116話 ギルドの一室で情報共有
「あ”~~~腹減ったあ”あああ」
「煩いわよ」
「ったく、ラドグース、お前は何時になったら優先順位ってモンを覚えるんだ?」
やっとギルド舎が見えて来た所で、ラドグースが自分のお腹を擦りながら盛大に零すと、その両脇に居た2人から冷めた視線が向けられる。
それに萎れ、足の進みが遅くなりかけたが、すかさずナイハルトが腕を掴んで強引に速度を維持すると、ラドグースから泣き言が洩れた。
「せめて水ううぅぅぅ!」
周囲の耳目を集めながらギルド舎に到着すると、ゲナイドはラドグースを連行するナイハルトに先に2階へ上がれと指示してから受付へ向かい、見知った顔を見つけてそちらへ近づく。
「はよーさん、ちょっといいか?」
「ん? あぁ、ゲナイドさん、おはようございます。受注ですか?」
受付窓口に丁度一人座っていたケイティを見つけて声をかけた。
「いや、ヴェルザンはいるか?」
「ヴェルザンさんですか? いると思いますけど、何か用なら呼んできましょうか?」
「頼めるか?」
ケイティはゲナイドの頼みにあっさり頷いて席を立つと、そのまま奥の部屋へノックしてから入って行く。
暫くするとヴェルザンが部屋から出てきた。その後ろにケイティも続くが、彼女はゲナイドの方へ来ることなく、受付の方へ向かい業務を再開した。
「ゲナイド様、おはようございます」
「はよーさん…今ちょっと時間取れるか?」
「えぇ、直ぐ向かいますので、そっちの階段上の部屋でお待ちいただけますか?」
以前エリィ達と上がった階段の方へヴェルザンが視線を向けたので、了承の頷きだけ返してから身を翻す。
未だにグチグチ垂れているラドグースをナイハルトに連行させて、2階に上がってすぐの部屋へと入った。
部屋に置かれている椅子を適当に引き寄せ、暫く待っていると、扉をノックする音がする。
しかし入ってこない様子なので、ゲナイドは慌てて声を出した。
「ぁ、すまん、入ってくれ」
「失礼します」
「ったく、一々返事待ちとかすんじゃねぇよ、面倒くさい」
やや剥れたように言うゲナイドに、ヴェルザンは苦笑を漏らすが、扉を後ろ手に閉めると、彼も空いた椅子に腰を下ろす。
「それで、早速ですがどうですか?」
「手掛かりなしだ。血の跡を追ってはみたが、途中で途切れててな、そっからは多分、村の外に出たんじゃないかと思う」
「そうですか……」
「そんで、そっちはどうなんだ?」
ヴェルザンが小さく息を吐くが、その様子がかなり疲れて見えて、ゲナイドはやや目を見開いて固まった。
いつもなら少々仕事が立て込み、数日休む間がなくても、こんな疲れを見せる事はなかったからだ。
「って、おい……大丈夫か?」
「ぇ? あぁ、済みません……何やらご心配をおかけしたみたいですね。私は大丈夫ですよ。
通いのメイドからは特に有益な情報は得られませんでした。彼女が出入りして良かった場所にはコレと言った物もなく……ただ鍵が掛けられる魔具箱は押収して、先程開錠も終わりました」
「何か出たか?」
「一応馬鹿は馬鹿なりに保身は考えていたようで、帳簿の一部と、手紙が入っていました。帳簿の方はまだ手を付けていませんが、手紙の方は全て目を通しました」
「お、証拠になりそうか?」
わざわざ鍵付きの魔具箱に保管するのだから、余程重要な書類か何かだろうと踏み、ゲナイドの表情が少し上向くが、それにヴェルザンは神妙な面持ちで首を横に振った。
聞けば手紙の方はメナルダ子爵とのやり取りの物が主なようで、『処分』等の単語は見受けられるものの、具体的な指示、名称がある訳ではなく、証拠とも言えないような物ばかりらしい。
ただ、一通だけ――記名のない封書があり、中には日付と時間、それと場所のメモと、まるで子供が書いたような雑な地図が一枚入っていたとの事。
それ以外には魔紋の刻まれたリボン状の送信具、銀平貨が20枚ほど入っていたという。
「決め手どころか、傍証にもなりそうにない、かも……」
「一応魔紋入りの送信具の方は解析をお願いしているのですが、まだ少し時間がかかりそうです。日付、時間と場所の書かれたメモは、今場所の特定を急いでいますがね」
「日付?」
「えぇ、白暗29と」
興味をひかれたのか、ナイハルトが顔を突っ込んでくる。
「白暗となると先月ね、何かあったかしら?」
「すぐには何も……はぁ、どうにも後手に回ってしまっていますね……」
「先月のパウルの行動は、誰か探ってるの?」
「まだそこまで調べられていませんね」
「そう、じゃあ私にやらせてくれない? 動き回るのはゲナイド達にまかせるとして、ラドグースを抑えながらだと出来る事があまりなくなっちゃうのよ」
ムッとしたのかウググと低く唸るラドグースの頭を一発叩いて黙らせると、ゲナイドに視線を向けて「どうかしら?」と訊ねた。
「ラドグースはその辺に転がしてていいから、ナイハルトはそれ頼めるか?」
「えぇ、任せて頂戴。と言っても部屋で記録漁るとかしかできないけど。待機よりずっとマシよ! もうほんっと暇で暇で」
ナイハルトの心の底からの言葉に、苦笑いしか浮かばないが、ふと思い出したようにゲナイドはヴェルザンを見る。
「そういや騎士団の方はどうなってるんだ?」
「あちらも今のところ何も。ビレントス卿らがケッセモルト団長を何とか抑え込んで下さっているようですが、それが精一杯のようで」
ゲナイドは肩を竦めて首を横に振る。
「とりあえず魔紋の解析とメモの特定待ちか?」
「そうなりますね」
「それじゃあエリィはどうするんだ? 馬鹿ウルを警戒するっつってもなぁ……」
「えぇ、彼が逃げ出したにしろ、連れて行かれたにしろ、ここへはもう戻ってきそうにないですが、念の為今日くらいはこのままでお願いできませんか?」
「わかった。そう伝えとくよ。あ~、もしメモと地図のうつしでもあるなら、預かっていいか? 一応お嬢にも見てもらうわ」
「わかりました。ただ証拠品ですので、見終わったら速やかに返却をお願いしますよ?」
ヴェルザンは一度退室し、再び戻ってきた時には何枚かの書類を手にしていた。
植物紙にしろ羊皮紙にしろ、消耗品は安くないのに申し訳ないが、うつしを渡してもらうと、ゲナイドは腰のマジックバッグに丁寧に入れる。
ゲナイドは椅子から立ち上がり、部屋から出るとそのままギルド舎を後にし、一路『馬蹄と銀の二葉亭』を目指した。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)