はじめまして、異世界人です。ー19
「君、異世界人なんだ、大変だったねぇ」
嫌味のない笑顔でこちらを見てくる目は、鮮やかな緑色だった。
センター分けの前髪は朱色で、赤髪ってこういう色なのかと思った。
子供の頃アニメで見た赤毛の●ンみたいに、明るく笑ってる。
大変で済む程度の話じゃないはずなんだけど、あんまり大変な気分にはまだなってないので実感が湧かない。
「あ、そこの大きい扉が大会議室なんだけど、その角曲がったら、階段降りるよ、」
「ん、」
「僕も一緒にお風呂入ってこうかな、君を案内したら上がってイイって言われたし!途中に詰め所あるから、ちょっと寄ってっていい?」
「ん、わかった」
「ありがと!そうだ、君、名前なんて言うの?僕はアンディ・マーカー。このトウク城からずっと東にある山ん中のド田舎、サムウィン村の出身なんだ。22歳だよ、」
「俺は橘 ユリ。28歳だ」
「ぇえ!!?28!!?まだ十代かと思ってた!」
「そこまで若作りしてるつもりはない、」
「ジュディスも同じくらいだと思ってたし!異世界人って若いのかな!?不老なの?」
「んなわけあるか。俺もあの子も年相応だと思うけど。あんたの見る目の問題じゃないのか、」
「ええ!?そんなことないよー!」
よそ見しながらケラケラ笑って歩いている騎士のアンディは、風呂場までの道にある部屋や場所まで、丁寧に案内してくれている。
年齢を見る目はないけど、仕事は確実なようだった。
チームに一人いると、基本作業の進行基準になるからイイんだよな、なんて会社員思考が抜けてない。
多分、騎士よりも向いてる仕事があるんじゃないだろうか。
ある程度の筋肉はついてるみたいだけど体つきは細いし、よく笑う人懐こさもある。
で、
「うわ!あぶね!」
階段を踏み外すどんくささも。
「……騎士か?」
「騎士だよ!仲間にもよく言われるけど、ちゃんと入団試験合格したし、入団訓練も乗り越えたし、日々の訓練だってちゃんとこなしてるよ!」
「どっちでもいいけど、」
「あっヒドイッーーーここが第一屋内訓練場だよ!詰め所も右曲がったらすぐだから、ちょっと待ってて、」
1階分降りたところで、訓練場だと言う場所の中に入った。
ワンフロアーまるごとの大きい訓練場で、騎士達が剣で素振りをしたり打ち合いをしたり、筋トレをしている。
壁沿いには走り込みをしている者達もいる。
城の支柱が所々にあるがあとは開かれた空間になっていて、部屋と呼べるのは詰め所が右奥にあるだけ、壁のないオープンな空間だった。
詰め所も大きな窓がいくつか設置されていて、訓練場がよく見える作りになっている。
邪魔にならない場所を探して、入って左側の剣立ての横に行った。
壁沿いに木剣と刃が本物の剣がそれぞれ保管されていて、ゲームや西洋でよく見る形の重厚なものばかりだ。
フェンシングみたいな細い剣や片手剣、大きい両手剣が殆んどで、長さもいろいろある。
刀はさすがにないみたいだな。
剣の奥には槍や盾も並んでいて近接武器がメインの訓練場のようだった。
古武術の道場だった家を思い出すなぁ。
総合武術みたいな感じだったから、剣はもちろん、薙刀や弓、組み手から手裏剣みたいな飛び道具までいろいろあって、実践みたいな古武術で、道場だけは異様に大きかった。
俺は体術と剣術だけで勘弁して貰ったけど、リトや本家の人間は全部しっかりやってたな。
もうそんな闘いなんかしなくてもいい時代、道場の管理者になった義理の父が門戸を開放して、剣道と弓道を一般向けに教え始めた。
見た目は良かったが内部の修繕が追いつかない無駄に広い道場は、経営がかなり苦しかったらしい。
家のシンボルである道場に文句を言うだけの親族らに管理者を押し付けられた義父は、まだまだ大丈夫な見た目の修繕を要求する彼らから強引に『必要な』修繕費をもぎ取り、それでしれっと内部を修復、剣道と弓道の教室を始めた。
昔から道場を知る近所の人達と本家の協力や義父の広告マネジメント力、付近にそういった教室がなかったのもあって、わりとすぐに人は集まり、親族が気付いて物申す頃には後に引けない状態にしていた。
そして『必要な』修繕をした、と。
義父も根回し上手な策士で、養子になってからは彼を見て育ったからか、気付いたら自分もそんな風なところが色濃く出ていた。
ついさっきまでいた、もう戻ることはないだろう家のことを思い出して、懐かしい気分になる。
訓練中の騎士達は途中で倒れたり動けなくなったり、素振りもまだ不安定な者が多く、きっとまだ日の浅い者達なんだろう。
木剣に視線を戻して観察していると、視界の端に大きなバッグを背負ったアンディが歩いてきているのが見えた。
「興味ある?やってみたい?」
「いや、遠慮しておく、」
「せっかく騎士団いることになったんだから、やってみようよ!
