第5話 再現
少し短い文になっています。
少しでも楽しんでいただけると幸いです!
「―きなさい。――ア!起きなさいって!」
「・・・バレッタ?」
徐々に意識が覚醒していく。意識が戻るにつれ、見ていた夢の記憶も遠のいていった。
「今日も練習しようって言ったの貴方じゃない。私達は、貴重な休日を返上して付き合ってるのよ」
「おはよう」
「おはよう!いいから、起きて」
バレッタは雑に私を立たせる。口にはパンが突っ込まれた。これが私の朝食らしい。
「そういえば、夢見たんだ」
バレッタが暇だろうと思い、適当にもごもごと話す。
「へぇ、どんな夢?」
「忘れた」
「なにそれ。昨日も練習頑張っていたし疲れてたのね」
バレッタは、私にスクランブルエッグを突っ込む。もう片方の手には、既にオレンジジュースが握られていた。
運動場には、既に二つの人影があった。バーンとクラウスだ。私達を待っていたらしい。
バーンはクラウスに謎の敵意を持っているみたいだから不安だったが・・・、大丈夫だろうか。
今日もバーンと特訓だ。遅刻した時間を取り戻すように、早速練習を開始する。
「リーは風魔法を使って、どうやって水晶を守りながら移動する?」
「それがね・・・、こういうのはどう?」
得意げに言い、リネアは宙に浮かぶ。自分でも思ったより簡単にできた。
今まで自分の体から風を発生する魔法しか習ったことはないが、今回は周囲の空気を変化させている。技が成功して嬉しい。
「こうやって私が地面から遠ざけば、妨害もしにくくなるんじゃないかな」
「いいね!・・・その魔法は、学生レベルじゃないはずだけど。いつの間に習得したの?」
何かを探るバーンの視線に、私は気付けなかった。
「何でだろう。朝、変な夢を見てからぱっとアイデアが思い浮かんだの」
「・・・よくないなぁ」
「え?」
調子に乗って地面から離れすぎてしまった。バーンの声が全く聞こえない。
「なーにー?」
身を乗り出した途端・・・、バランスを崩した。
「うわっ」
体が傾く。
「リネア!」
誰かが叫んでいる。近づいてくる。
氷が地面から大きくせり上がり、クラウスが手をさし伸ばしてくるのが見えた。
「・・・あ」
再び、強烈な既視感。今の平和な運動場と、夢で見た土地の重々しい風景が重なる。
「掴まれ!」
平素クールな彼が、必死になっている。
「クラウス・・・!」
私も手を握り返す。別に体制を立て直せなかった訳ではない。何故か、この手を掴まなければいけないと強く思ったのだ。
クラウスにそっと地面に降ろされた私は感謝を述べつつ、握られていた片手を見つめて考える。
「・・・」
「何か、思い出したか?」
じっと見つめる、氷の瞳に吸い込まれそうになる。
「えっ」
「・・・いや、何でもない」
「でも、私、何か・・・、大切な事を―」
その先を言いかけた時、心配性の彼が走ってきた。驚くことに、クラウスに体を向けていた私の肩を掴み強引に自分の方に向かせてきた。
「リネア!大丈夫?」
「う、うん。調子乗りすぎちゃった。次から気を付けるね」
「ちょっと、リネア!魔力祭前に怪我したら許さないわよ」
バレッタでさえも、少し息を切らしていた。
「今度は大丈夫!もうコツは掴んだよ」
もう一度、もう一度だけ今と同じ光景を見たい。私が空に浮かび下のクラウスを見たら、もしかしたら、―思い出せるかもしれない。
が、私を横抱きに抱えたバーンによってその願いは叶わなかった。
「いや、念のため僕が医務室に連れていく」
思いつめた様子のバーンは、私を抱えてスタスタ歩き出した。
「バーンは過保護だなぁ」
「・・・」
クラウスのおかげで無事に降りてきたのだ。怪我をするはずがないのだが、反論は出来そうにない。こんなにも余裕のない様子の彼を初めて見たのだ。
結果的にクラウスとバレッタの時間を作れたからよし、と思い込む。
***
横抱きのまま学校を歩かれるのは耐えられなかった。思いつめている彼をなんとか落ち着かせようと努める。
「バーン、降ろして?本当にどこも怪我してないから」
「知ってるよ」
「じゃあ何で」
「あのさ、もうクラウスに関わらないでくれるかな」
「・・・どうして?あの人は、バーンが思う程嫌な奴じゃない」
「知ってるってば!」
「っ!」
彼の怒りに圧倒されて何も言えなかった。彼は渡り廊下にそっと私を降ろす。
「・・・ごめん。ちょっと、僕冷静じゃないみたいだ」
「何があったの?私にも言えない事?」
クラウスに対する敵意は原因があるはずだ。小さなころから共に育ったバーンは、私に隠し事はしない―。
「リネアにだけは言えない。言いたくない」
「そっか・・・」
ショックを受ける。バーンなら、幼馴染の彼ならば、何でも話してくれると思っていたのは私の独りよがりだった。
「でも、これだけは信じて。僕はリネアを悲しませない。絶対に、守るから」
「あはは。大げさだなぁ」
「僕はずっと昔から、君が一番大切なんだ」
真剣な様子のバーンに、困惑する。
「私も小さな頃からバーンが大切だよ」
私がそう言うと、彼は困ったように笑った。
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