表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/235

16話 セラってば…

賢い鳥なのです


 ちょっとしたモフモフ遭遇はあったものの、それ以外は順調といっていいと思われる。

 相変わらず縦横無尽にのばされた大樹の根のせいで歩きにくいのだが、惨劇はないし、強襲もない。

 確証はないが、セラが居ることで回避できている危険もあるのではないかと考える。エリィとアレクだけであったなら早々に危ない目にあってただろうことは、想像に難くない。


 途中小さな泉があり、木々で覆われ薄暗かった視界が開けた。日差しも他の部分に比べれば届いて明るく、何より風の流れを感じるのが気持ちいい。

 木々で陽も風も遮られている場所は、どことなく空気が澱んで感じるのだ。


 泉の対岸に大人の拳くらいの大きさの、赤く丸い実のなる低木がみえる。

 今いるような深い森にいるのは、ほぼ魔物だ。果実を食べる魔物もいるが、この辺りにはいないのだろう。熟れて地面に落ちているものもちらほら見える。


 鑑定してみれば《デッティ》という名前らしい。木の名前が《デッティ》で、その果実を《デッティの実》と呼ぶようだ。

 可食果実で結構な価格で取引されているみたいだ。取引されているのだから貨幣もあるのだろうが、見たことがないし単位も知らないせいか、パネルに表示されている価格は単純に数字の羅列で、日本円との比較もできない。この辺りは名称の自動翻訳に準じているのではないかと予想する。

 いくつか抜粋してみると―――


   マフ草(薬草の一種、体力回復効果)     120

   ツデイ草の根(薬草の一種、傷の回復効果)  1600

   爪ウサギの肉(パサつきは多いが魔力を含む) 4000

   デッティの実(果皮は厚く硬いが魔力を含む) 3000


 ちなみに爪ウサギの爪は18000という数字がついている。

 もっとも取引単位がわからないので、単純比較は難しい。

 例えばスーパーのお肉だったら《100g 248円》などという表記があり、パックに入ってる総重量等で価格が決まるわけだが、そういった基準のようなモノがないため、1本でその値段なのか、もしかすると重量で決まるのかといったことが、さっぱりわからないのだ。

 人間種と関わるようになれば、それらもそのうちわかるだろう。

   

   

 水場を回り込んでデッティの木の方へ近づく。

 地面に落ちている実の香りをくんくんと確認しているのはアレクだ。


「見た目赤いし、美味しそうにみえてんのに甘いにおいとかはせえへんねんな」


 チョイチョイと実を耳手で転がし、更にくんくんしている。

 エリィも落ちた実を拾い上げ、重さをはかるように左手の上で緩く上下に揺すった。


「鑑定で見た通り、果皮がすっごく硬いのね、それに見た目よりも重く感じるわ」


 デッティの実を持ったまま、収納から結界石を取り出して、地面に設置していく。



「そろそろ時間的にも丁度良さそうだし、お昼休憩にしない?」

「それ、結界敷いてから言うセリフなん?」


 結界石を4つ置き終わったところで、敷物代わりの毛皮を取り出そうとしているエリィに、アレクがやや呆れた声音で訊ねる。


「今のところ危険はなさそうな場所だし、反対意見はでそうにないなぁと思って」


 問題ないといわんばかりに、へらっとエリィが笑った。




 代り映えのしない爪ウサギの肉を焼きながら、エリィはデッティの実に短剣を滑らせるが、薄く傷つくだけで割ることもできないでいた。


「これが食べられるというのは鑑定ミスかもしれない件について」


 エリィがぼそりと呟くと、隣で座っていたセラが徐に立ち上がる。


「この実では試したことがないのだが、一度やってみてもいいだろうか?」


 セラの言葉にエリィがバっと顔を上げてからコクリと一度頷き、左手に持っていた実を差し出した。


「是非よろしく」


 エリィの手から実を嘴で受け取り、そのままその翼を大きく広げた。

 少し開けた場所に差し込む陽光が翼に降り、セラ自身が煌めきを放っているように見える様は、宗教画のようにも見えて溜息が零れるほどだ。


 力強い羽ばたきで身体をふわりと持ち上げると、ぐんぐんと高度を上げた。

 いったい何をするつもりなのかと、エリィだけでなくアレクも見上げたままの固唾をのんでいたが、セラが空中で停止したかと思うと、嘴に銜えていた実をゆっくりと放した。


 落下する実はどんどんを加速し、さっきまでセラが座っていた場所近くの木の根にあたり


 ―――カッンンン


 見事に割れていた。


 ぱっくりと割れた部分からは乳白色の柔らかそうな実と、柑橘のような甘さを含んだ爽やかな芳香が溢れていた。


「割れたようだな。俺たちが良く食べていたマロウロという木の実を割るときにこうしていたのだ」


 割れて転がっているデッティの実を、近づいて拾い上げる。そしてその実を軽く観察した後、地面に降りてきたセラにぐうっと首を回し『セラありがとう』と呟いた後……






「セラってばカラスだったんだね」


 エリィ一人が納得していた。




ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。


至らぬ点ばかりのお目汚しで申し訳ない限りですが、いつかは皆様の暇つぶしくらいになれればいいなと思っております!


リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


ーーーーーーーーーー

高い所から胡桃を落とし、更に車に轢かせて割るカラスは有名ですよね。

紫は以前よくカラスさんに挨拶していたのですが(フェンスに止まっていて、丁度顔の高さに合うので真正面から出会う形になっていましたw)、何度挨拶しても首を傾げられるばかりだったのは悲しい思い出です。

ーーーーーーーーーー


そしてブックマークありがとうございます!

ゆっくりではありますが、皆様に少しでも楽しんでいただけるよう更新頑張ります。


どうぞこれからも宜しくお願いいたします<m(__)m>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