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はじめまして、異世界人です。ー3

目を開けたら、50代の知らないオバサンの顔があった。

30センチくらいの距離に。

平行眉毛に黒いつり目、左目の下には小さいほくろがあって、薄茶色の髪の毛を無造作に左下に束ねている。

口角の下がった口元やほうれい線、こけた頬が味って顔してる。

「うっっっわぁーーー!!!」

お互いに肩がびくっと跳ねて、後ずさった。

「こっわー!

寝起きで知らんオバサンの顔、こっわー!

心臓に悪っ」

思わず左手を胸に当てた。

動悸が凄い。

「誰がオバサンだっ」

目の前のオバサンに頭をぐーで殴られた。

「イテェ、何すんだよ!ってか、オバサン、誰!?」

また殴られた。

しっかり同じ所に第二関節ぶつけてくる。

いや、マジ痛いんだけど。

「私は医者のヘルガだ!起きたと思ったら人の顔見て失礼なっ

ーーーアンタ、寝る前の事覚えてるかい、」

「はあ?寝る前?え、俺まさかオバサンと…、」

「バカたれ!私だって選ぶわっ」

「だよな~っえ、でも俺、結構モテる方だけど、」

また殴られた。

だから同じ所は痛いって。

「しっかり思い出しな、」

「え~……、と、……………」

確か、久しぶりに休みが重なって、りんとアケちゃんと遊びに行こうとしてて。

そうだ、突然地面がなくなって水に落ちた。

なんとか水の上に顔出したら。

ヨーロッパの湖城みたいな。

ファンタジー映画とか夢のランドな城とか、テレビで見る世界遺産的な。

あ、そういや足引っ張られて一気にホラーパート突入した、ような。

水ん中、水草、でっかい影、………………、

「こら寝るんじゃない、現実だ、」

布団に潜ろうとしたら止められた。

布団を引っ張られて剥がされる。

「閻魔様って男だと思ってたけど、」

「何だい、それは」

「死んだ後の裁判所のエライ人」

「死んどらん。私もお前も、」

「いや、だって、」


「しっかりしな。現実だよ、異世界人」


オバサンが俺を見据えた。

大きなつり目で、まっすぐ俺を捉えている。

漫画や小説でしか聞いた事のない響きが、心臓を貫いたような感覚でこだまする。

「は、…っはは……、」

何だ、コレ。

大学を出て、悪くない給料の会社に就職出来た。

趣味や経験値とは全く関係ない、ネットショップのポップアップイベント営業の仕事。

それなりにやりがいもあったから、休みがない仕事だったけど、イベントも研究して業務も効率化して、末端だけど役職にも就いた。

それでも休みが休みじゃないハードな日々が続いて、ちゃんと休みたくなって転職しようと退職の準備をしていた。

突然のファンタジー展開は予想してなかったわ。

一応まだ会社員が、リストラも倒産もしてないのに突然無職になるとか、あるか?

聞いた事ねぇ。

「信じられないだろうけど、アンタら、まとめて異世界に来たんだよ。この世界はアンタらみたいな人間がたまにやって来るんだ。私らは『異世界人』と呼んでいる」

「冗談、じゃ、ねぇ、」

「本当に冗談じゃないんだよ。ほんでこの世界ではアンタら異世界人を保護する義務があってね、悪いけど落ち着いたらこの世界のことを勉強して貰うことになる」

「…………」

言葉が出て来ない。

さすがに。

「まあ、お茶でも飲みな、」

知らない間にメイド服に似た格好の小柄な女が、お茶を持ってきてくれていた。

白いマグカップに赤茶色の液体が入っていて、ハーブの香りがした。

オバサンにマグカップを渡されて流れで受け取ると、人肌温度に温かくて、落ち着く気がする。

「だいぶ昔の異世界人が広めたお茶だ、」

「へえ、大層だな、」

「その異世界人は馬車で苗や種を運んでた途中に、馬車ごとこちらに来たらしい。走ってた道が突然変わったんだとよ、」

「……俺らは空中だったのに、そいつはズルいな、」

「ははは、確かにね。オマケに川ん中落ちて溺れてんだからまた、格別だったろう、」

「そんなカクベツ求めてない、」

お茶をゆっくり口元に運ぶと、カモミールティーの香りが広がって鼻に抜けていった。

母さんがよく飲んでた気がする。

思い出したくなくて、紅茶自体飲まなくなってたな。

橘家は緑茶が主流で、働き出してからはコーヒーばっかりだった。

「アンタは減らず口が達者だねぇ、」

「おかげさまでね、そういう仕事だった」

もう一口、お茶を飲む。

温かい液体が食道から胃腸に浸っていくのを感じた。

人間、温まると元気が出るのは間違ってないと思う。

「ところで、名前は何て言うんだい、」

「ん?…ああ、そういやまだ何も言ってなかったっけ。

俺は、たちばな楪日ゆずりひ だ。28歳、独身。一緒に来た二人のうち、長い黒髪の子の兄貴だ。血の繋がりは殆んどないけど。もう一人は友達で、三人で遊びに行こうとしてた、」

「タチバナ?ユジュ、ユズ……、」

「ゆずりひ。変な名前だろ、言いにくくて。皆ユイとかユズとかユリとか、呼ぶ。オバサンも好きに呼んでくれ、」

「だから、ヘルガだって言ってんだろっ」

額をベチンっと叩かれた。

げんこつじゃないから痛くないわけじゃないんだが。

痛い場所が増えた。

「それで?今、どういう状況なわけ、」

「話してもイイのかい?」

「他に話すことある?」

「面白い、」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


要約すると、異世界から俺達がやってきて川に落ちた。

本来なら城に向かって泳いでたら普通に保護されるはずだったが、川に水草の魔物が知らないうちに大量発生してて三人共襲われて、その川に棲息してる水竜の親子が助けようとしてくれていた。

大きい影はその水竜達で、彼らも魔物に捕らわれてしまった所で、ここの騎士団ってやつの団長達が助けてくれて、魔物も撃退してくれた。

完全に気絶してたから、この医務室まで運ばれて、最初に目を覚ましたのが俺。

って事らしい。

仮死状態だったから救命措置されて、その際に魔力ってやつを吹き込まれたが、何故か妹のりんは助けてくれた団長の魔力を半分ぐらい持って行った挙げ句、奪い過ぎて具合が悪くなった、と。


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