異世界からやって来ました。ー1
拙い文章ではありますが、お楽しみ頂ければと思います。
スマホでポチポチしていて遅筆なのと、体調次第の不定期投稿ですが、忘れるくらいゆっくり見て頂けるとありがたいです。
宜しくお願い致します。
ただ遊びに行こうとしてただけだった。
義兄のゆいと、高校からの親友アケ。
三人の休みが重なった三ヶ月ぶりにやっと週末の土曜日、スケートリンクで遊ぶ事になっていた。
通年で遊べる広いリンク、もちろんテレビで見るフィギュアスケーターのように華麗に滑って踊る事は出来ないし、むしろ氷の上に立っていられるかも怪しいんだけど、動くとまた暑くて、半袖を着たくなるような高い気温が続いている十月半ばのこの時期には、きっと丁度いいだろうとアケが調べてくれた。
ちょっと暑いけどリンクは寒いだろうから、あったかインナーと黒いタイツを装備して、バッグにはシルクのスカーフとスケート靴の調整も兼ねた靴下も入れている。
たまたまフィギュアスケートの大会の動画を見たゆいが、スケートやりたいと言い出したのが発端。
たまたま三人の休みが合った日が近かったので、スケートを予定にぶつけた。
ゆいが車を持ってるから、移動はお任せ。
スケートなんて子供の頃以来、もしかしたら壁に張り付いて終わるかも知れないけど、メチャクチャ楽しみだった。
お昼前に出て途中のファミレスでご飯食べて、三ヶ月分の積もる話もあれば、純粋にスケートも楽しんで、普段の買い物してお茶かご飯行って終わる休みの遊びよりも絶対に楽しいでしょう!
家の駐車場は一台分で、母の車を置いているので、ゆいの車がある道場の駐車場まで三人で向かう事になっていた。
アケからの電話があったので二人で玄関を出ると、気温にはちょっと暑そうなフェイクスエードのライダースジャケットに、ペインターのブラックデニムを着ているアケが立っていた。
ベージュのジャケットの中に、去年の夏によく着ていたショッキングピンクのVネックTシャツを合わせており、パンクな柄がプリントされた四角いスパンコールが胸元にカッコいい。
持っていたスマホごと軽く手をふり、デニムのポケットにしまっている。
夏のセールで買ったお揃いの黒いナイロンバッグをリュックにして背中に背負っており、ベルトが革で色を本体と合わせてあるのも気に入っていた。
お揃いなんて恥ずかしいって言ってたくせに、ちゃんと使ってきてくれて嬉しい。
「アケ、おはよー」
「リト、ゆいさん、おはよう」
「アケちゃん、おはよ」
高校の時からの流れで門を出ると自然に右に歩いて、数歩、突然二人が四、五人ずつに増殖した。
「う………、」
脳震盪のような目眩が襲ってきて、それは二人も同じだったらしい、身体を曲げて口元を押さえているのが見えた。
どれが本体かもわからない二人に右手を伸ばしたところで、視界が一瞬、暗転した。
エレベーターが止まった時みたいな、内臓が喉の奥に集中したような感覚がしたと同時に、足元の地面が消えた。
「うぉ……ーーーーーッッッ」
「きゃーーー!!!!!」
「……ーーーーーッッッ」
多分一秒もないくらいの間に、いろんなことを考えた。
消えた足元に広がる視界が水面な事とか、よくわかんないけどコレ死んだなーとか、両親のいちゃつく笑顔とか、ゆいと初めて出会った時の無表情な顔とか、明後日からまた仕事なのに穴空けてごめんとか、アケがカミングアウトしてくれた時の泣きじゃくった顔とか、剣術の練習サボって遊んだ近所の公園のブランコから見た景色とか、スケート行きたかったなーとか、買い置きしといた近所の洋菓子店のマカロン食べときゃ良かったとか。
いろいろ思った。
どうしようもなく、水面に叩きつけられるように水の中。
飛び込み競技みたいに綺麗に入水できなくても、結構深くまで沈むんだね。
浮力が効く上に向かって、暴れるように水をかいた。
もちろん息なんか出来なくて、本能的に水上に顔を出そうともがく。
ぼやけた水中の視界でも、ゆいとアケが上に向かっているのが見えた。
人間苦しいとそこから必死で何とかしようとするものなのか、死にものぐるいで浮上しようとしてる自分にちょっと安堵して、水面上に顔を出す。