ーーーおーいバスカさーん!お客さんもちょっとだけ訓練まぜてくれよー!」
「おい!俺はこういうのは……、」
「はい木剣!バスカさんは指導騎士だから大丈夫だよ!」
「何が?!」
隣の木剣を手渡されて、バスカと呼ばれた騎士の方向に引っ張られる。
彼と訓練している騎士達が手を止めてこちらに注目していて、何か招き入れてる雰囲気だった。
木剣すら持ったことない素人かも知れない奴に、いきなり打ち合いでもやらせる気か。
「この人、さっきやって来た異世界人なんだけど、訓練に興味があるんだって!」
「いや何も言ってない、」
「ユリ、今無職だし、筋が良ければ騎士団で仕事できるんじゃない?」
「………無職って言うな、」
コイツ、人の話聞かない上に無神経だな。
仕方ないだろ、いきなりこっちの世界飛ばされたんだから。
あっちでも無職予定だったけどさ。
「だからさ、もし適性あったらラッキーじゃない?楽に仕事見つかるよ、」
「そういう問題じゃない……、」
騎士なんて危ない職業はごめんだ。
不適正狙うしかないか。
アンディに無理矢理押し出されて、気付けばバスカという指導騎士の前。
マンガに出てくる冒険者みたいな軽装だが、筋肉質な四肢と胸元、黄みの強い金髪に日焼けした浅黒い肌が印象的だった。
40手前くらいの年齢か、貫禄のある風貌だった。
「アンディちゃん、こうやってお話するのはお久しぶりねっやだーもう、イケメン連れてきてくれたのぉ?」
……………オネエかよ。
身長は俺より少し低いみたいだったが、ヘーゼル色の目を細めて、鍛えられた大きな肩をきゅっとすぼませ、両手を外側に振っている。
訓練生の騎士達は生ぬるさを感じる無表情だった。
「ホント、バスカさん久しぶりだね!この人はユリって言って、さっきダルフ様が伝達魔法でアルベルト様とユエリス様が魔法使ったって言ってたでしょ?そん時に助けられた異世界人なんだって!訓練に興味あるそうだから、素質あるか見てあげてよ、」
「あら、そうなの。アルベルト様に助けられたなんて、アナタ運がイイわね!アタシはバスカ・ファノンよ、よろしくねっ」
「……橘 ユリだ。悪いけど訓練は、……!!?」
右手を差し出されたので握手かと返したら、そのまま引っ張られて、突然抱きしめられた。
背中から肩やら腕やら尻まで触られて、胸と腹を撫でられた。
俺、そういう趣向はないんだけど。
「やだ、そんなに睨まないでちょうだい。細いわりには骨格がしっかりしてたから、体つきを確かめてたの。アナタ何か武術とかしてたことあるでしょ、手も姿勢も腕も、経験者のものだわ。重心もブレてなかったもの、」
右手を頬に当ててウィンクされた。
そんな鋭い目でアイドルみたいな笑顔を向けられても。
逃げ場を潰してギリギリで手をゆるめる、絶妙な寸止めしてくんな。
不適正狙えないじゃねーか。




