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150話 目の前に、やっと



「何か問題あるのかい?」

「以前遺跡で自分失ってたでしょうが、あれはやっぱり瘴気のせいなんでしょ? だったらアレク達と下がってた方が良いって」

「あぁ……あれは……ぅん、あれは瘴気のせいじゃないよ。そのさ…ほら魔石あったろ? あれに引きずられたというかねぇ…」


 エリィがあの魔石の持ち主の記憶が戻っていない事に遠慮してか、妙に歯切れが悪い。


「それにアタシは元々狐だよ? 狐の魔物だし瘴気なんざ糧になっても邪魔になる事はないのさ」


 レーヴがそう言うのならそうなのだろう。


「わかった。じゃあ奥には私とセラ、そしてレーヴで向かうわね」


 意識のない者達を抱えたアレクとフィルにそう言うと、エリィ達は精霊セレスティオンがいる奥へと足を向けた。歩きながら振り返らずともアレク達の気配が遠ざかって行くのがわかる。それさえ確認出来たらもう意識は索敵に割ける。


「さっきの灰狒々のせいかしら、他の気配がないわね」


 ふと進む足を止めて周囲をぐるりと一瞥した。


 人里より濃い瘴気のせいで周りの風景が、エリィには何処か煤けたように見えている。

 恐らく清浄とか言う能力のせいではないかと考えているが、瘴気が可視化出来るようになっているらしい。普通にOFFにも出来るので不便はない。ないのだが、可視化した瘴気と言うのはあまり気持ちの良いものではなかった。

 まるでヘドロのように身体にべっとりと纏わりついてくるのだ。そう見える為なのか身体が重く感じられて仕方ない。

 まぁ見えないようにすれば良いだけなのだが、他の敵性生物が確認できないのであれば問題はないとそのままにしておく。

 再び瘴気が更に濃くなる方向へと足を踏み出して暫く進んだ所にソレはあった。


 ヘドロのような瘴気が層をなし幾重にも重なりあって作られた、黒く、そして丸い繭のようなモノが中空に浮かんでいる。

 ソレの中から精霊の気配がしていた。


 さぁ、ここからが本番だ。


 未だ瘴気を集めて肥え太り続けようとしているのか、周囲から瘴気の細い流れが黒い繭にのったりと集まっている。

 警戒をセラとレーヴに任せて、エリィは流れ集まる瘴気を自身の能力で浄化し断ち切りながら黒い繭に近づいた。瘴気を供給するパイプのような流れをすべて消し去ってなお中空に留まり続けるソレは、微かに届く光を反射して光沢を纏い、丸い形とも相まって繭と言うより真珠と表現した方が的確な気がする。

 それにしても大きい……先ほど見たアンセクティールとフロリセリーナから容易に察することはできるが、この中に捕らえられているいるであろうセレスティオンも、その身体は2人と変わらない大きさだろう。それを中心核にした真珠玉なのだからその大きさは簡単に想像できるし、実際に目の前にあるモノはそれより更に大きい。

 手を伸ばし層をなした瘴気の膜の端を掴む。

 もっとも外側の層だからなのか、少し力を入れて引けば存外簡単に剥がす事が出来た。剥がした瞬間ふわりと膨れ上がって空気に溶けるように霧散する。これが瘴気の膜でなければとても幻想的で美しく見えただろうと考えれば、知らず苦笑が口元に浮かんだ。











 ケレンデナに案内されて向かったのは王城の部屋ではなく、それよりもはるかに手前、先程まで居た厩舎からほんの少し離れた場所にある建物だった。

 外観はかなり古く所々ヒビが入ったりしていて草臥れて見える。大きさそのものはそこそこあるように見えるが、正直言えば仮にも騎士団の執務室が置かれている建物には到底見えない。


「はは、驚かれましたかな。外観はまぁアレですが、中はそれなりにはしています。ですがビレントス卿の気が進まないようであれば場所を変えますが」

「いえ、何の問題もありません」


 涼しい顔でしれっと答えるローグバインは、その実、心のうちでは感心していた。

 厩舎近くにある大きさはあってもボロい建物……大抵の人間ならそこで下働きでもしている平民の為の建物と思う事だろう。この国の貴族なら、多くはこんな建物に足を踏み入れる事等忌避するだろう。自身のまだ辛うじて上司なケッセモルト等はその典型だろう。


