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はじめまして、異世界人です。ー2

アルベルト様が屋上で倒れて、騒動の収拾をダルフが任されていたので手伝おうとしたら、医者のヘルガに止められた。

「あんな魔法使っといて、倒れるどころか平然としていられるのもおかしいがね、そんくらいのことだって自覚を持ちな!元の魔力量が多いとは言え、体調不良の自覚がないのはあんたも困った子だねぇ、」

「いえでも、アルベルト様が魔力補助してくださいましたし、」

「あの魔力オバケは関係ないんだよ!ったく、そのオバケが魔力不足で潰れるのもおかしな話だが。とにかくあんたも顔色が悪い!あの子らと一緒に寝ときな」

運んで来た女性二人が寝ているベッドの仕切りを指さされ、背中をはたかれた。

「では座ってるだけで、」

「私は寝ろと言ったんだが、」

「いえ、でも、この子達がいつ起きるかもわかりませんし、」

「こいつらはしばらく起きないよ、特にこっちの髪の長い子はね、」

仕切りの奥で顔だけ見えている二人のうち、右側の髪の長い女性に目をやる。

アルベルト様と同じ黒髪で、彼の魔力の半数を奪ったとダルフに説明されてにわかには信じられなかったが、彼女から漏れてくるアルベルト様の魔力の気配が、嘘ではない事を表している。

一気に奪った事の反動で酷い魔力酔いを起こしており、医務室に運ばれた時には蒼白い顔色でぐったりしていて、ヘルガが慌てて処置をしていた。

一番適切な処置をするにはアルベルト様がいないと難しいらしく、症状を緩和させる魔法薬を口の中に流し込んでいた。

他の二人はただ気絶して眠っているだけとのこと。



本当なら風呂放り投げたいところだが、と文句を言いながら、ずぶ濡れのままの三人を着替えさせるように指示された。

「ジュディス、オデット、そっちの女子二人の着替え手伝ってやんな、」

ヘルガが医務室の看護師二人に指示し、個室になっている診察室のドアを開けた。

小柄なオデットが先に入って着替え等の準備を始め、大柄なジュディスと私で二人を運んだ。

対照的な二人だったが普段からも姉妹のように仲が良く、コンビワークもヘルガに信頼されている。

オデットは30代後半の主婦で、ジュディスは私と同じ28歳の、異世界人だった。

三年前にトウク城領にやって来た転移者で、異世界でも看護師をしていたらしい。

明るく気さくな性格で、お菓子を作るのも食べるのも大好きだと、トウク城下の菓子屋に革命を起こした人物だ。

こちらでの生活に慣れるまで面倒を見てくれたヘルガとオデットに感謝しており、今はお菓子の考案だけで暮らしていけるが、義理堅く今も医務室で働いている。

異世界はいろいろあるが、少なくともジュディスは今回の転移者達の気持ちも理解して寄り添いやすいだろう。

「ユエリス様、すみません、お持ちの服でこの子達にお貸し頂けるものがあればお願いしたいのですが、」

オデットが診察室で着替えを出したが、薄い生地の下着のようなガウンしかなく、これはいくら何でも…と眉間にシワを寄せて口ごもっている。

「わかりました、すぐに持って来ます」

そう言って微笑み診察室内の仕切りを戻すと、自室に向かう。

ジュディスが光魔法で二人を保護し、服を脱がせる準備をしているのが見えた。

自室から衣服を二人分持って戻って来ると、診察台の上で毛布にくるまれた転移者二人と妙にテンションの高くなっているジュディス、お湯とタオルを数枚ずつ用意したオデットがいた。

「生地の厚い下着と着やすい服を持ってきましたが、」

「ありがとうございます。多分、私達の服では合わないと思ったのでお願いしました」

お湯に浸したタオルを絞って身体を拭き、すぐに乾いたタオルで拭いていく。

長い髪の女性をオデットとジュディスが手際よく拭いて服を着せていた。

私はもう一人の髪の短い女性を拭いていき、二人があちらを終えた時点で代わってくれた。

ジュディスと二人を医務室のベッドに移動させる。

「ふう、ジュディスもオデットも本当に手際がいいですね。私はなかなか難しかったです」

「うふふ、私はご老人や障害で寝たきりになった人の看護もやっていたので、慣れですよ」

にかっと笑う顔が太陽みたいで、本当にいい子だな、と思った。



仕切りの中から出てくると、ヘルガに寝るように言われて、追い込まれるように仕切りの中に戻された。

ベッドに座ってようかな、と思ったが、座ったら倦怠感に襲われたので、剣を外して大人しく寝る事にした。

思ったよりも身体が疲れていたらしい。

彼女らの方を向いて横になると、意外と早く記憶が途切れた。



そして女性の叫び声に驚いて目を覚ますと、目の前で眠っていた女性が激しく取り乱していた。

癖で剣を構えてしまい、それが余計に恐怖心を煽ったらしい、逃げるようにベッドから落ちて、魔力酔いで眠っている髪の長い女性を動かそうとする。

仕方なく手首を組んで押さえつけていた所に、ヘルガが仕切りを蹴り飛ばし、注射器を持ちながら強い口調で注意おどした。

注射器持ってもう一回眠らせる、とは。

でもそれでちょっと怯んで、既に起きていた男性を見て安心したようだった。

抵抗しない事を確認して手首を解放すると、静かに涙をこぼしている。

目元に挙げた彼女の両手首に自分の手形がガッチリと残っていて、やってしまったと罪悪感を覚えた。

「ユエリス、こいつはこの通り元気だが、念のため栄養剤を打っといたよ、」

「ありがとうございます」

「オバサン、注射は下手だけどありがとうなっ」

「一言多い!」

ヘルガは男性と仲が良さそうに話している。

ヘルガに対してあんな口調で喋る勇者なんて見たことがない。

ましてや、オバサンだなんて。

「さて、今度はアンタだけど、何の問題もなさそうだね。アンタも一応、栄養剤打っとくかい、」

さっきの厳しい声とはうって変わって穏やかな声音のヘルガが、髪の短い女性に問いかける。

「いえ、私はあの人より若いので大丈夫です、ありがとうございます」

「ははは、そうかい」

「さっきはすみませんでした」

礼儀正しく、ベッドを降りて綺麗に頭を下げる。

髪の長い女性の体勢を整えようとジュディスが傍に寄っていた。

頭を下げてる女性の後ろに立っているジュディスの目が、何故か嬉しそうにキラキラしている。

「ちゃんと落ち着いて話せるんだね、」

「はい。あまりの出来事にもうワケわかんなくなってしまって、」

「一番冷静でいそうなアケちゃんが真っ先にパニクってるから、俺もビックリしたぜ~っ」

「ゆいさん、」

『ゆいさん』にからかわれて、『アケちゃん』が恥ずかしそうに両手で顔を隠した。

皆、落ち着いて話せる状態のようだった。

アルベルト様はどうだろう、

「ヘルガ、アルベルト様はどうでしたか、」

「とりあえず魔力上昇剤三本打ったし、起きたら魔力不足症状の回復薬飲ませるように渡してきた、」

「ありがとうございます」

「起きたら知らせが来るだろうし、回復薬効いてきたらここに来るように伝えたから、大丈夫だと思うね、」

「このままここで話しても?」

「また不足の急患が来ない限りはかまわないよ。まあテキトーに風呂入らせてやってくれ」

「わかりました」

さて、この転移者達は、事実を受け入れられるだろうか。



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