112話 色々ありすぎたトクスの夜が明けて
モザイク案件な遺体をさくっと始末した後、僅かに白み始めた夜闇に消えるカデリオと別れ、フィルの転移で宿の部屋へと無事に戻ることが出来た。
部屋の扉越しに気配を探ってみると、オリアーナは部屋ではなく一階の厨房付近で転寝をしているようだし、ゲナイドは出かけているのか気配そのものがない。
どこに出かけたのか気にならない訳ではないが、そのうち機会があれば知る事もあるだろうと、ベッドの住人になる事を選択する。もう完徹と言って良い程に朝の気配が満ち始めているが、思う以上に疲れていたのだろう、エリィだけでなく、アレクとセラ、そしてフィルも瞬く間に眠りに落ちて行った。
トントン
何かを叩く音に、エリィの意識があっさりと浮上する。
ベッドで意識を手放してから2鐘も経っていないせいか、少々ぼんやりしてしまう。
「……はぃ…」
気配から言ってオリアーナだと思うが、時間的には朝食のお誘いだろうか。
もぞもぞとベッドから降りて部屋の扉の方へと向かおうとするが、思い出したようにエリィは自分の姿を点検する。
(仮面の包帯が緩んでるけど、外れてはいないから良し。ぁ~…外から戻ったまま寝ちゃってたか、流石にこれは詰問されそう…と、それどころじゃないわ……どうしよう、成長してることをどうにか誤魔化せないかしら)
ペタペタと自分の手と目で、自分の姿を確認した後、急いでシーツを頭から被る事で誤魔化そうと足掻いてみる。
(ぃゃ、そも誤魔化さないくても大丈夫だったりしない? そうよ、私は種族不詳と言われているのだし、もしバレたらそれで押し切る事にしましょ)
そう決めてシーツを被ったままのそのそと扉に近づいて施錠を解き、透かし開けてみれば、やはりオリアーナが立っていた。
「おはよう、気分はどうだ? かなり疲れていたみたいだと聞いている……が、まだ眠いみたいだな? シーツを引きずっているぞ」
エリィの無事な姿を見てほっとしたのもあるのだろうが、やはりシーツを頭から被っている姿は何か誘うものがあるのか、オリアーナが目を細めて笑う。
「ぁ~、そうですね、気分は大丈夫です」
返事をした所で向かいに立つオリアーナの様子が変な事に気づき顔を上げてみれば、じっとエリィを怪訝な表情で凝視している。
「……ぁの?」
少しばかり居心地悪気に訊ねてみれば、オリアーナは目線の高さを落とすために床に膝をついてエリィに合わせたかと思うと、横から眺めてみたりと、何か確認しているようだ。
「エリィ……もしかして成長したか?」
やはり気づかれるかと、浮かぶ苦笑を顔を俯けることで隠す。
「ぁ、そう…ですか? 起きたばかりでよく…」
「あぁ、頭の位置が昨日より高い。ほんとエリィの種族は不思議だな…全く想像がつかないよ」
はは…と誤魔化すように笑えば、とにかく朝食にするべく準備をしてくれと言われたので、まずは着替えねばなるまい。
部屋での食事ならシーツを被ったままでもオリアーナが笑うだけで済むが、飲食スペースでと言われれば、流石にシーツというのは問題だ。
一旦扉を閉じ、部屋の隅に移動してから、改めて自分を見下ろす。
アレクもセラもフィルもぐっすり眠ったままだが、シーツは被ったままの方がいいだろうと彼らに背を向けた。
昨夜欠片を回収してから自分の姿の変化は後回しにしていたが、銀色部分が当たり前だが減っている。
1回目の回収後は仮面の下から肩の中程にかけての首部分と右腕が、肌色に変化していた。
今回…2回目の欠片回収後は上記に加え、胴の胸部分と左手の肘から先、そして左足が肌色になっている。
随分と銀色部分が減ってしまって、ちょっと近未来感が気に入っていたのに、そこは少し残念だ。
しかしそのおかげか、体内魔力は以前に比べて格段に上がっている。
昨夜幾ら魔素が多めの場所だったとはいえ、氷の鎖とか発動できたのはこれが大きな理由だろう。実際今現在は環境魔素がとても薄いにも拘らず、氷の槍だの風の球だのが楽に発動できている。この分なら治癒魔法他の発動も楽にこなせそうだ。
