第3話 流星
今回のテーマは流星群なので、色鮮やかな星々を想像しながら読んでもらえると嬉しいです!
ある日の夜、
一人で寮の周りを歩いていた。村で見た空と同じ空を見上げる。
まだ夏前、夜は少し肌寒い。
「クラウス、クラウス・・・」
目下の悩みの名前を唱える。どこかで聞いたことあるような、無いような。高名な貴族らしいから、村のどこかで聞いたことがあるのかもしれない。
「おい」
「ひっ」
どこかから呼ばれた。この時間なら人はいないと思い込んでいたので驚いた。
・・・よく見ると、ちらほら人が外に出ていた。皆、夜の散歩好きだとは。
「おい、お前だよ。・・・リネア」
ベンチに人影が見える。その人物が私を呼んだらしい。
「あ」
悩みの種がいた。
(どうしよう。明らかに名前を呼ばれたけど、気まずいことこの上ないよ)
逡巡していると、彼が再び声を発する。
「座れよ」
「はい・・・」
「ビクビクするのやめてくんない?他の奴らには普通にしているだろ」
「まぁ・・・」
「・・・俺の名前分かる?」
「クラウス、さん」
これで間違えたら首が飛ぶ、くらいの緊張感だ。
「呼び捨てでいい」
「いや、そんな恐れ多いです」
「・・・あいつはいいのかよ?お前のライバル」
「ジェットはいいんですよ。むしろ、さん付けした方が調子乗りそう」
その時の彼の反応を予想して、ふと笑みが零れる。
「・・・」
「・・・」
「何で俺は駄目なんだ?」
「それは・・。クラウスさんが私を避けてるっていうか、嫌い?・・・ですよね?あんまり親しい呼び方するのは良くないかと思って」
この際、気持ちをぶつけてしまおう。このままずっとクラウスさんを気にしていたら、バラ色の学園生活も送れない。それに、同じクラスの彼に怯える生活なんて耐えられそうにない。
「嫌ってない」
「え?」
突然早口の小さな声で言われ、聞き取れなかった。
「別にお前を嫌ってない」
だから、と彼は俯いて言う。
「呼び捨てで呼んでくれ。・・・それにいちいち怯えるな」
「わ、わかりました」
ドギマギしていると、色とりどりの流れ星が多数落ちるのが見えた。赤、黄、青、白、緑。
「あ、流れ星」
「・・・知ってるか?あの流れ星、300年に一度しかない流星群なんだ」
夜だというのに外出する人が多い理由が分かった。
「へぇー。レアなんですね」
「あぁ。俺にとって大切な星だ」
「300年前の人は、どんな気持ちでこの流星群を見た―」
横にいるクラウスに顔を向けた私は、思わず口を噤んだ。
だって、目の前の彼が凄く切ない表情をして・・・こちらを見ていたから。
「ど、うしたんですか」
思わず声を掛けてると、彼ははっとして顔を背けた。
「何でもない。・・・あと、敬語も止めろ」
「はい。・・・あ、うん!」
嫌われてはいないようで良かった。謎に仲良くなってしまったし、今日はいい日かもしれない。
「そういえば。クラウス、はどうして私の名前を知っていたの?」
初対面の時、いきなり私の名前を確認してきたのだ。ふと疑問に思った。
「どうしてだろうな」
「え、はぐらかされた?」
「どうでもいいだろ」
どうでも良くはないのだけれど、身に覚えのない悪評が轟いていた訳ではないので胸を撫でおろす。
二人無言で空を眺めていると、びゅうっと風が吹いた。
「さむい」
流石にまだ風が冷たかった。身を守るように、両手で肩を抱く。
「・・・大丈夫か?」
クラウスが、手元で炎を灯す。私は、揺らめく炎を瞳に写しながら感謝を告げた。
「ありがとう。クラウスは火の魔法も得意なん―」
違和感。強烈なデジャブが私を襲う。
『■■■■!火つけて!魚採ってきたよ』
『自分でも出来るだろ』
『出力間違えて大惨事にして以来、■■■に禁止されてるの』
『はっ。修行しろ』
「・・・!」
この光景を、私は、知っている。
「まだ寒いか?」
「ごめん、ちょっと考え事してたみたい。火、ありがとう」
「お前―」
クラウスが何かを言いかけた。
が、
「・・・リネア」
威圧を感じる、とある人の声によって遮られる。
「バーン!」
「寒いでしょ。上着持ってきたから、もう戻るよ」
「え、でも」
「いいから」
そう言って、バーンは半ば強制的に私を立たせる。
「クラウス!流星群見れて、楽しかった」
ズルズルと片腕を引きずられるように歩きながら、ベンチに座る彼に言葉を残す。
「またな」
そう言って彼が小さく手を振る。
「うん!」
私も自由な方の手で、ブンブンと手を振り返す。クラウスのことを誤解していたみたいだ。おそらく、彼の私に対する誤解?も解けたと信じたい。これからのクラウス対して、自然体の私で接することが出来ると思った。
「リネア。どうしてクラウスに関わってるの・・・っていうか、呼び方も―」
「そんなに悪い人じゃないよ」
バーンはクラウスのことになると怖くなる。「リー」と呼ばない時の彼は、大抵機嫌が悪いのだ。
「・・・君にとってはね」
ぼそっと吐かれたバーンの言葉は聞き取れなかった。
「バーン?怖いよ。いつもそんな感じじゃないのに。もしかして機嫌悪い?」
「うん。特に、流星群の日は」
「そうなんだ・・・」
気を付けようと思ったが、次の流星群は300年後の話だ。
「じゃあ、空の星も嫌い?」
「え?」
「流星群が嫌いってことは、空に関する話題も避けた方がいい?」
「ははっ。ごめん、そういう意味じゃないよ。今日の流星群に良い思い出がないってだけで、普通に星は好きだ」
「ちょっと・・・。あの流星群は300年に一度だよ?バーンも初めて見るじゃん。いくら私でも騙せないから」
「あはは、そうだったね」
私の発言のどこが良かったのか分からないが、バーンの機嫌は戻ったようだった。
閲覧ありがとうございました!
次話を楽しみにしていただけると幸いです。