「どうぞ、我が第4騎士団、第3待機棟へようこそ」


 軋む粗末な扉をケレンデナが開いて、閉じないように手でおさえている。それに軽く目礼しつつ扉を潜れば、外観を裏切る内装に思わず足を止めてしまった。


「これは…」


 扉から入ってすぐ、さほど大きくはないが広間になっていた。

 年季は入っているがヒビ割れ等がないどころか反対に重厚さを感じさせるような壁に絨毯、飾り気は排除されているものの、柱や階段の手すり一つ一つまで磨き込まれていて外観からはとても想像のできない空間が広がっていた。

 しかも所々に武具が置かれているが、装飾と言う意味合いには感じられず、どちらかというと思わぬ事態に備えてと言った置き方をされているように思えた。


「女性受けは悪いですがな、不測の事態に備えている間にこう、無骨な室内になってしまいました。ですがこれはこれで悪くないと思っておりましてね」

「えぇ、こう言ってしまっては不敬ととられかねませんが、王宮内の空気はどうにも煌びやか過ぎまして、私もあまり……ですからこちらの方が私には好ましいです」

「そう言って頂けるならホッとしました」


 広間奥には緩くカーブを描いた階段があり、2階部分にも幾つも扉が見えるが、案内されたのは入ってきた扉から左手に曲がった場所にある扉だった。


「2階含め他の部屋は団員の仮眠室などに使っておりましてな、お客人を案内できるような部屋がここくらいしかないのですよ」


 そう言って再び扉を開け、ケレンデナが扉を押さえてローグバインに中に入るように促した。

 失礼と断って室内に足を踏み入れれば、シンプルでありながら上質なソファにテーブル、キャビネットが置かれていた。


「適当に座って下さい。あぁ、ビレントス卿はお茶に煩いほうですかな?」


 すいっと掌を上に向けて促すケレンデナの問いかけに、ローグバインは足を止めて振り返った。


「お茶、ですか? いえ、こう言っては何ですが、不味くなければ……私も貴族としては失格かもしれません」


 フッと笑みを微かに乗せれば、ケレンデナが目を丸くした。


「これはこれは……あの御婦人方が騒ぐわけだ」


 思わずと言った風に零されたケレンデナの言葉に、今度はローグバインの方が目を丸くした。

 どういう事かと訊ねようとしたのだが、それより早くケレンデナが隣室に繋がる扉を潜って出て行ってしまう。

 持って行く場を失った問いかけを飲み込んで、仕方ないとばかりにソファに腰を下ろした。塵一つなく掃除の行き届いた室内は、上質な家具類のおかげもあってかなり居心地が良い。

 仮眠室も置かれているような待機場所がこれほど整えられていると言うなら、使用人などの姿があってもおかしくはないのだが、そう言えば見かけないなと思っていると、先程ケレンデナが出て行った方の扉からノック音が響いてきた。

 部屋の主でもない自分が返事をするのもどうなのかと考えているうちに扉が開かれケレンデナが入ってきた。

 その手にポットとカップが置かれたトレーを乗せて。


「な、ケレンデナ卿!?」


 慌てて腰を浮かせたローグバインを笑いながら手で制したケレンデナが、トレーをテーブルに置き、横のキャビネットから何やら紙筒を取り出してきてから対面に座った。


「ビレントス卿の口に合わずとも、せめて不味いと思われなければ良いのですが、一応団員達からも不味いと評されたことはないので、どうぞ」


 困ったように眉尻を下げて笑うケレンデナがローグバインの前にカップを置く。


「作法も何もありませんが、茶葉だけは良いものを使っておりますのでな」


 ポットもカップも意匠が違い、統一感はない。その辺は男所帯と言った風情が垣間見える。


「いえ、お気遣いなく。騎士団で御婦人方主催のお茶会のようにされては、気疲れしてしまいます」

「全くですな。茶器など茶を飲むのに問題がなければそれで良いだろうと思うのですが、そう言うともう家族全員からお小言が飛んできましてな…」


 はぁとため息交じりに吐き出すケレンデナには、確か奥方と娘が3人いたはずだ。

 女性4人からのお小言一斉放射となれば、それは溜息も吐きたくなるだろう。


「いや申し訳ない、つい余計な話を。それではこちらを見ながら話をしましょう」


 そう言ってケレンデナは、キャビネットから取り出して持ってきた紙筒を広げた。


 ―――地図だ。それもローグバイン始め誰でも目にすることのできるざっくりと地区だけを描いたものではなく、裏通りまで描かれた詳細な地図だ。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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