149話 花々が舞い踊る中で
アンセクティールとフロリセリーナのおかげで精霊の気配他がわかり、探索と気配察知に少しだけ離れた場所に、瘴気に埋もれそうになってはいるが、動きのない精霊を見つけることが出来た。
恐らくそれがセレスティオンだろう。そうと分かれば精霊たちはこの場から離したほうが良いだろう。
この先は更に瘴気が濃くなっている。精霊達だけでなく、瘴気をモノともしないどころか魔素代わりに使う事もできる魔物であるセラ以外は距離を取って貰った方が良い。
「それじゃ私とセラ以外は、そこの意識のない人を連れてここから離れてくれる?」
「そんな!……です、が……」
美少年と美少女に両横から抱き着かれたままのフィルが真ん丸な目を更に丸くして鋭い声をあげたが、エリィの危惧も分かるのだろう、その語尾徐々に力なく萎れて行った。
「この先の精霊の居場所は把握できてるから心配はいらないわ。それにその人の救出依頼も受けてるしね。あぁ、そうそうこれ渡しておくわ」
エリィがトコトコと未だ精霊の少年少女に挟まれたままのフィルに近づき、収納からポーションを取り出して手渡す。
「こっちは傷用。あと姿は既に見られてるかもしれないけど、変に騒がれても困るでしょ? だからこれ、睡眠薬も渡しておくわね」
「いつの間に睡眠薬なんか作ってたんや」
「ん? あぁ、使えそうな素材があったものだからさっき実験の合間の暇つぶしに作ってたのよ」
味変の実験中、反応待ちが発生した時に思い付きで作っていたという。
マツトーに会ってから後の移動の合間に狩った魔物にベランドゥーツという魔物がいたのだ。
百合の花の様な見た目は美しい花なのだが、根にあたる部分がムカデの様な形態をしていて、花の香りで獲物を酔わせて襲うと言う何とも厄介な魔物なのだが、その花の部分を使えば睡眠薬を作れたのだ。瘴気が比較的濃い場所を好んでいるようなので、生息域と言う部分では討伐難易度は少し高いと言えるかもしれない。もっともベランドゥーツそのものは大きさも精々成猫程度でしかなく、出会えれば討伐自体は難しくはない。ただ、群れて襲ってくるためそこは要注意だ。
「さよか、まぁフィルも納得でけへん訳やないみたいやし、僕らはエリィの言うとおりにちょっと戻った場所で待っとくわ」
アレクの言葉にエリィが返事をするより早くピクリと反応する声があった。
「エ、リィ……ぇ、だけど……ううん、もしかして……エリスフェラード様…?」
掠れたように声を詰まらせながら問うてきたのは美少年精霊アンセクティールだ。その彼の言葉にエリィとアンセクティールの間に視線を泳がせる美少女精霊フロリセリーナがふるりと震える。
「ぇ、嘘……エリスフェラード様なの? あぁ、何てこと」
フロリセリーナの瞳が再び潤んだ。
アンセクティールがそんなフロリセリーナの手をそっと引いて、ゆっくりとエリィに近づき、その片膝をついて頭を垂れた。
フロリセリーナもアンセクティールの姿にハッとしたようで、追随するように地面に両膝をついて頭を垂れる。
「お帰りなさいませ、エリスフェラード様」
「お戻りくださって、フロルはとても……とても嬉しい…ですが、その御姿は……」
「フロル!」
フロリセリーナの戸惑うように絞り出された言葉にフィルが弾かれたように声をあげた。
「う~ん、記憶がまだ……だから『お帰り』と言われてもピンと来ないんだけど、とりあえず私の事は『エリィ』と呼んでくれる?」
まともに記憶が戻っていない事もあり、今もって『エリスフェラード』と呼ばれる事には抵抗がある。
アンセクティールとフロリセリーナは、困ったようなエリィと声を荒げたフィルを交互に見てから二人見つめあって頷いた後、エリィの方へと膝をついたまま顔を向け再び頭を垂れた。
「「仰せのままに」」
そんな二人にエリィがやれやれといった風に溜息を一つ。
「そんな堅苦しいのは出来ればご勘弁願いたいんだけど」
「ですが……僕らにとって貴方様はずっと…ずっと待ち焦がれた主なのです」
アンセクティールが顔を上げ、悲し気に眉尻を下げた。
その表情に今度はエリィの方が苦し気に唇を一瞬噛んだが、直ぐに苦笑に張り替えた。
「記憶があんまり、なんだけど…とにかくこれから宜しくね、でいいのかしらね?フィルが言ってた異空地のお世話に来てくれるのって貴方達でいいのよね?」