もちろんぶっ放すことはできないので、手の上で暫く遊ばせては消している。
自分の体と能力の確認は、今は時間がない事だしざっくりしたものだけにしておくとして、困ったのは衣服だ。
欠片回収による成長で、折角見繕った少し女の子らしいデザインの衣服が、見事に引き裂かれ、最早衣服の体をなしていない。
ただでさえ素材も安いモノな上に、長い間放置されていたものだから、強度が落ちていたのは仕方ないにしても、どうしたものか…と収納を漁ってみる。
テントで回収した、恐らくズース氏の持ち物だろう藍色のフード付きポンチョを溜息と共に取り出す。
フィルが目覚めたら村の店で何か買ってきてもらうとして、今はこれで急場しのぎする他ないだろう。
ハレマス調屯地で見繕った衣服は、子供用の方はどれも小さくなってしまっているし、女性用はフード付きがなかったので、処分予定で収納に放っておいたこちらの衣服しか手持ちがないのだ。
もちろん最初に装備していたものはあるが、無駄に高級感があるからとできるだけボロッちい衣服に交換したのだ。すっと視線と思考の外に追いやる他あるまい。
(今カデリオだっけ…彼が近くに居ない事だけが救いね。私は何もしていないとはいえ、この服のせいで変に疑われた挙句、万が一敵対する事にでもなったら笑えないもの)
もう手袋は必要がないので外して出ても良いだろう。長い袖の先から見える部分はもう銀色ではない。
脚は上着のせいであまり見えないので適当で問題ない。
靴に関しては当然これも後程手に入れるしかないが、朝食するだけならば布なり毛皮なりと巻き付けるだけでも誤魔化せるだろう。
未だ身じろぎもせず眠り込んでいるアレク達の様子に、小さく頷くとエリィは部屋の外へと身を滑らせた。
「すみません、遅くなりました」
すでにテーブルに座っているオリアーナにとてとてと近づき椅子を引いて座る。
今もまだすんなり座れるわけではないが、以前のようによじ登らなくても良くなっている。身長にすれば20㎝くらいの変化がある感じだ。
「大丈夫だ。とりあえず朝食をしてから今日の予定を考えようか」
オリアーナがエリィに笑顔を向けた後、椅子に座ったまま奥の厨房の方へ声をかけると、奥から女将がトレーに乗せた朝食を2人分運んできてくれた。
女将からそれを受け取り、一つはエリィの前に置いてくれるのだが、酷く薄味なのを思い出して、微かに苦笑が混じりそうになるのを既の所で耐える。
「それにしても、そこまで急に成長したとなると、着替えに困っているんじゃないのか?」
黙々と、硬いパンとあまり味のないスープを胃に詰め込んでいると、オリアーナが何処か気遣うような表情で話しかけてきた。
最後の一口を何とか飲み込み、オリアーナの方へ顔を向ける。
「大丈夫ですよ」
朝市では本当に何から何かで支払ってもらってしまったので、衣服くらいは自分でどうにかしたいと思い、薄く笑みを乗せて頷く。
もちろん購入そのものはフィルに行ってもらうしかないが、お金はあるのだ。しかも前日にゲナイドに運んでもらったポーション代もまだ受け取っていない。
「だが、それ男物だろう?」
オリアーナも食べ終わったようで、話しながら席を立ち、エリィのトレーと合わせて厨房の方へと運んでいる。
「……お婆さんの持ち物にあったんですけど、変ですか?」
(そうだった…私はお婆さんに拾われて育てられたのに、男物というのはおかしいのかもしれない……ぃゃ、お婆さんのなくなった家族のものだとかだったら問題なさそうな気もする)
若干焦ったようになっているエリィの声に気づいていないのか、オリアーナはすんなりと納得した。
「お婆さんの持ち物だったのか、なるほど。あぁ、変じゃないよ、大丈夫」
(見知らぬお婆さん、便利すぎだろ)
そんな事を考えながら、人から見えないようにほっと胸を撫で下ろすエリィだった。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)




