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161話 コッタム子爵の掌



 コッタム子爵家の老使用人ビギータから、あれからも色々と話を聞かせて貰っている。ただ年齢を考えれば仕方ないのだろうが、同じ話ばかり延々と何度も繰り返し、話が先になかなか進まないず、現在話を聞いているローグバインの部下は頭を抱えていた。


「それじゃその子が連れて来られた日には貴女はいなかったんですね?」

「はい……協力するって言いましたからね、こんなことお話しするのは本当はいけないんでしょうけど、一目見てわかりました。あれは旦那様の隠し子に違いありません」


 話が長いだけじゃなく思い込みも激しい……かもしれない。


「はぁ……それじゃあ邸の周りにうろついてた者達の事とか…」

「髪もくすんだ金髪で、瞳もオレンジ色みたいな茶色って色で、旦那様とそっくりなんですよ。顔立ちもどことなく似ていると言うか……ほんと男ってのはどうにもなりませんね、奥様がお可哀想で……だってそうじゃありませんか、お子が出来ないのは旦那様がずっと西方前線に居るせいで奥様のせいじゃないんですよ? それなのに……そういえば大旦那様も大奥様もヘーゼルなのに……不思議ですねぇ」

「はぁ……」


 それからもう少し粘って聞いてみたらしいのだが、あまり進展はなかったようで一旦休憩を挟む事となり、そこまでの報告を今し方受け取った所だ。

 聞いた話を植物紙にメモっていたのだが、途中ペン先が引っ掛かりインクが飛び散って思わず溜息を漏らす。


「副団長、大分お疲れのようですが大丈夫ですか?」

「あぁ、済まない。団長がまた騒いでてね」

「まだアレを『団長』なんて呼んでるんですか?」

「席は残っているのだから他に呼び様もないだろう。それに他にも調べ物も多いのでね」

「少しお休みになって下さい」

「……そうだね、そうさせてもらうよ」


 ローグバインが部下に気遣われながら執務室を出た後、真っすぐに私室へ向かう。少々眩暈もするので本気で仮眠でもとった方が良さそうだ。


 が、そうは問屋が卸してくれなかったらしい。私室についてすぐに伝書箱に何かが届いている事に気づいた。

 肺の中の空気をすべて絞り出すような溜息を盛大に吐いた後、ローグバインは肩を落としながらソレに近づき、届いた文字に目を走らせる。


「ん?」


 ローグバインが感じたのは違和感だ。

 もう一度、今度はゆっくりと読んでいく。


「………」


 違和感を感じた部分はわかった。


《コッタム子爵の保護に大地の剣が向かってくれることになりました。

 あとトクスに置かれたコッタム子爵用特例転移用魔紋の場所に、汚れたボロボロの子供用らしきチュニックを発見しました》


 『汚れた』はまぁいい、どの程度かはわからないが子供が着ていた物だろうし、汚れるくらいはあり得る。だがボロボロ?

 ホスグエナ伯爵嫡男は魔力ナシではあっても、虐待まではされていないようなのだ。披露などは行っていなかったが、嫡男として最低限の扱いはしていたらしい話が聞き込みで分かっている。

 勿論あまり接近しすぎてはホスグエナ伯爵家に気づかれるので、突っ込んだ話は聞けていない。

 しかし、とりあえずはヴェルザンから送られてきた情報に目を通そうと、再び紙面に意識を向ける。


《所々穴が開いており、どうやらそれは刃物によるものではないかと考えられ、鑑定をお願いしてみました。

 ただ、トクスにも鑑定を持った者はいますが、辺境のギルドという事で能力の方は察してください。

 結果ですが物自体は麻布で作られた子供用衣服。

 空いた穴は刃物によるもの。

 汚れと臭いの大半はチェボーの血肉によるもの。

 ゲラカンドゥーツの蜜成分が入っている。


 鑑定結果は以上ですが、どうにも引っかかります。汚れと臭いの原因が人の血肉でないという事。何故態々そんな物をコッタム子爵が残したのか。しかもゲラカンドゥーツが使われている。

 彼自身から聞ければいいですが、こちらでも引き続き調べてみます》


 ローグバインは自信の記憶を掘り返す。


 確かゲラカンドゥーツというのは魔物だったはず。睡眠効果をもつベランドゥーツの近種で、花に黒の斑紋があるほうだったように記憶している。

 見た目の違いはそれだけのはずだが、効果は違う。蜜、芳香、そして花そのものにも効果があって、幻覚とあと睡眠もあるが速攻性ではなく遅効性なのだがベランドゥーツよりもその効果力は高い。


 ベランドゥーツの方は群れで行動するのでそこは注意が必要だが、個々の強さはさほどでもなく、生息する場所へ入れる者であれば討伐自体は難しくはない。

 だがゲラカンドゥーツは違う。群れで行動するので多数相手という難しさがあるのは勿論だが、それ以上に個々がベランドゥーツよりもずっと強いのだ。

 はぐれた個体を狩るならともかく、群れは決して相手をしたい存在ではない。


 そんな事情から元々そんなに出回る品ではないので『買った』のであれば辿れるかもしれないが、自力調達も不可能ではない……そこまで考えて調達方法ではなく何故そんなものを使ったのかという疑問の方を考える。

 間違って混入するような品ではないから故意に使ったと考える方が自然だろう。

 そうであるなら誰かに幻覚を見せたかったという事にならないだろうか……誰に?


 これ以上考えても答えが出るわけではない。

 仮眠を取りたかったが、せめてヒースには話しておいた方が良いだろうとそのまま部屋を出た。


 ヒースと合流するのは簡単だったが、話をした所ソアンとも情報共有した方が良いだろうと促され、現在ソアンの離宮の私室で向かい合っている。


「なるほどな」


 話を聞いたソアンの口角に薄っすらと笑みが浮かぶ。


「これは我ら揃ってトタイスの掌だったという事か」

「やはりそう思うか…」

「他の情報は後でヴェルザンと直接話す時間を何とかしよう。だが今ある情報だけでも予測できることは多くない。だがそれでも、な」

「あぁ、だけどなんだってこんなわかり難い……」


 ローグバインが頭を掻きむしる。


「そうだな……一縷の望みにかけて…かもしれないな」


 ぽつりとヒースが呟いた言葉にローグバインが目を瞠って固まった。


「……あ、あぁ…そうか、そうだな……私ももし大事な人を盾に取られれば……」


 視線を落とし沈んだ表情になるローグバインの様子に、ソアンが声を出す。


「たらればを話していても仕方ない。無事コッタム子爵を確保できれば、その時に聞けば良いだけの事だ。それにしても色味も顔立ちも似ている、か」

「ソアン?」

「いや、ホスグエナの闇隠しは今代に限った話じゃないのかもしれないと思っただけだ」


 いつものようにカップを傾けていたソアンはそれを傍らに置き、紙とペンを手に取った。さらさらと美しい文字の書かれたソレをヒースに渡す。

 受け取ったヒースも心得たように黙って立ち上がり部屋から出ていく。勿論施錠は忘れない。


「とりあえず返事があるまではゆっくりお茶でも楽しむとしよう」


 ただ眺めていたソアンが、再びカップに伸ばした手を止める。


「いや、それとも酒の方が良いか、子供が死んでいない可能性が出てきたのだから」




ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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