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異世界からやって来ました。ー2

「何か今、聞こえなかったか、」

サンツェッタ・ラプロー連邦国の騎士団本拠地、トウク城の団長執務室で、面倒くさい書類を目に通していた時だった。

最近城下で話題のお菓子だと言うグミの詰め合わせを持ってきて、ソファーでくつろいでいるトウク城城主のダルフ・イージス。

その彼を見るなり冷風寒々しく微笑み、面倒な書類を追加にやって来た氷の女王の異名を持つ美麗な副団長、ユエリス・ジャクファリア。

ダルフを問い詰める彼女の姿は、わりといつもの光景だった。

そんな変わらない日常の今日は、少しだけ暑さを感じる気候で、執務室に入って早々に窓を開け放っていた。

窓の下にはラプローの重要な水源と交易販路の要であるベナレスク川が流れており、その広い川からの風が城壁から伝って心地良い。

そのまま書類を飛ばして無くしてくれたら最高だとも思うが、それはそれで事後処理が面倒になるので、書類の上に何かしら重石になるものを乗せていた。

そこに、甲高い女性の声と、激しい水音。

水流穏やかなベナレスク川の中でも一際ゆるやかなトウク城付近の流れに似合わない、荒々しい水音が窓の外から聞こえた気がして、二人に声をかける。

「今は水竜の休息期だから、漁も遊泳も禁止だぞ?」

「だよなあ?」

ベナレスク川には水竜が棲息しており、トウク城付近でよく見られていた。

人懐こい性格で、普段は水遊びや漁をする人々を見守り助ける水生動物であり、トウク城の観光資源の一つにもなっているが、水竜の産卵、子育て期だけは話が違う。

この時期だけは子竜を守る為に親竜の警戒心が強くなり攻撃的になるし、子竜もまたイタズラが多く、水難事故が絶えなくなる。

その為、その時期だけは休息期として水辺に近付かないよう、全面的に禁止していた。

子竜のイタズラも落ち着いて、人間と共存する術を身に付ける頃だったが、まだ休息期は明けていなかった。

セレモニーであるかのように、親竜と子竜が城の対岸に並んで一斉に空に飛び立つと、休息期が明けた合図となる。

彼らはまだ飛び立っていない。

「密猟者でしょうか…」

「こんな昼間の明るいうちにィ?頭悪すぎない?」

「ゼロではないと思います」

多少の緊張感を持って席を立ち、窓枠に手をかけて窓の下をのぞきこむ。

「………ん……?」

波がないはずの川面に波紋が広がっている。

密猟者達は必ず船を出す。

水竜は川の中央の川底に住んでおり、川岸からでは魔法が届かず、城側からも防護壁を張っていて、橋にも同様の魔法が施されているため、船を出して捕獲するしかない。

魔法を破ったり川岸に届くような使い手に、密猟者になるような者はおらず、そんなものにならなくても充分な職に就ける。

必ずではないが、実のところ、水竜にそこまでの稀少価値はなかった。

無謀な密猟者達の船を警戒するが、船は見当たらない。

船が転覆していたら沈む事なく底を見せるだろうし、水竜が引き込んだとしてもかなり大きな波が立つはずだ。

波紋の場所は城壁寄りで、目撃し放題の城の目の前、巡回騎士が先に気付くはず。

川の透明度は高いが、さすがに川面から4階くらいの高さの執務室からは、あまりよくわからないのが正直な所だった。

少しして、再び波紋が広がった。

「人だ、」

ダルフとユエリスが近くに寄って来た。

時間差で一人また一人と頭が出て来て、波を立てている。

「三人いる、」

「これまた随分遠くに。水面も走れる時代がきたか?」

「それはないでしょう、」

「うーん…、男一人、と、女二人…かな、」

「お前の目、どうなってんだよ」

水面に出ている頭だけが、こちらに向かってゆっくりと動き始めた。

なかなか距離が縮まっていないが、どう動くかを見守っていると、頭が一つ水面から消えて、短い悲鳴と共にもう一つ消えた。

最後の一つも、続くように沈んでいった。

その下で大きな影が四つ、彼らに向かって寄っていく。

恐らく水竜の親子だ。

「そりゃ水竜に見つかるわなぁ、どうする?」

水竜は肉も食べるが、人間を襲うことはあっても、人肉は食べない。

そのうち溺死体が城壁か橋に流れてつくだけだった。

「密猟者の船は見当たらないですね、」

その時、水竜の影が三体、固定されたように同じ位置から動かなくなった。

残った影が仕切りにその周りを動いていて、川面も大きく波立っている。

「水竜の動きがおかしい」

同時に子竜が一匹、川面から激しい水飛沫と共に飛び出てきて、悲鳴のような怒りのような鳴き声をあげた。

「ビイイイイイイーーーーーーー!!!!!」

まだうまく飛べないのか翼を激しく上下しており、高度も低くよたついている。

ピンクがかった白い表皮が光を反射し、必死に高度を上げた後、翼の動きを止めて大きく息を吸い込んだ。

「あ、やば………!!!」

ダルフの声をかき消すように、こちらまで煽られるほどの風圧が川面に広がった。


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