第6話 凍土
少しでも楽しんで読んでいただけると幸いです。
つつがなく魔力祭が終わり、梅雨入りの季節になった。
この季節はあの時期だ。
「あぁぁ、試験が近づいている・・・」
学生は避けて通れない、例のアレだ。
「勝負だ!リネア。俺はお前に負けない」
「いいよ。・・・でも、風の試験だけでいい?」
他の属性魔法はちょっぴり自信が無い。
「言い訳ないだろう。得意科目だけ勝負なんて男らしくないぞ」
「私は女だから」
「とにかく、総合点で勝負だ!」
「それって、私に得ある・・・?ジェットの勝負に、勝手に付き合わされてる感じなんだけどな・・・」
「じゃあ、負けた方が勝った方の望みを一つ叶えよう、どうだ?」
「いいね。どうしよう。何奢らせようかな」
ワクワクと胸を躍らせる。食べてみたい学食がまだまだあるのだ。
「なに勝った気でいるんだ!」
ジェットの怒号が教室に響いた。
図書室で本を眺めながら、試験について考える。勝負するからには勝ちたい。
「とはいえ、一番苦手なのって氷なんだよなぁ」
手元の本をパラパラめくるも、いまいちイメージできない。
「・・・そうだ」
適任がいるではないか。
「というわけで、お願い!クラウス先生!」
「・・・まぁ」
クラウスの目の前でばちん、と手を合わせる。
「何が苦手なんだ?」
「氷魔法全般。細かい部分の調整が出来ないの」
ほら、とただの大きな氷塊を見せる。これは猫を作ったつもり・・・だ。
「ふっ、変わってないな」
「今馬鹿にしたでしょ」
「先に言っておくけど、お前、風魔法以外はポンコツだからな」
「なっ!やってみないと分からないよ」
「精々頑張れよ」
魔法の指導を引き受けてくれた人の発言ではない。私は、彼をぎゃふんと言わせるべく奮闘した。
「―これが!限界!」
「おぉ、進歩したな。お前にしては凄いんじゃないか?」
一目見て分かるギリギリのヒヨコを作れるまでに成長した私を見て、クラウスは大げさに感嘆してきた。
「・・・まだ小馬鹿にしてるでしょ」
「頑張ったお前に褒美やるよ」
と、彼はおもむろに星形の氷を手渡してきた。
「すぐ溶けちゃうよ」
「いや、これは俺の魔力で作った特殊な氷だから溶けない」
「わ、凄い。本当だ」
両手でぎゅっと包んでもひんやりとした冷たさが残るだけで、氷は小さくならない。
「私にも出来る!?」
「無理」
ばっさりと断言された。
「どこかにヒントがあるはず・・・」
再び図書室に戻り、氷の書物を漁る。私もあの氷を作ってクラウスを驚かせたいのだ。
「なかなか見つからないなぁ」
最新の魔導書を漁るが、それらしき文献は見当たらない。
「・・・あれ」
氷魔法の欄ではないが、気になる目次を見つけた。
「【神殿を覆う氷】?」
『かつて世界を闇に染める封印が放たれた神殿は、今もなお氷が建物の大半を覆っている。その氷は火魔法も寄せ付けず、欠けることもない。まるで、神殿内部を守るように―』
興味深いことが書いてあった。が、今の私には関係ない記事だったためそっと本を閉じる。
結局、溶けない氷が作れない事だけが分かった。
***
教室に勝ち誇ったジェットの声が反響する。
「出直してくるんだな!」
「くっ・・・」
「・・・リネア、何を悔しがっているの?風魔法以外、ジェットに惨敗じゃない」
「返す言葉もない」
突きつけられた成績表を見て落胆する。クラウスに教えてもらった氷魔法は、平均点。
「でも風魔法は一番だもん・・・」
「ふん、他がボロボロでよく言う」
「次は土魔法を教えるわ・・・。元気出して」
「負けたお前に何を命令してやろうか」
そうだ。約束をしていたんだった。
「命令っていうか、『望みを叶える』だから!無理な内容は断るよ」
「じゃあ、俺のパートナーになれ!」
「「・・・え?」」
バレッタと顔を見合わせる。
遠くから、ガタっと立ち上がる気配があった。焦った様子の彼が口を出す。
「ちょ、ちょっとジェット?何言ってるの?リーをパートナーに?」
「あぁ、今度学内交流会があるだろう?そのパートナーだ」
「交流会?」
「知らないのか?毎年、試験後に開催される催しだ」
バレッタが顎に手を当てながら不思議そうに言った。
「私も聞いたことがあるわ。・・・でもパートナーを作る必要はなかった気がするけれど」
「あぁ、必要はない」
「そんなことに貴重な願いを使っていいの?」
悔しいけれど、家柄もあって成績優秀なジェットなら引く手数多だろう。
「・・・虫避けだ」
申し訳なさそうにジェットがこちらを見てきた。
「俺は、貴族という色眼鏡を通してしか評価してもらえない。俺ではなく、この地位を欲しがる女性が後を絶たないから・・。お前を傍に置いて出来る限りアプローチを避けたい、ということだ」
「なるほどね、いいよ」
「リー!」
私はバレッタの恋作戦に続き、ライバルのジェットからも頼られている事実に嬉しくなった。それに、ちょっとしおらしいジェットも珍しいし。
「ふふ。猫かぶってるジェットを、一番近くでニヤニヤしながら見てるね」
「・・・人選ミスだっただろうか」
今更、ジェットが嘆いていたがもう遅い。
閲覧ありがとうございました!!