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130話 盗賊の残した物



 使い込まれた旅装に身を包み、改めて自分の姿を確認する。

 いつもの装備と違って動き難いが仕方ない。

 目立たないがどこか野暮ったい上着、フードの奥の口元はスカーフで覆われているが眼光の方はやや鋭い。大きな背負い具黒を背負って、その足取りを重そうにしてから街道の方へと戻る。

 遠くに見え始めた小さな村の門がだんだん近づいてきた。

 簡素な門の脇に村人だろうか、役に立つのか心許ない粗末な装備を付けた門番が2人談笑している。


「こんにちは」


 へらりと笑って挨拶をすれば眼光の鋭さも紛れ、ただの旅人にしか見えなくなった。


「こんちゃっす、そのカッコはああ………行商人さんっすね!」


 門番の一人がにこやかに話しかけてくるが、そんな彼をもう一人が嗜める。


「よう、悪いな。こいつ人懐っこいのは良いんだが、人によっちゃなれなれしく感じるかもしれん。それでこの村には何をしに?」


 街道沿いの村とは言え、どちらかと言えば寂れた村だから人の出入りなど殆どないのだろう。門番の一人がやや声を固くして問いかけてきた。


「すんません、こんななりですが行商をやっとるんですが」

「行商? そりゃこんな小さな村だからありがたいが……祭りの時期でもないのに?」

「えぇ、まぁ商売も目的っちゃぁ目的なんですが……」

「何だ?」

「ちょ、ヤッシュってば何でそんなに目つき悪くしてんすか!?」

「ギズル、お前は黙ってろ」


 すごまれた自称行商人はこれ以上ない程に狼狽えている。


「な…ま、待ってくださいよ。話す前に凄まれちゃ、たまったもんじゃありませんよ」

「そ、そうですよ! ヤッシュも、ほら落ち着くっすよ」

「悪い、ギズルもすまん」

「俺はいいすけど……行商人さん怖かったっしょ? すまねーです。ちょっと前に盗賊と一悶着あったもんで、どうにも村中ピリピリしちゃって」


 行商人が首を横に振ってぎこちない笑顔を目元に浮かべた。


「い、いや、実はその盗賊ってのも目的だったので」


 そういって口元のスカーフはそのままに、行商人はフードをはずした。

 髪色は違うが、そこにあったのは紛れもなくカデリオの顔だった。



 再び緊張する門番2人に、変わらず飄々と話しかける。


「実は行商人仲間の行方がわからなくなってんです……王都から西の方へ向かったとしかわからなくて、こうして王都の方から街道沿いの村を商売しながら訊ねてんでさぁ」


 話を聞いて目に見えて門番2人の緊張が解けた。


「あぁ、だからこっちの門なんすね。それにしてもそれは心配すね、お友達すか?」

「そうなんです。ガキの頃からのダチで一緒に一旗揚げようって行商人になったもんで、心配で心配で」


 カデリオの表情が沈痛に沈む。

 身元を誤魔化すために行商人に偽装しているが、幼馴染が一人行方不明になっている事は紛れもない事実で、心底心配している。


「そうか、疑って悪かった」

「いえいえ、門番さんのお仕事ですし。それで……もし良かったら盗賊の事、少しだけでもいいんで教えちゃくれませんか?」


 大きく何度も首を縦に振っているギズルに腕を掴まれながら、ヤッシュも頷いた。


「そういう事情なら」

「こんな所で立ち話も疲れるし、休憩所にでもいくすよ!」


 ギズルがヤッシュの腕を引っ張りながら、カデリオに手招きをする。


「お前は自分が休憩したいだけだろう……はぁ、誰か交代呼んで来い」


 腕に引っ付いていたギズルを剥がし、しっしと追い払うような仕草で交代の門番を探しに行かせた後、カデリオの方へ向き直ると、ヤッシュが申し訳なさそうに提案してきた。


「確かにこんな所じゃ落ち着いて話もできんか。悪いが移動でいいか?」

「こっちこそすみませんね、お仕事の邪魔になっちまったようだ」

「いや、その件も仕事だから気にしないでくれ。こっちだ」


 村の門からそんなに離れていない場所にある石造りの建物に、先行して交代要員を探しに行ったギズルと呼ばれた男が入って行った。そのまま続くのかと思っていたのだが、ヤッシュはその横の建物の扉の方に進む。その奥側は厩舎になっているのか馬がかなりの数繋がれていた。


