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140話 不意打ちの言葉



 異空地から出れば、地外時間停止に設定してあるので当然だが、入ったときと変わらぬ配置の全員に声をかける。


「それじゃそろそろ休もうか」

「エリィ様お帰りなさいませ。敷物の御用意を致しますので少々お待ちください」


 エリィが異空地から出てきた事に反応してフィルが動き出そうとするが、それを手で制した。


「せっかくもふもふふわふわが居るんだから雑魚寝でいいよ」


 笑ってそう言えばフィルが嬉々としてセラたちを配置し始める。わざわざ配置して貰わなくても良いと言ったが聞きやしない。

 まぁそのおかげで極上ベッドは仕上がった。

 丸くなったセラの足の間に填まり込むようにシマエナガなフィルが陣取り寝台の完成のようだ。

 アレクはと言うとその上で欠伸をしながら座っている。


「なんや、レーヴの姐さんは異空地に決めたんかいな」

「どうだろ……出て来なかったらそういう事なのかもね」

「さよか、まぁ安全なんは間違いないしな」

「でもほら、外だと虫がいるでしょ?」

「へ?」

「だから虫」

「結界石おいてんのに、そんなん居るわけないやん」


 虫すら入り込まないとは初耳だ。


「それは知らなかったわ」

「超優秀やろ? ぁ、結界石で思い出したわ。浄化石ってあったやん?」


 アレクが何か思い出したのか、急な話題変換にエリィが小首を傾げる。


「あれ、普段つかわへんやん? 異空地に置いといたらええんとちゃう? したら居空地の魔素も増えるし」


 アレクからの提案にエリィはふむと考え込んだ。


「今植わっているものに影響がないかないか、ルゥに聞いてから…かしらね。魔素の少ない環境で育ってる植物達だし」

「ぁ、せやな。それは確かにやわ」

「とりあえず寝ましょ、その辺りは一切合切また今度に、おやすみ」


 セラやフィルに埋もれる様に身を横たえれば、そのエリィの背中側でアレクは丸くなったようだ。猫らしい少し高い体温に微かに笑みが零れる。


 そしてそのまま目を閉じて眠りに着こうとした瞬間声が響いた。


「エリィ様、置いていかないどくれよ」


 レーヴの声に顔を上げれば、その顔はすっかりいつもの通りだ。

 涙の跡も苦し気な欠片も何もなかった。

 エリィも自分の内側に残る痛みを気づかれないようにしていたが、レーヴも結構気を遣ってくれたのだろう。

 でもそれは言い換えればエリィとレーヴだけは互いに痛みも涙も気づいているという事で、これから先、もし弱音や泣き言が言いたくなる事があったら、その相手はレーヴにお願いしようと決めた。


「悩んでたみたいだったから」

「ぅ、それはそうなんだけどさぁ」


 ちょいちょいと手招きしてやれば、レーヴは足元のピンヒールに似合わない、トコトコと表現したくなるような歩き方で近づいてきた。


「レーヴ、ここで就寝する気ならエリィ様に気持ちよく眠って頂けるようになさい」


 目を閉じていたフィルが、首を縮込めた姿勢のまま片目だけ薄く開いて低く告げる。


「はいはい、アタシもそのつもりだったさ」


 ポンと音がしそうな程瞬時に、レーヴの姿が妖艶な美女から金色の大狐へと変わる。大狐の姿になればセラよりも大きく、ふさふさな尾まで含めれば全員をすっぽりと包み込めるほどだ。


「これは……もふもふサラサラふわふわもっふぉもふぉ……極上の肌触り、あ~天国だわ」


 何故かちょっぴり得意気な鼻息が何処からともなく聞こえて、エリィは更にグリグリしながら埋もれて行く。

 眠りに落ちかけながら、そうだ、折角だし練習しておこうと自分たちの周りに結界を張り、そのまま意識を手放した。



 久しぶりの野宿ではあったが全員問題なくすっきりと起床している。

 皆に囲まれて凭れるように眠ってしまったので、身体か痛かったり眠れなかったりしなかったかと心配になったエリィだったが、聞いてみれば全員から大丈夫と返事された。

 そして眠りによって意識を手放す前に張った結界だったが、しっかり朝になっても残っていた。眠りながらも展開できると言うのは便利だが、魔素が薄くなり魔法が失われつつある今、それらを平然と使えると言うのは異常ではないだろうかとエリィは少し不安になる。

