第2話 ライバル
少しでも物語を楽しんでいただけたら幸いです!
「リネアさん。ちょっといい?」
昼下がりのある日、一人の女性から呼び出された。
春の匂いが残る中庭で、バーンと会話を楽しんでいた時間を中断し、彼女について行く。
「リー、僕も行こうか?」
バーンは昔のように私のことを「リー」と呼ぶ。恥ずかしいからやめるよう伝えても、聞き入れてはくれないみたいだ。
「大丈夫。先に教室戻ってて」
この手の話題は、男性がいるとこじれる気がした。
「貴方、クラウス様とどういった関係?」
少々威圧的に、女性が口を開く。
「ク、クラウス?」
バーンと仲の良い私に嫉妬した人だと思っていたから、知らない単語に面食らう。
「しらばっくれなくてもいいわよ」
「誰ですか」
「はぁ?」
彼女は、信じられないという表情を浮かべた。
私は少し、考える。ファンがついて「様」で呼ばれていそうな人物。一人しかいない。
「あ!あの人か」
「リネアさんがよく話しかけているあの方よ」
「私とクラウスさんは、何の関係でもないです!あの、・・・むしろ嫌われてます」
(クラウスさんがついに、私を標的にしてきたんだ・・・!)
背筋が凍った。彼は気に入らない私を排除しにかかってきたらしい。
「分かっているわよ。クラウス様は貴方のことが気に入らないみたいね」
「はい。それはもう」
「でも、貴方はクラウス様に好意を寄せているのでしょう?」
「違います!」
「あら、その言葉本当ね?」
ふふん、と笑い彼女は一人で満足した様子だ。
「クラウス様に疎ましく思われているのに、鬱陶しく話しかける貴方が目障りだったの」
今後はクラウス様との関わり方を考えることね、と言い残して威圧感のある彼女は金髪をたなびかせて去った。
「こわぁ」
村では経験しなかった、若い女性ならではの牽制。この環境になれる日が来るのだろうか。不安しかない。
彼女がクラウスさんの差し金ではないなら、一安心だ。
「クラウス様」が本格的に行動を開始する前に、好感度をマイナスからゼロに戻そう。
寮の談話室で待っていたバーンが私の姿を捉え、駆け寄って来る。
「リー!大丈夫だった?」
「何でもなかった」
「・・・本当?」
「うん。牽制?みたいだった」
「クラウスの事だろ」
「そう。でも本当に何もなかったんだよね。・・・クラウス?」
バーンは彼を呼び捨てするほどの関係ではないはずだ。
「よく名前を聞くからね。つい」
恥ずかしそうにはにかむ彼を見ていると、自然とこちらも笑顔になった。
***
広々とした校庭で、ギャイギャイ喚く声がこだまする。
「おい!リネア!俺はお前に勝つからな!」
「いいよ、受けて立つ!」
「いつまで余裕でいられる見ものだな!」
「次も勝つから」
「ふんっ」
目の前の彼と視線を合わせ続ける。ここで逸らしては負けた気がするので出来ない。
「はっ。子供かよ」
鼻で笑う第三者の声が後ろから聞こえた。興奮状態のリネアは勢いのまま言い放つ。
「はぁ?この人が私に突っかかってきただけで!・・・あ」
クラウスさんが立っていた。
「クラウスさん・・・。ご、ごめんなさい。ちょっと気が立ってて・・・」
言い訳をしながら、目の前の強気な男をキッと睨みつける。
「俺はただお前に宣戦布告しただけだ」
「ちょっと風魔法で負けたってだけで、喧嘩腰になるなんて心が狭いってば」
「なんだと・・・!」
と、再びヒートアップしそうになった時、
キン
甲高く音が響き渡り、突如静寂が訪れる。
「黙れ」
辺りの地面を氷に染めたクラウスさんが、私だけを睨んでいた。
「・・・っ」
思いもよらない冷たい視線にたじろぐ。
「ハイ」
私は頷く事しかできなかった。
***
「貴方のせいで、クラウスさんの好感度ガタ落ちになったんだけど・・・」
廊下で会った、私に突っかかって来た彼を捕まえて不満をぶつける。
「ライバルの名前くらい覚えておけ。俺はジェットだ」
「ジェット!どうしよう」
「知らないね。俺はお前がクラウスからどう思われようと関係ない」
「そんなぁ」
同じクラスのジェットという彼は風魔法に自信があったらしく、授業の実技で私に負けたことが相当悔しかったようだ。
事あるごとに張り合ってくるのは勘弁してほしい。
「ジェットってクラウスさんと仲良いの?」
「貴族の会合で会うことが多々あるくらいだ。仲はよくない」
「へぇ・・・って、ジェットってばジェット様だ。呼び方変えた方がいい?」
「俺は、そういうのは気にしていない。ここでは魔法が全てだ。それ以外はどうでもいい」
「じゃあ遠慮なくジェットって呼ぶね」
「あぁ」
ジェットは意外とさっぱりした人だった。私を目の敵にしてくること以外は。
「ねぇ、何で私、クラウスさんから敵意向けられていると思う?」
「知らん。お前の性格だから、何かしたんじゃないか?」
「私はジェット以外には優しいよ」
「そうか?全く想像できないな」
「失礼だなぁ。そうだ、普段のクラウスさんってどんな感じ?」
「俺はあんまり話さないが・・・、女性に接している時は普通だな」
「普通って?私と同じ対応かな」
「まさか、もっと丁寧だ。睨んだりはしないな」
「だよね・・・」
分かってはいたけれど、ショックだ。確かに出会って日が浅い人に対して、明確な敵意を向けるなんて尋常じゃない。
ふ、とジェットが名案を思い付いたようにこちらに体を向ける。
「分かったぞ。生理的に無理ってやつじゃないか?」
「・・・ジェットってモテないよね」
最大限に恨みを込めて言うと、彼はちょっとしょんぼりした。
閲覧ありがとうございました!
次話から過去の回想を交えながら、物語が進んでいきます。