「あぁ、あいつが入って行った方は自警団の詰め所だ。あっちは後で行く。こっちが休憩所でこの時間なら他に人はいないから落ち着いて話ができるだろう」


 ギズルとヤッシュの両方に視線を移動させていた事に気づいて、ヤッシュが説明してくれた。


「そうでしたか。本当に気を遣わせたようですんません」


 扉を開けてすぐのスペースに暖房魔具と簡単な調理台、あとテーブルと椅子が4脚。ギズルが椅子を一つ引っ張ってきて腰を下ろしながら適当に座れと視線で伝えて来る。

 黙ってその指示に従い、ギズルの対面になるように椅子に座ると直ぐに彼が話し始めた。


「王都から訊ねながらとなると大変だったんじゃないか?」

「まぁ、足は鍛えてますからそれはいいんですが、やっぱり消息がつかめないのは…」


 しれっと返事をしているが、カデリオは王都からではなくトクスから来ているので、王都から程長く歩く嵌めにはなっていない。

 もちろん王都方向からと思い込んでもらえるように東側の門を選んだのはカデリオなのだが。


「盗賊の話は何処で?」


 軽い探りだろう。余所者を簡単に信用しない良い門番だとカデリオはスカーフの下でニヤリと笑った。


「ここの手前のコダルサからここへの途中ですよ。西から来たお人らの話を小耳に」

「あぁ、今朝方コダルサの方へ報告に行ってもらったからソレか…あいつらは全く…いや、それなら納得だ。盗賊の件は片が付いたのが昨日の事だったから、つい気になっちまってな」

「いえいえ、それで?」

「あぁ、盗賊は昨日の間にアジトも潰し終えているが……その…被害者の生き残りは…」

「……そう、ですか」


 カデリオの探し人は半月ほど前に王都から消えた。

 逃走方法によって変わってしまうが、もし馬なり何なりを使ったなら、この辺りに来ている可能性もあると踏んで探りを入れながら王都方向へ向かっていたのだ。

 盗賊の話を聞いたのはほんの偶然だったが、村に入って話を聞くには丁度いい話題だったのだ。


「じゃああっし以外に余所者が来たとか見たとかは?」

「悪いが、それもない」

「そうですか……」

「念の為、生き残りの盗賊と遺留品の確認もしてみるか?」

「それは出来ればお願いしたいですが、いいんですかい?」

「あぁ、盗賊の中にアンタの友達はいないとは思うが念の為だ。遺留品も……いや、そこにも何もない事を祈っとく」


 ヤッシュが立ち上がったので、カデリオも立ち上がりフードを深くかぶり直して後に続く。

 隣の詰め所の方へ移動すると、少し奥まった所に檻があった。


「こいつらが盗賊の生き残りだ」


 身を落とした者が纏うどこかやさぐれた空気に、カデリオがフードの奥で目を眇める。

 自分もそいつらと変わらない、それどころか更に悪い空気を纏っているだろうと思えば自嘲が洩れた。


「どうだ?」

「いません」

「そうか、それは良かった。じゃあ次はこっちだ」


 ヤッシュの案内で檻の向かいの扉を潜る。

 そこは仮眠室か何かのようで、簡素なベッドやテーブルが置いてあり、その部屋の隅に薄汚れた袋や鞄がかなりの数置かれていた。

 証拠品であり、もしかしたら遺品でもあるそれらに近づき、ヤッシュが手招きをしている。


「こっちはさっと見て終るような数じゃないが、気が済むまで見てくれていいぞ」


 ヤッシュは気を遣ってくれたのか、静かに椅子を隅っこに引っ張って腰を下ろした。

 カデリオはその様子を眺めていたが、意識を物品の方へ移す。

 女物の靴に髪飾り、切り裂かれた衣服には所々どす黒いものが見え隠れする。

 袋の中も覗いてみるがやはり換金用の品なのだろう、殆どが貴金属や小型の武器だ。こんな寂れた村の近くにアジトがあったにしては、そこそことは言え高級品がちらほら見える。恐らく先に見た馬が盗賊の物だったのだろう。馬での移動が可能なら、ここよりもう少し大きな村も狙えるはずだ。

 手前の方に置かれていた袋を確認し、並べられた鞄等の品物をみて、一番奥、袋の影に置かれた物に視線を移す。

 袋を少し動かしてソレを確認したところでカデリオの手が止まった。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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