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はじめまして、異世界人です。ー8

異世界人の女の子を助ける方法が行き詰まった。

アルベルト様の回復が追いついていないとのこと。

彼女が悪化しないように維持しながら、アルベルト様の魔力を回復させるか、ギルの帰城を魔力回復しつつ待つかしか、方法がなくなっていた。

もし彼女がそれまで耐えきれなかったとしても、暴発しないだけでそのまま残った魔力は回収しなければならない。

アルベルト様についてきた子竜がまさかの救世主とはなったが、それでも状況は厳しかった。

「魔力同化をどうするかだが、」

ヘルガが落ちてきた前髪をかきあげる。

アケはヘルガの一喝から俯いており、ユリも何かを考え込んでいたが、唐突に口を開いた。

「なぁ。意識が戻る程度じゃダメなのか。数ヶ月とか寝てたらまた違うけど、元々土台は鍛えられてるから結構体力もあるし、全快にしなくてもイイなら、」

「そのくらいの回復だと大体六、七割はアルベルトの魔力がそのまま残る形になるんだ。完全に野放し状態になるからね、何かの拍子に暴発する危険性もかなり高いが、それも避けたい」

間髪入れずにヘルガが答えた。

時限式の巨大な爆発魔法を作動直前の状態で抱えてるようなものなのだ。

せめて割合は反転していないと、何が起こるかわからなかった。

「その魔力って、固めて置いとくことって出来ないの?」

「は?」

「だから、ウチの子からは干渉出来ないように、団長さんの魔力を閉じ込めて鍵かけとく、みたいな感じ?固定してしまうとかさ。

だって体液接触したら、相手の持ってる魔力に干渉出来るって事だろ?元々の自分の魔力はコントロール出来るはずじゃん?だから、それでウチの子が暴発出来ない状態にしたらイイんじゃないの、」

「あーっ確かに!容量が多いから出来るだけ同化?はしといて、未処理分の魔力は危険物的な感じで、他からちょっかい出されないようにしたら、大丈夫そうだよね!リトが全然消化出来てないなら、何の手も加わってないアルベルトさんの魔力がそのまま置いてあるってコトだし!」

「そうそう、ウチの子自体がどうにかならないなら、こっちで動かせそうな所を動かしたら、とりあえず野放し状態よりはリスク少ないと思うんだけど。

魔力に干渉するのって一部じゃないんだろ、」

「……………、」

「確かに、理論上は出来るかも知れませんが…、」

「実例はない、」

ユリの発想はこれまでの魔力学の常識を覆すような事だった。

もしこれが可能なら、彼の妹を安全に助ける確率は上がる。

が、おそらく誰も考えた事のない話。

他人に渡った自分の魔力を操るなど、もしかすると他に知られてはならない事かも知れない。

救命や抑止力になると同時に、拷問や暗殺にも使える技になる。

生活魔法だけで暮らす者達ですら他人に魔力を流す事が出来るのに、技術を持った魔力の高い者が使えたとしたら、抵抗する術がない。

ユリはさらりと持論を展開していた。

「多分、容れ物に鍵がかかってるから取り返す事は出来ないけど、接触する事でその中のものを操作出来るんなら、中に入った自分の魔力も扱えるんじゃないかと思ったんだけど。

変なのか、」

「変というよりは、誰もやった事がないから可能かもわからないね、」

「何か確認する方法ないの。救命措置の時、俺とアケちゃんにも魔力流してんだろ?死にかけてる人間引き戻すくらいなら、すぐに馴染んでく量じゃないよな。まだ残ってんだったら、それを使って試してみるとか出来ないのか、」

「それは…………、そうだが…、何が起きるかもわからんというのに、試すわけには、」

ヘルガもアルベルト様も、半信半疑の様子で動揺している。

ユリの発想は異質だった。

異端に近い。

「さっきさ。俺には普通に栄養剤打っただろ。アケちゃんには聞いたくせに。一服した後、顔色悪いとか言ってやられたけど、それだけじゃないんじゃないの、ヘルガ先生?」

「……………、」

「体質が遺伝しやすいんだろ。たまたま普通に起きたし、元気そうだし、あからさまな症状も出てなかったから。俺が兄貴だって言われて、様子見て、栄養剤打ったんじゃないのか」

「………こんな状況じゃ当たり前かとも思ったが、平然としてるわりにだんだん顔色が悪くなってってたからね。異世界人も同じだとは思ってなかったが、」

「俺は兄貴だけど養子で血縁は遠くてね。馴染みにくい程度だったんだろう。魔力の基準はよくわかんないけど、まだ俺の中に残ってんなら大爆発するほどの量じゃないはずだから、俺で試して欲しい」

「怖いヤツだね、アンタは、」

ユリはヘルガをまっすぐ見据えている。

彼の発想にも、思考の速さ、洞察力にも驚く。

彼を外に出しては危険な気がする。

「ウチの子第一」

「それが起因なのがもっと怖いんですよ、ヘルガさん…、」

「嫌だね、粘着質な男は嫌われるよ」

「うるさい。で、試せるのか、」

いや、彼と妹を離すのが危険なのか。

アケが慣れたように身を乗りだし、ヘルガも呆れた様子でユリを見返した。

「私じゃなくてユエリスに聞いてくれ。何が起こるかわからなくて一番怖いのはその子だ」

突然矛先を向けられた。

それは聞いてません、ヘルガ。

「ユエリスさん、」

確かに彼の救命措置をしたのは私ですが。

「………はい、」

どちらが危険なのかはわからない。

彼の案が可能なら危険はかなりなくなるが、突然降って湧いたような思いつきの案を、何の準備もなしに試す事自体もかなり危険だ。

あの子にアルベルト様の魔力を無防備に残して暴発するのも、今彼の案を試して暴発するのも、どちらも避けたい。

「ユエリス。もしやるのなら、ダルフを呼ぼう。城主の防護壁があったら、最悪の事態は避けられると思う。

ーーーでももし迷ってるなら、彼らには悪いが、やらなくても責められる事はないだろう」

アルベルト様が優しく微笑んだ。

ここで暮らす人々を守る側の騎士団の人間が、一人の為に危険を侵す必要はないのだ、と。

ただ、やるのであれば、人々を守る用意も出来る。

ユリも失敗して暴発した場合、自分はもちろん相手や周りがどうなるかまでも、考えてはいるはず。

それでも試したいという事。

こちらがそれに付き合う義理はないが、可能ならばかなり有益ではある。

ダルフがいるなら、最悪の場合も守るべき人々を優先して、被害も少なくまとめてくれるだろう。

アルベルト様もいるのだから。

彼ほどではないが、魔力の量も技術も長けているから副団長職でもある。

下げていた目線を上げると、全員を見渡すようにして、伝えた。

「………やりましょう、」

「ありがとう」

ユリが頭を深く下げる。

先程も思ったが、やはり綺麗な礼だった。

「アルベルト様、よろしいでしょうか、」

「ああ、わかった。じゃあダルフを呼ぼうか。呼ばない方が拗ねるだろうしね」

ヘルガが再度、念を押すように言った。

「ただし、違和感があったらすぐにやめる!

絶対に無茶はしない!

これだけは本当に守ってくれ!……いいね、」

「わかりました」

「わかった」

そうして、準備に取り掛かった。


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