないのはアレクだけかもしれない。ルゥはどうだろう……彼か彼女か知らないが、魔物に分類して良いものかどうかわからない。まぁ現在ルゥは異空地にいて、ここに居る訳ではないから問題はない。
それにしても、これはセレスを解放した時に出て来た物なのだが、何故これが転がり出て来たのかわからす首を捻ってしまう。
セレスが手に持っていたとか言う訳ではなく、彼が自身を守ろうと髪でミイラの包帯のように覆っていたその隙間から、解放と同時に出て来た物なのだ。
だけど……とエリィはこれを見た時の記憶を掘り返す。
自分でも見間違いだろうとしていたのだが、最初目にしたとき完全な球体ではなかったように見えたのだ。
一方向に触手を伸ばしているような、球体の一部分がざらざらと毛羽立っているとでも言えば良いのか、そんな風に見えたのだ。
(セレスに向かって手を伸ばしていた? 何の為に? これが瘴気の塊であることは鑑定からも間違いはないけど……。私が持ってても特に変化はないわね。とりあえずセレスだけじゃなく精霊に近づけない方が良さそう。
鑑定もこれ以上は詳細を追えないのは、まだ練度が足りてないんだろうなぁ。
他の皆も特に反応してないから未知の物体と言って良さげか)
黙り込んでしまったエリィをアレクが不思議そうに見上げている。
「結局ソレ、何やったんや?」
「ん~高密度瘴気塊としか。ただ私以外が触れないほうが良いと思う。もしかするとセラやレーヴなら大丈夫かもしれないけど」
「何や、めっちゃヤバそうな」
「とりあえずここにいる皆にもわからないものみたいだし、鑑定で追えるのもその程度まで。後はルゥに聞いてみるくらいかな? まだ子供と言って良いムゥが知ってるとは思えないしね」
「せやな」
そう言いながらじりじりと後退するアレクに、ふっと苦笑が浮かぶ。
「出来ましたよ」
食事の準備を任せていたフィルの声が聞こえてきた。
「エリィ様レシピのスープにしてみたのですが、如何でしょうか」
串焼きなどの焼き物は簡単で良いのだが、味付けも単調になるしと、ちょくちょく暇を見つけては、フィルがエリィに簡単な料理を教わっていたのだ。
「ありがと、おいしそうな匂いだね」
ハーブの香りがとてもいい仕事をしている。
しかしその香りに刺激されたのか、地面に転がしているバラガスが小さく呻きを漏らして身じろぎしている。
睥睨したレーヴがすかさず彼の口に睡眠薬の小瓶を突っ込む。
「「「「「………」」」」」
静かになった所で皆何事もなかったかのように食事の手伝いをし始めた。
エリィも黒い瘴気塊を収納に戻し、手伝いに立ち上がる。
エリィが出した木製の皿を、一枚ずつアレクが耳手でフィルに渡し、スープがよそわれた皿が全員に行き渡った所で、エリィが『頂きます』と手を合わせ軽く一礼しながら小さく呟く。全員その言葉に違和感を持たないのか、同じように頂きますと声に出し食事となった。
「あんれ、この味……行きしなに摘んどったハーブ?」
「えぇ、エリィ様からの助言で、頂いたレシピに追加してみました」
「流石やなぁ。僕、料理とかこんまい事はどうにも苦手やから、フィルには感心してまうわ」
「あ、アタシだってやればできるよ! 多分……ちょっと失敗するかもだけど」
レーブが張り合うように声をあげるが、全員からは生暖かい笑みが向けられる。
それにむむっと唸るレーヴを眺めながら、エリィもスプーンで掬って口に運ぶ。
(ずっと飲まず食わずのぶっ続け作業だったけど、ほんとにお腹空いたりしないのは何故なんだろう。だからと言って食べられない訳じゃない。2回目の欠片回収後から食事も睡眠もそこまで必要って訳じゃなくなった……味は感じるし、ちゃんと美味しいって思えるんだけど……
悩んだ所で仕方ないか。どのみち最初から水銀ボディで人外だったんだし。まぁトイレの必要がなかったのは地味に助かってたけど。人外万歳ね。だけど精霊も普通に食事ってするんだ)
美味しそうにスープを口にする精霊面々を眺めながら食事をしていると、微かに緊張を強いる音が聞こえてきた。
思わず身構えてしまう羽音。
手を止め、スープの皿を横に置き、上空を見上げ周囲を警戒していると、やや離れた場所に見覚えのあるフォルムが着陸する。
蜜蜂の探索をお願いしていた深森蜂の一匹だった。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)