 アレクはエリィ同様記憶が色々抜け落ちているようだし、こういう事を聞くならフィルかレーヴが良いだろうと、収納から出した果物やパン他を配って頬張りながら訊ねてみた。


「別に不思議に思う事も、不安になる必要もないかと思いますが?」

「そうだねぇ、元々エリィ様は……まぁ覚えてないんだろうけど、魔力操作は誰より上手だったんだよ。つまりピカ一の腕ってやつさ」

「結界は持続展開する場合もあるせいか、あまり魔力を元から必要としない魔法でございますし、何よりエリィ様は清浄の御力を取り戻されたようでございますから当然の事かと」


 聞きなれない単語が出てきたせいで、エリィの眉間に皺が寄る。


「せ…い、じょう? 何それ」


 フィルとレーヴが揃って目を丸くして固まった。

 アレクとセラはと言うと只管朝食に専念している。


「ぁ、ぁぁ、失礼しました。はい、清浄でございます。エリィ様の御力の1つでございますね」

「まぁでも、あんまり気にしないでも良いと思うけどねぇ、出来る事が増えたってだけだろう? これまでと何にも変わりゃしないさ」

「まだ発動できるようになっただけのようでございますので、ゆっくりと馴染めば宜しいかと思います」


 さらっと流すように言われたが、確か精霊でもそんな能力を持っているものは少ないとか言ってなかっただろうか…。

 それに発動できるようになっただけって……つまりこの先もっと安定して、欠片も取り戻せば強大になるって事だろうか?


 ――――そんな話、聞いてない……


 ――――それってつまり、エリィ自身が………


「ほほう、つまり私が清浄を頑張ればこの世界の魔素事情も少しマシになるって事? いや、ありえないか、私一人出来た所で大した量にもならないわよね。だけどそれならもっと練度上げて頑張っちゃう?」


 そう、もしかしたら貴重な能力なのかもしれないが、それにしたって人一人の力じゃ高が知れている。

 そう、思って笑い飛ばしたのに……。


「いえ、まぁそうでございますね。ですが……」


 姿形はシマエナガなままなので可愛いはずなのだが、その顔からは表情がごっそりと抜け落ち、纏う空気が氷点下になったように感じられる。

 しかも冗談半分に言った言葉をさらりと肯定されては、エリィには言葉が無くなってしまい、下唇をきゅっと噛みしめた。


「その必要はございません」

「ぇ……ぃゃ、…」

「その恩恵を自ら壊し手放したのは彼らの方でございます。エリィ様がその御心を痛めたりする必要など「フィル!」」


 レーヴが割り込むようにフィルの名を呼んで、続く言葉を遮った。


「エリィ様はまだ記憶がちゃんと戻ってないんだよ。それ以上はいけないねぇ、その判断は記憶が戻ったエリィ様にしかできない事だよ」


 ふるっと一回首を大きく振ったフィルが地面を睨みつけるように視線を落としてから深呼吸をした。


「そう、ですね。申し訳ございません」


 不意打ちで聞くことになった情報が重くて思考が纏まらず、エリィは眉根を寄せたまま、だけど迷子の様に心細げな面持になっていた。

 アレクもどこまで記憶が戻っているのか聞いたこともないが、苦し気に……いや、もしかしたら忌々し気と言った方が良いのかもしれない表情で固まっている。

 セラも話の内容が内容だけに食べるのをやめて静かに、だけど真剣に見つめている。


「その……何だか済まないねぇ。いずれエリィ様が欠片を集めれば戻る記憶だろうと思うのに、つい滑っちまった。でもさ、今まで通りで良いんだよ。アタシらと楽しく旅をして、エリィ様の安全の為にも欠片を集めてさ。あぁもう、アタシは語彙力なんかないんだよ」

「いえ、失敗ったのはワタクシめでございましょう。本当に申し訳ございません」

「ちょっと、し…く、じったとか…言うんじゃないよ」

「しかし……」


 いつもと反対にフィルの方が小さくなってしまっている。


 しかし思いがけず知ってしまった内容は流して良い様な物ではないだろう。


 だけど……


   しかし………


     そうではあるんだけど…………エリィは思った。



 ―――面倒くさい。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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