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はじめまして、異世界人です。ー18

ユリが自分も風呂に入りたいと話したので、タオルを持たせて、医務室の外を通った兵の一人に案内を任せた。

妹の処置が無事に終わるかはすこぶる心配なものの、それを見てるのも待つのも嫌だと。

理解はしてるが納得はできないと、医務室のドアを閉める直前までごねていた。

なかなか難儀なものだな。

『妹』というものは。

子竜はさっきの説教がまだ効いているのか、腕の中で静かに大人しくしている。

というか、しょげている。

「さて、最優先するのは身の安全だ。わかってるとは思うが、無茶して倒れるような事になるほど、やらないようにしてくれ。最悪、最小限の魔力同化に留めて他を固定してしまってもいい。この子の意識回復は先になるが、少なくとも魔力で死ぬ事はなくなる。その後に少しずつ同化を進めてく形にはなるが、まあ、あんたなら次でいけるだろう、」

「そんなに期待されても。出来るけど」

「出来るのかよ、」

「まあ、元々自分のだし、」

「……ほどほどに頑張ってくれ、」

「うん、わかった」

十年以上もの付き合いになるのに、ダルフは相変わらず変わらない反応を見せる。

驚いてるような、呆れ返るような。

自分でも規格外であることは理解しているが、彼が慣れない反応をする事で、自分が他人と違う事を自覚出来ていた。

「じゃあ、行くかね、」

ヘルガが診察室のドアを開けると、ユリの妹が部屋の中心で静かに眠っている。

ドアの近くにヘルガとダルフが座るんだろう椅子も置いてあった。

ベッドの隣にはユリの時に使ったものとは違う、柔らかい椅子が置いてある。

長丁場になるから、楽な椅子はありがたい。

眠っている彼女を覗きこむと、遠縁の義理の兄妹だと言っていたが、どことなく似た雰囲気がある。

やっぱり一緒にいると似るのかな。

ユリと同じ色の長い黒髪が左肩でゆるく束ねられており、胸元まで流れていた。

おそらくオデットが気を利かせたのだろう。

多少は動くだろうから、乱れないように。

椅子に座って改めて彼女を見ると、本当に何もなくただ眠っているようにも見える。

俺の魔力を纏ってるだけのような。

寝顔が綺麗だと思った。

ベッドに子竜を座らせて頭を撫でると、彼女の背中に腕を回した。

「よし、始めよう」

「了解、」

「ピィ!」

ユリの時と同じように、ダルフが防護壁を展開して、子竜が防護膜を内側から張って同化魔法を発動する。

頼んでもいないのに、自ら防護膜を張る子竜には驚いた。

子供らしくさっきの滝みたいな何も考えてないような事もするのに、この魔力同化は危険性が高いことを理解しているのか、慎重な動きもしてみせる。

動物の本能か、魔法に関しては親竜がしっかり教えていたのか。

どちらにしろかなり頼もしかった。

「もうすぐ助けるからね、」

回しておいた腕でユリの妹の顔をこちらに向けると、静かに唇を合わせた。

同時に襲われる勢いの暴力的な魔力が身体中に広がった。

いや、もう暴力だ。

一気に汗が吹き出した。

最強のドラゴンが何体も好き勝手に本気で暴れ回っているような、身体が今にも飛び散りそうな魔力。

飲み込まれるなんてものじゃなく、ただこちらを全力で破壊しに来ている。

背筋が重なる波のように何度も総毛立っては、おそろしい不快感を残し積もっていく。

皮膚の感覚ぎりぎりのところで、無数の細かい火花が飛んでるみたいだ。

今すぐ彼女から離れたい。

内臓が沸騰して弾け飛びそうなくらい、全身が痛くてたまらない。

ユリのものとはかけ離れた異質さで、こんな攻撃的な魔力は初めてだ。

相性が悪いなんてレベルじゃない。

俺、何て子を助けたんだろ。

意識がぶっ飛びそう。

離れるのは今じゃないって、全力で理性を働かせた。

近くにいるだけで攻撃してくる狂暴な魔獣のような魔力に、自分の魔力を沿わせていく。

魔力の境目が反発するのを無視して、範囲をどんどん広げていった。

途中で口の中に鉄の味が何度か紛れ込んだけど、そんなのかまっていられなかった。

まだ同化すら出来てないんだから。

多少は仕方ないとみて沿わせる魔力を厚く、削り取られてもいいようにした。

沿わせていくと彼女に奪われた俺の魔力が一部分に集約している。

待ってろよ、俺の魔力。

全体を把握するのも一苦労、下準備みたいな段階でまだ何にも出来てないのに、もう身体中に疲労感が充満していた。

反発が弱い所を作ることから始めないと、どこからでもどうぞとはならない。

なら、彼女の中にある俺の魔力と近い所がイイだろう。

純粋に彼女の力が強い所には手出しする気力がない。

「ピィイ………ッ」

子竜の声がぼんやりと細く聞こえて、反発の弱い所が微かに揺らぎ始めた。

ユリと彼女には悪いけど、人命救助だからね。

重ねていた唇の間に舌を滑りこませて、唇の裏をなぞった。

粘膜の体液を接触させる事で、より同化しやすくなるらしい。

本当は舌を絡ませたい所だけど、それはさすがに申し訳ないからとりあえずこれで。

これでダメならやるしかないけど。

誰だ、魔力接触の法則をこんな方法にしたやつ。

何度か唇の中をなぞっていると揺らぎが大きくなってきて、反発が弱まってきた。

とは言え、なかなか難しい魔力だ。

口の中に鉄の味が広がる。

激流同士をぶつけないように彼女の流れに沿おうとしたが、沿った瞬間襲われる。

また口の中に鉄が滲んだと思った瞬間、一気に充満して堪える間もなく、吹いて漏れた血が彼女の唇に流れていった。

自分の口周りにも散って伝っていく。

視界に赤が入った。

「「アルベルト!!」」

ヘルガとダルフの声が遠くに聞こえた。

空いてる手でこちらに寄ろうとするだろう二人を静止する。

今は絶対に離れられない。

二人をかばう余裕はなかった。

襲ってくるなら、こっちも襲うつもりでやらないとダメだ。

口の中に残った唾液まじりの血をぐっと飲み込んで、もう一度反発が揺らいでいるところに集中していく。

皮膚を一枚一枚剥ぎ取られるような感覚を堪えて、風穴を空けるように魔力を叩きつける。

ふわっと彼女の魔力が止まったような気がした。

散っていくそのかけらを俺の魔力で包みこみ、量で蹂躙する。

消えかけていくところをこちらの魔力で撫でると、今までの攻撃性が嘘みたいに馴染み始めた。

更に千切れた彼女の魔力を同じように包みこむと、今度は抵抗なく馴染んでいく。

何故かはわからないが、また攻撃性最大に切り替わる前にやれるだけやってしまおう。

一気に魔力を流しこんで馴染ませ、彼女の中の俺の魔力に近付いていった。

そして、ようやく奪われた魔力を動かないようにした。

ちょっと、これ以上はまた次にしたい。



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