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147話 金色に咲き誇る狐花

戦闘場面は難しい……ぃぇ、戦闘場面『も』難しい。ですね(号泣)



 エリィが駆け寄るより早くセラがレーヴを背に庇うように、飛んで位置取った。

 背から仰け反るような形で大木に叩きつけられたレーヴの身体が、ずるりと地面に力なく頽れるが意識は辛うじてだろうが保っているようで、痛むであろう身体を後ろへと摺り下げようとしている。


「ヒヴァトスラスや! エリィ、レーヴを連れて下がっといてや!」


 アレクの必死の叫びに反射的にレーヴの方へと駆けだしながらも意識は別の所へ沈んでいた。


(ヒヴァ……って、あぁ……セラに大怪我を負わせたのがそんな名前だったっけ……確か『でっかくて、目が丸くて、でもって体毛はチョイ長めやな』なんてアレクが言ってた気がするけど)


 レーヴを投げ飛ばした相手、ヒヴァトスラスの方へ顔を一瞬向ける。

 大きくて目が丸くて体毛が長め――間違ってはいない、その形容と異なるところはないのだが受ける印象があまりに違った。

 何と言えば良いだろうか……デフォルメされた某有名怪獣のソフビ人形とハリウッド映画版くらいに異なると言えば理解してもらえるだろうか。


 今目の前に居る相手は体高が3mはあるだろうか、もしかするともう少し大きいかもしれない。何しろ人型になったフィルが見上げる大きさだ。

 体毛は灰色で、ところどころ黒いものがこびり付いている。体毛だけでなく凶悪に長い腕の先にある伸びた爪も黒く染まっている。

 肩幅は広く逆三角形に鍛え上げられた身体には、体毛越しにも筋肉が発達しているのが見て取れた。そして背には大きな翼が1対あり、それが振られるたびに大きな風が巻き起こり足元を掬われそうになる。

 顔は狒々の顔を更に険しくした感じで、右目は黒く爛れている。残った左目はギョロリとしていて禍々しい程に赤く、敵意しか宿していない。大きく開いた口にも長い牙が覗き出ていて、それがより一層凶暴さをその姿に与えていた。


 エリィはその姿を一瞥してすぐ、滑り込んだレーヴの前、セラとの間に結界の壁を置き、苦しげに浅い呼吸をしている彼女にポーションを飲ませる。

 それと同時に軽くだけだが治癒魔法をレーヴの背にかけた。どの程度までならエリィ自身に問題が出ないか試していないので、あくまでほんの少し気休め程度なのだが、効果は覿面にあったようだ。

 見る間にレーヴの呼吸が落ち着いてくる。


「ギャオオオアァァアアアアアアァァァ!!」


 ヒヴァト……長いので大灰狒々が長く太い右腕を大きく振りかぶってセラに襲い掛かるが、その真っ赤な目はセラの後ろで蹲ったレーヴに向けられている気がする。


「セラ回避を!!」


 あの勢いで振り下ろされた腕と爪がセラに届いてはまずいと、回避を促し張った壁の強度を上げる。


 振り下ろされた大灰狒々の大きな爪がガンと大きな音を立てて弾かれる。

 爪が届かない事に苛立ったのか、何度も執拗に爪が振り下ろされるのを見て、ついレーヴの方へ顔を向けてしまった。


「一体何したのよ……」


 呼吸も落ち着き顔色も少し戻ったレーヴが、口端に残る自血を袖で拭いながら上目遣いに視線だけ一度向けてから、ついっと逸らした。


「何って別に……あいつがあっちに襲い掛かろうとしてたから、ちょっと小さな狐火を飛ばしただけだよ」


 大灰狒々の右目が黒く爛れていたのはそういう事だったのかと合点がいった。片方とは言え目を潰されたのだから、レーヴに怒りを向けるのは仕方ないと言えるだろう。いや、それより『小さな狐火』で黒く焼け爛れるほどとは、レーブの力量には恐れ入った。


