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129話 ドッガ爺が見たもの



 少し過去の記憶に浸ったせいで萎れていたナイハルトだったが、村の外へ出る頃には気持ちを切り替えたのか、いつもと変わらぬ様子に戻っていた。

 

 先日エリィ一行とオリアーナが通ったギルド門を背にぐるりと周囲を見回す。

 目的のドッガは獲物用の罠を張っているらしいから、門や街道から逸れた場所に居るだろう。ならば闇雲に探すより巡回中の警備隊員を捕まえて聞いた方が早い。


 前から歩いてくる警備隊員3名を見つけ、これ幸いと声をかけた。

 すると運が良かったのだろう、街道から南に逸れた先で、目的の人物を見たという。

 真面目に警備をしている彼らから見れば、ドッガは仕事中に罠を張ったりするどうしようもない人物と思われていると考えていたのだが、彼の罠にかかる獲物は警備隊員にとっても楽しみになっているらしく、結構好意的に受け止められていて警備隊の専属ハンターと言っても過言ではない扱いの様だ。

 そんな訳で巡回の3名からは何の問題もなく情報を得ることが出来た。

 教えられた場所へと二人して暫く徒歩で向かえば、しゃがみこんで何やらしている背中を見つける。


 警備隊員が支給される金属製の胸当てに槍と言う装備ではなく、使い込まれた革鎧に腰に佩いた得物は直剣だ。

 往年のギルド員らしい装備ともいえる。

 不用意に近づきすぎる前に、ナイハルトは声をかけた。


「ドッガさん」


 振り向いた顔は年齢を重ねた柔和な表情をしながらも、頬や首に見える傷跡から一筋縄ではいかない雰囲気が残る、老年真っ只中のおっさん…というよりお爺さんだった。頭にも頭巾のような物を装備しているせいで、背後からでは髪色も何もわからない。


「おう、ナイ坊かい、なんじゃ、西じゃなく東の仕事かの?」

「ナイ坊はやめてよぉ」

「ふぉっふぉ、相変わらずラド坊とコンビか。まぁ気心が知れてるほうが安心できてええわい」

「んな!!」


 『坊』と言われてナイハルトは肩を竦めるだけだったが、ラドグースは目を吊り上げて一歩踏み出した。

 すかさずナイハルトがその肩に手を置いて軽く宥める。

 もういい年をした大の男が坊や呼ばわりされるのだから、ラドグースがいきり立つのも無理はないのだが、この近隣のギルド員はなりたての頃に一度はドッガの世話になっている為、大抵はナイハルトのような反応をする。


「ラド坊は相変わらずじゃなぁ」


 楽しげに笑いながら罠の手入れをして仕掛け直しているドッガだったが、背中越しに軽く話しかけた。


「ンな所で突っ立っとらんで、こっちゃ来い。これでも食っとれ」


 罠の作業の手を止めて腰にぶら下げた小袋の口を開くと、中から干し肉を取り出し二人に投げてよこした。

 新米ギルド員がほぼお世話になったドッガ自作の干し肉は、肉屋で売っている物より少し優しい味がするのだ。


 ナイハルトとラドグースも口々にお礼を言いつつも、ナイハルトの方は干し肉を手に持ったまま、ドッガの方へ近づきその隣に腰を下ろした。

 ラドグースはと言うと立ったまま干し肉をもぐもぐしている。


「ドッガさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今少し良い?」

「あ? どしたね?」


 再び罠の仕掛けを弄ろうとしていたドッガが手を止めてナイハルトへ顔を向けた。


「白暗月29日の事なんだけど、何か記憶してる?」

「……先月じゃなぁ。一か月も経っちまったら流石に覚えとらんの。すまんな」

「普通はそうよね~、変なこと聞いてごめんね~」

「いやいや、構わんけど、その日がどうしたんじゃ?」

「ちょっと……ドッガさんが子供連れの貴族を見たとか聞いたから」


 ナイハルトの言葉にドッガの目が丸くなったかと思ったら、途端に破顔した。


「あぁ、その事だったら覚えてるよぉ。珍しい事もあるもんだって見てたからじゃが」


 にこやかに返された言葉に、ナイハルトの目が微かに細められる。

 

「その話、詳しく教えて貰ってもいい?」

「別に構わんよぉ。あれは荷車から荷を下ろしてる時だったかねぇ、奥の方を騎手が子供を抱えて通ったんじゃよ。奥の方っつっても森の中だったから余計記憶に残っちまってのぉ。この辺はマシっちゃぁマシじゃが、そんでも魔物が出るのに貴族の子供、しかもあんな小っちゃい子を連れてるなんてビックリするじゃろ?」