ゆいから漫画みたいなブハァ!!!って声が出てて、アケが尋常じゃないくらいテンパってる。
「何…ッコレ!!!」
喘息に似た濁音混じりの呼吸で、何か話そうともがいてる。
自然に手足をかき回し、皆何とか息しなきゃって動いていた。
片手で顔を拭うと、川か湖かもわからない広い水面と、テレビで見るようなヨーロッパの田舎や郊外にある石造りの城の城壁がそびえていた。
「え…、何、」
顔に張りついた髪の毛を横に流しながら、ぐるりと周りを見渡す。
テンパってるアケと、奇跡的に外れなかった眼鏡紐を伝って眼鏡をかけ直すゆいと、その後ろに遠く霞んでいる岸辺。
ハッキリ見えている城壁が1番近い事だけはわかった。
とりあえず城壁に向かうしかない事も。
陸地に立てなくても、掴まる事くらいは出来るだろう。
このままでは力尽きて沈んで溺れて、浮いてきたら魚に食われてボロボロ、水分たっぷりの膨張したドザエモンになるのだけは確定だった。
というか、そんな死に方したくない。
城壁までたどり着けるかもわからないけど、このままでいるよりイイと思う。
「リト、待って!」
「りん!」
城壁に向かって泳ぎ始めると、乱れた呼吸で二人が声をかけてきたので、
「あっち、行こ、」
自分達が立てたであろう波に揺られながら、答える。
状況把握よりまず安全確保、もしかしたらサメとかワニみたいな狂暴な水生動物がいるかも知れないし、城壁から銃撃とかされるかも知れなかったけど、行くしかなかった。
はりつく服が重くて腕が上がらない。
水中で平にかきだし、前に進もうと両足をばたばた動かした。
幸か不幸か、水の流れは流れるプールよりも穏やかで、離れて落ちた二人の姿がちゃんと見えていたくらいには透明度も高かった。
「アケ、ちゃん、行こう!」
後方で、二人の立てる波音と荒い息づかいが聞こえている。
何でこんなことになってるのか、今は考えない事にした。
浮き輪でもビート板でも流木でも、何でもイイから欲しいって、こんなに思った事ない。
出かけようとした所で、ペットボトルすら持ってない。
城壁までも二、三百メートルは間違いなくある。
五十メートルプールさえ泳いだことないのに、ハード過ぎん?
何かないかと思ったところで、気付いた。
こんな状況でバッグ背負ってる意味ある?
どおりで重いと思った。
進まないよこんなん肩に引っ掻けてたら。
あとで捨てなきゃ良かったって思うかな?
でもこんなバカ重いダンベル背負ってトレーニングみたいなことしてる必要ある?
死ぬじゃん。
泳ぎながら、バッグを捨てる決意を固めた時だった。
「きゃーーー!!!ゆいさ………」
アケの悲鳴が聞こえて途切れた。
慌てて振り向くと二人の姿がなく、二人の立てた波と水飛沫が飛んで、パラパラと小さく音を立てて消えた。
「……アケ!!ゆい!!?」
透き通った水の中に二人の姿が揺らいで小さくなっていく。
二人が水中で吐き出した息と水面が反射してキラキラ光るのが邪魔して、よく見えない。
目を凝らしている間に、足首に何かが触れて巻き付く感触がして、とっさに息を吸い込むと同時に再び水中にのみこまれた。
足元の下方でもがいてるアケが見える。
その近くで、ゆいの息が白い飛沫となって上がってきた。
……草?
蔓や葉っぱが二人に絡まり、自分の足首から太ももまでどんどん伸びてきていた。
それは何故か意思があるように巻き付いていく。
蔓と蔓を叩きつけるように両足をぶつけて逃れようとするが、あんまり効いていない。
太ももから剥がそうとして蔓を掴んでも、するっと抜けて、手まで絡め取ろうとしてきている。
アケの大きな泡が立ち上がり、足元をかすめた。
「…………!!!!!」
動かなくなったゆいとアケの更に下方に、何か大きな影がゆらっと動くのが見えた。
思わず口の中の息を全部吐き出し、泡が白く消えていく。
口の中に水が一気に入ってきてもう息が続かない。
もう、無理。
ぼうっとした視界の中で、アケとゆいの身体が光った気がした。
私もスケートやりたいです…(笑)
友達は反応悪く、旦那も膝をケガしてリハビリ中で、一人で寂しく滑る勇気はありません…(^_^;)
まあ運動不足なんで、翌日筋肉痛は確定なんですけどね、滑りたいんですよ(笑)