 「ギョオオェェエエオオオオ!!!」


 大きく響く大灰狒々の叫びに顔を上げれば、フィルが背に風の渦を直撃させていた。

 不意打ちのように喰らった風の塊に大きく身体を揺らがされ、大灰狒々は今度はフィルに狙いを移した。

 右手に持った白鉄の剣は魔法を纏わせているのか、薄く光を帯びると同時に風を纏っている。左手は絶えず風の渦玉を発動させていて、隙あらば撃ち込んでいる。

 大灰狒々の方もやられっ放しではない。一度は不意打ちで体勢を崩したが、その後撃ち込まれる風の渦玉は爪で悉く薙ぎ落としていた。そのまま一気にフィルとの距離を詰めたかと思うと、大きく右腕をフィルめがけて突き落とした。

 一瞬フィルの目元に苦々し気な色が浮かんだが、受け止めきれないと判断したのだろう、地面に足がつくと同時に体勢を崩しながらも辛うじて向きを変え横跳びに跳躍した。


 ザン!!と地面を抉る音と共に土埃が舞う。


 深く地面に刺さった爪を引き抜こうと大灰狒々が意識をそちらに向けたと知るや、今度はセラが斜め後ろから地面を蹴って体当たりを敢行した。

 木々が深いせいで、飛行と言う有効手段を取ることが出来ないのだ。


 これだけフィルとセラの攻撃を受けても、大灰狒々はその力を失っていない。それどころか反対に凶暴化している気さえする。

 結界の壁越しに目の前の光景を唇を噛んでみていたエリィの横で、さっきまで苦し気に蹲っていたレーヴが立ち上がった。

 ポーションに加えて治癒魔法をかけたとはいえ、それは微々たるもので表面上マシになったように見えてはいても、まだ痛みは残っているはずだ。


「レーヴ?」

「エリィ様ありがとだよ。アタシもやられっ放しじゃいられないんでねぇ」

「ぇ……ぁ、だけどまだ痛みが残ってるんじゃ…」

「ここまで治してもらったんだ、大した事はないさね。エリィ様は危ないから下がってておくれ」


 多分だが結界の壁もあるし、エリィ自身も戦力になれるとは思うから大丈夫ではあるのだが、如何せん過剰戦力になりそうだ。


 大灰狒々が怒りのままに繰り出す攻撃は、パターンもなくかなり危険に見えていたし、実際フィルは体勢を崩されたりしている。しかしセラもフィルも焦りの色を纏ってはいないのだ。

 セラは嘴だからしかたないが、フィルに至ってはその口角が上がってさえいる。

 回避しながら風の渦玉をぶつけ、ヘイトを稼いだかと思えばその隙を狙ってセラが畳み掛けている。

 恐らくそうかからずに制することができるだろう。にも拘らずレーヴは不敵な顔をして参戦すると言っているのだ。最早エリィの出る幕などないだろう。

 実際、羽根矢を飛ばしていたアレクも既にエリィの傍で浮遊するにとどまっていて攻撃態勢は取っていない。


 すっと一歩踏み出したレーヴの、立ち止まったその姿は艶がありながらも凛としていて、本当に美しい。

 だかその口から紡がれる甘さを宿しつつも涼やかな声音が響く。


「よくもやってくれたねぇ、猿一匹、消し炭にするなど造作ないんだよ」


 ゆらりとレーヴの金髪が揺れる。風向きに靡いているわけではなく、ざわりと揺れ広がっているのだ。

 綺麗な弧を描く赤い唇は本当に楽し気で、ともすればこちらもつられそうな笑みに見えるのに、その金の双眸がそれを裏切る。

 眇めた目の奥には揺らぐ炎が見える気がして背筋が凍る。


「さぁ、この狐花に焼かれておしまい」


 荒ぶるでもなく呟かれた言葉が終わると同時に、レーヴの足元から金色の光がまるで彼岸花のように咲き誇りながら、灰色狒々の方へと広がって行った。






ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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