「そうね、その騎手か子供の事、何でも良いから覚えてたら教えて」

「ふぅむ……子供のほうは3歳か4歳くらいじゃったかねぇ、まだ馬に乗れるような年じゃぁなかった。しかもさぁ、真っ白な服着てたんじゃよ…ありゃぁその辺の名ばかり貴族とはわけが違うじゃろうな」


 この近辺だけでなく、恐らくこの世界としても白と言っても大抵は白くない。生成り色だったり灰色がかっていたりするもので、真っ白な布を使えるのは貴族の中でも低位ではありえない。

 権威の象徴的なところがあるので、低くても伯爵位以上でなければ使うことが出来ない物なのだ。


「それにさぁ、騎手の方もこれまたビックリなお人だったんじゃよ」


 芝居がかった仕草で声を潜めて笑うドッガの言葉に、ナイハルトはそうだったと思い出す。

 ドッガは目が良い事でも有名なギルド員だったのだ。

 面倒見がよく若手の世話も楽しそうに請け負う彼は、元6階級ギルド員で今のナイハルト達より上位であった。

 主にハンター業で活躍していたが、ドッガの目の良さは特に有名で、百発百中だと言われていたほどだ。その上記憶力もなかなかよく、嘘か本当かは知らないが、この村の人間の名前は全員覚えてるんじゃないかとも言われている。


「ビックリって?」

「ナイ坊は知ってるかわからんけど、トクスの西に前線拠点があるじゃろ?」

「やーね、ここから北と西、あと南西の方に前線拠点があるって事くらいは知ってるわよ」

「ふぉっふぉ、そうかいそうかい。だったらその前線拠点への荷がどう運ばれるか知っとるかい?」


 ナイハルトは問われて少々考え込む。


「どっかの商会が運んでいくんじゃないの?」


 ふぉっふぉっと軽快な笑い声を小さくあげてドッガが首を横に振る。


「商会の人間は前線まで運んでくれやせんよぉ。なんたって魔の森に近い場所だ。商人が売るのは商品で命じゃぁないからのぉ」

「じゃあどう運んでるのよ」

「トクスまでは商会が運んでくれるんじゃが、その先は前線の兵士が受け取りに来るんじゃよ。荷物量次第で人数は増減するんじゃが、大体いつも3、4人でくるかねぇ。いい加減顔も覚えちまって、いっつも見かけりゃ挨拶くらいはするんじゃが、その時はいつもの兵士だけじゃなかったんじゃよ。誰だと思うね?」


 とても楽しそうに聞いてくるのが地味に腹が立つが、ナイハルトは大人しく言葉を飲み込んで考える。


「……降参よ、わかんないわ。前線拠点の人の名前なんて知らないんだもん」

「ふぉっふぉ、降参でいいんかい? ナイ坊だって知ってる名前だと思うんじゃが」

「え……まさか、それはないわよね」


 ナイハルトは自分の脳裏に浮かび上がった名前に、ありえないと軽く頭を振った。


「誰じゃと思うたね?」

「私が知ってる名前ってなると、西の中央砦のコッタム子爵…くらいだけど」

「ほほ、やっぱり知っとるじゃないか」

「そりゃ知ってるわよ、だって剣技の実力でのし上がってきた彼の話は知る人ぞ知るで……って、本当に?」

「なんじゃ、ワシの目を疑っとるのか? こんな年じゃが目はまだ衰えとりはせんわ。まぁ足腰は年相応じゃがの」

「だけどコッタム子爵って総指揮官よね?」

「そうじゃ、だからワシだって驚いたんじゃよ」


 最前線の、しかも要の中央拠点を預かるコッタム子爵はとても真面目で誠実な人柄だと聞く。

 彼も魔力なく生まれたせいで、出世は難しいと思われていたのだが、優れた剣技で魔物を幾度となく切り伏せ、前線の維持に多大な貢献をしてきており、それは現在進行形で続いている。

 それが評価され、危険な西方前線拠点ではあるが、その総指揮官にまで上り詰めた彼は、前線からただの一度も下がることなく魔の森を睨み据えているのだ。

 自分が下がれば前線が崩壊するとでも思っているか、会議などがあっても副指揮官を代理で送ってくるくらいだ。そんな彼が荷の受け渡し程度でトクスまでやってくるとは到底思えない。

 ましてや子供を抱えて等……。


 その後ドッガともう少し話てから、ナイハルトとラドグースはその場を後にした。

 今得た情報がどう繋がるのかはわからない。だけど妙に居心地が悪いと言うか、嫌な予感がして気持ち悪さが拭えなかった。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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