エリィが問うようにフィルの方へ顔を向けた。
「はい、エリィ様のおっしゃる通りで、フロルに打診していました。アンセはあの時はセレスの有様におろおろするばかりでしたが、フロルが応じればそれに否という事はしませんので」
それはそれでどうなのだろうと思うが、大事なのはアンセクティールとフロリセリーナの気持ちだろう。
「今する話でもないと思うけど…えっと、あんせ、くてぃーるとフロル…じゃなかった、ふろりせ、りーな、2人の意思はどうなの?」
エリィが2人の方へ顔を向け直すと、アンセクティールとフロリセリーナどちらも目をこれ以上ない程に見開いて固まっていた。これは寝耳に水な話なんだと慌てて言葉を繋げようとしたが、それより早くアンセクティールの言葉が響いた。
「ほ、本当に宜しいのですか!?」
「……ぇ…?」
「ぃぇ、ですから、その僕らがエリスフェ……エリィ様の異空地へ受け入れてもらえるのですか!?」
「ぇっと…2人が嫌じゃないなら、こっちとしてはお願いしたいのだけど…」
アンセクティールとフロリセリーナが手をガシリと組み合って頷きあうその顔は喜色に溢れていた。
「まぁ、何てことでしょう、お兄様、フロルはとても嬉しいのですわ!」
「そうだね、僕もとても嬉しいよ」
聞けばフィルから居空地の世話係をして貰えないかと言う打診は聞いていたし、セレスの救出が叶ってからなら是非と返事をしていたが、エリィがこの世界での記憶がほぼない状態だと言うのは聞いておらず、てっきり打診そのものが反故になるのではと思ったのだそうだ。
嬉しそうに手を握り合っている美少年美少女というのは眼福だが、周囲に花がポンポンと浮き出させるのはやめて欲しいと思う。
比喩でも何でもなく、本当に花々が中空に出現しては舞い踊っているのだ。そして留める事なく出現させるものだから、アンセクティールとフロリセリーナの周囲は花で舞い溢れ、ともすれば埋もれてしまいそうな程になっている。
この、他所よりも魔素が薄く瘴気の濃い場所では流石にまずいだろうと止めようとしたが、少しばかり手遅れだったようで、2人とも顔色が悪くなり、きゅうっと目を回してへたり込んでしまった。
その様子にフィルがシマエナガ姿のままお手上げポーズで溜息を吐きつつ首を横に振った。
「まったく、手間ばかりかけてくれますね」
目を回しているアンセクティールとフロリセリーナを翼でひょいと抱え上げるフィルを見ながら『説明不足も原因だろうから、お前が言うな』と心のうちで盛大に突っ込んだエリィだった。
精霊2人を両肩(真ん丸すぎて肩がある様に見えないが)に担ぎ上げたフィルは、意識のないままの、多分トクス村ギルドマスターをアレクが耳手で持ち上げるのを待ってから、エリィに向き直った。
「それでは誠に遺憾ですが……本当に遺憾ですが! こ奴らを連れて後方にてお待ちいたします」
これ以上なく不機嫌に言い放つフィルに苦笑が洩れるが仕方ない。精霊は辛うじて自分が動ける分だけ瘴気を浄化できる個体もいたり、少々耐性が高い個体がいるというだけで、魔物のように平気で動き回れるわけではないのだ。
あくまでそんな稀な個体が少しばかり動くことが出来ると言うだけで、殆どが人間種と変わらない。
だからこの先更に瘴気の濃くなるような場所に連れて行くわけにはいかないのだ。アレクにしても翼を持ち耳手等と言う謎触手を持つ猫様生物でありながら、どうやら魔物と言う範疇には無いのかもしれない。瘴気が濃くなるにつれて、少々だるそうにしていた。見るからに魔物そうなのに不思議である。
奥へ進むのはエリィとセラで問題ないだろう。エリィは清浄の能力のおかげで瘴気が濃くても然程問題はないし、セラに至っては魔物なのでやはり問題なく動ける。精霊セレスの救出にはエリィとセラ2人が適任で、それ以外には下がって貰おうとしたところでレーヴが一歩進み出た。
「アタシも行くよ」
「え? だけど」
レーヴはあの遺跡で狂化していた。アレは瘴気の影響ではなかったのだろうか。
てっきりそうだと思っていたのだが……。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)