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はじめまして、異世界人です。ー1

目を開けて目の前にいたのは、好みドストライクの、アッシュブロンドのとてつもない美女だった。

色しっろ!睫毛くそ長!!寝顔かっわよッッッ

私またやっちゃった?

最後の元カレを吹っ切れなかった時の癖が出たのかな。

元カレは惚れっぽい性格だった。

それでも止められなかった自分の恋心を呪った。

自分をちゃんと好きになって貰ってから告白して付き合ったのに、ちゃんと彼氏だったのは四ヶ月、五ヶ月目の後半で、目移りし始めた。

六ヶ月目、一発目の浮気をやらかされて、その後は月に一回以上の浮気を繰り返された。

三回目の浮気の時、相手は元男性の女だった。

六回目の浮気でとうとう男が現れて、問い詰めた。

彼はパンセクシャルだった。

そこからはあらゆる性が彼の対象であり、浮気されるのが怖くてたまらなくなった。

何度浮気されても好き過ぎて別れられなかったけど、彼と会った事のない同僚や友達でさえも警戒する自分がどんどん嫌な人間になっていくようで、苦しくて仕方なかった。

八ヶ月目、自分もワンナイトしてみた。

元女性の男、ヘテロの男、レズビアンの女、元男性の女、バイセクシャルの男、いろんな性の人間を、安い居酒屋で飲んだ後にバーで何杯か飲んで、酔った勢いで引っかけるのが恒例になっていった。

私もパンセクシャルだった。

それを見た彼が傷ついて泣くのを見て、ちゃんと私の事を好きなんだって思ったら、嬉しくてゾクゾクした。

それから二ヶ月くらい経って、親友のリトに思いっきり平手をかまされた。

涙が彼女の頬を伝って、何で自分を傷つけるんだって。

誰も幸せじゃない事に気付いて、大泣きした。

数日後、彼は元カレになった。

その後も酔うと気に入った相手とワンナイトする事が何回かあったが、それもむなしくなっていって、最近はもう全然そんな欲すらなかったのに。

眼福…いや、もう至福です!

ありがとうございます!

リトはワンナイトも嫌がってたけど、そんなこと、ナイYO☆

こんな美女引っかけられたなら、記憶ないけどもう幸せでしょ!

むしろもっかいやっちゃうってのも…。

「でゅふ…っ」

変な声出た。

きっと自分が変な顔してると思って、気を取り直そうと身体を起こした。

白いパーティションの間から、メイド姿の女性や帯剣してる男性達が歩いているのが見えた。

「……、え……?」

コスプレ?

ファンタジーゲームに出て来そうなやつ。

そういうイベント会場来た覚えないけど。

ふわっと周りを見渡すと、左にリトが寝ていた。

何か髪の毛が湿ってる。

右を見返すとさっきの美女がいる。

そのすぐそばに、細長い剣が鞘に収まって立てかけてある。

自身の両手を見ると、右耳にかかっていた髪の毛が一束前に落ちてきた。

生乾きのにおいがした。

レースの生成のブラウスに袖を通してる自分の腕。

こんな服、持ってない。

「………!!!」

そうだ、久しぶりにリトとゆいさんで遊びに行くって、二人の家に行って。

突然地面抜けて川だか湖だかわかんない水ん中落ちて、苦しくて苦しくて。

……え?

ちょっと待って。

意味がわからない。

ここ、どこ…?

怖い。

「いやぁぁあああ!!!!!」

右で寝ていた美女が飛び起きて剣を構えたのが見えた。

それがまた怖くて、

「いやぁあ!やだーーー!」

怖い怖い怖い!

何で何で!?

わかんない!

気持ち悪い。

家に帰りたい!

「やだぁっやだ!やだーーーーーーッッッ」

寝ていたベッドから転がり落ちた。

美女が駆け寄って来たのも振り払い、這うようにリトのベッドにしがみついて、震えながらリトを揺さぶる。

「落ち着いてください!」

「イヤ!!!」

リトの顔色が悪く、唇が真紫に青ざめている。

「リト!起きて!お願い起きて!!!」

美女に後ろから両手首を掴まれて、全力でもがいた。

だめだ、こんな所にいては!

帰らないと!

右手首を振り払い、右手でリトに覆いかぶさった。

「リト!ダメ!帰るよ!」

「やめてくださいっ」

リトの肩を起こそうとして、再度手首を掴まれた。

今度は腕をクロスされて、身動きが取れない。

女性とは思えないほどの強い力で肩から押さえつけられてる。

全力で身をよじるが全く動じなかった。

「落ち着いてください、彼女は病人なんです」

「リトに何したの!どうするつもりよ!はなして!!」

「力を抜いてください、」

「やだッッッ」

肩をねじろうとして、パーティションが勢いよく倒された。

「うるさいね!病室で騒ぐんならもっかい寝てもらうよ!」

注射器を右手に持った50代くらいの細身のオバサンが、眉間にシワを寄せて私を睨んでいた。

白衣のガウンを右腕に引っかけて、左下にくくった薄茶色の髪の毛が胸元に降りている。

黒いつり目が私を見据えている。

液が今にも溢れそうな注射針が、喉を鳴らさせた。

「ヘルガ、注射器は置いてきてください、」

「騒ぐのが悪いんだろう、こっちは処置一つ一つに神経尖らせてんだ、患者の安静を妨げる患者なんか、私は看ないよ悪いけどね」

「まあまあ、」

「アンタ、パニックになるのもイイけどね、こちとら溺れたアンタらを助けてやったんだ、先にあっちの兄ちゃん終わらすから、そこで大人しく待ってな!出来ないならホントに放り出すよ!」

注射針を向けられ、更に凄まれた。

喉がまた、ひくっと鳴る。

女医か看護師か、ベテランの医療者な事はわかった。

彼女越しに、黒髪の若い男性がこちらを向いている。

「…ゆいさん?」

「おうアケちゃん、大丈夫だからゆっくりしといて~」

左手を挙げてひらひら回し、オバサンに頭をはたかれていた。

いつもの銀縁眼鏡をかけて、ニコニコ笑っている。

一瞬歪んだのは、注射針を刺されたからだろう。

「オバサン、注射くらいもっと丁寧にしてくれよ」

「誰がオバサンさんだっもっとぶっといもん刺されたいのかい、」

「いやあ、ぶっといのはもう持ってっから…イテェ!」

「若い子もいるんだから下品なこと言うんじゃないよ、バカたれ」

オバサンに手の甲を思いっきりつねられ、腕に止血用の絆創膏を貼られたゆいさんは、腕よりも手の甲をさすっている。

「そっちじゃなくて絆創膏押さえな」

「こっちのが痛いって、」

笑いながらオバサンに減らず口たたいてるゆいさんの姿は、いつもの光景に見えて、涙が出そうになった。

というか、多分、もう出てる。

こみあげてきたもん。

いつもの間にか、美女が手首を離してくれていて、肩を抱いてくれた。

両手で涙を拭うと袖のレースが肘まで落ちて、掴まれた手首に美女の手形がくっきり見えていた。

それがちょっと嬉しいなんて思ってしまう自分の性癖が、ちょっと悲しかった。

悪意のない好みの美人の手形は正義なんだもん。

何か、違う涙出そう。


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