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私が約束を果たすまで  作者: Neko
17/18

第17話 神殿へ

視点の切り替わりが普段より多めです。

少しでも楽しんで読んでいただけると幸いです!


時が経ち、身も凍る寒さの季節になった。


「お待たせ」


寮の下で待っていたバーンとクラウスに声を掛ける。


「じゃあ、行こうか」


バーンが歩き出す。



―今日は、300年ぶりに神殿内部に入る日だ。


「ちょっと、緊張するね」

「そうか?凍った昔の俺がいるだけだぞ?」

「え?」

「ちょっと、クラウス。リーはその事知らないよ?」

「あ」

「・・・そうなの?」


私が消えてからクラウスに何があったのだろうか。

未だ溶けない氷、それが全身、ひいては神殿内部まで・・・、それって、


「クラウス、死ぬまであの氷魔法、使った、の?」

「まぁ・・・」

「どうして?」

「それは言えねぇ」


プイ、と顔を逸らされる。


「いいけど・・・。言いたくなったら私に教えてね」


強引に聞き出す必要もないと思った。

多分、おそらく、私のためだと思うから。


**


『どうして?』

・・・リネアの言葉を聞いた俺は、過去を思い出していた。



『あ、あぁ・・・』


目の前で彼女が闇に飲まれていく。リネアは闇の魔力ごと、自身を消滅させるつもりだ。

俺が伸ばした手はことごとく届かない。いや・・・、受け取ってもらえなかった。


『クソ!』


あいつは笑っていた、

俺の手を無視して、

自分だけ吹っ切れた顔で、

勝手に満足して。

俺を残して、消えた。


『もう、魔力がねぇ・・・』


彼女を引き戻そうにも手のひらに収まる氷しか作れなかった。その氷もすぐに溶けてしまう。


『・・・あぁ』


そうだ、まだ俺には魔力が残されている。


『このまま、リネアとずっと・・・』


あいつとの思い出ごと、氷で閉じ込めてしまおう。

俺の命を使った氷で、彼女と永遠に。


『―好きだ』


その言葉は、誰にも届きはしない。

一番伝えたい人はこの世にいないのだから。

最期に見せた笑顔ではない、屈託のないリネアの笑顔を思い出す。


【じゃあ、約束!もし、来世で出会えたら・・・。私から、クラウスに気持ちを伝えるよ】


『・・・そうだ』


脳内で彼女の最期の言葉が響いた。そうだった、あいつはそう言っていた。


『絶対、お前から言わせてやる』


絶望から一転、言いようのない怒りを抱えていた。


『・・・このまま逃げられると思うなよ、リネア』


しかし、今世では願いが叶いそうにない。


『どちらにしろ、来世か』


せめてこの神殿が荒廃しないように、その一心で俺は氷と一体化した。

徐々に意識が遠のいていく。焦る二つの足音が迫る。


『バーンとカーラには、申し訳ないことしたな』


どうか許してくれ。リネアが居ない世界は、俺には耐えられそうにないんだ。

カーラを苦しめる闇の魔力は、俺とリネアが責任を持って封印してやるから。


体が透き通る。不思議と寒さは感じない。

―そのまま意識を飛ばした。



それから何回、人生を経験しただろう。リネアを求めて世界中を探し回るも、一向に彼女の気配が感じられない。

ある日、バーンに会った。一部始終を聞いたあいつは、俺を思いきり殴った。


俺が300年前のリネアを諦めたと思い込み、激高していた。

消滅したリネアを探さず逃げた俺を憎んでいた。


バーンは残された後、最初の生を終えるまで解決の糸口を掴もうとしていたらしい。

それ以来、彼とは会うことは無かった。『ごめんな』、心の中で謝る。



―気の遠くなる年月を過ごした。


もう会えないんじゃないか、そう思った日も少なくない。

いつまでも執着している自分がバカバカしくなっていた。

もうすでに、リネアは俺の前に姿を現してくれないんじゃないか。


俺は、何のために生きている?


気が付けば、俺の生まれた世界ではないのに。

文明が栄え魔法が浸透している。俺と旅した【国の聖女】は、伝説になっている。


―俺はいつまで過去の思い出に縋るんだ?


もう無理か、そう思っていた。

が、ついに。ようやく、彼女を見つけた。

緑の髪を風に遊ばせ、正門を通る後姿に涙が出そうだった。


『・・・っリネア』

俺は必死になって走った。

彼女を捕まえなければ、そしてあの時の約束を―、



**


「クラウス?大丈夫?」


その声にはっとする。リネアは俺を心配そうに見ていた。


「・・・あぁ」


恋焦がれた彼女が、ようやく俺を見てくれる。その事実がたまらなく嬉しかった。


***



「・・・本当に、久しぶりね」


傷一つない神殿のアーチの下、カーラが笑顔で待ち構えていた。


「カーラ!・・・ごめんなさい!私のっ、せいで!カーラの人生を滅茶苦茶にした・・・!」


あの時と、一切変わらない姿のカーラに縋る。

彼女の人生を封印で終わらせないため、そのために私達がいたのに。私自身が彼女を苦しめたのだ。


「気にしないで、私は報われた気分よ。リネアにまた会えたから」


そんな風に笑わないで欲しい。私を許さないで欲しい。


「もっと叱ってよ・・・」

「・・・300年は長すぎね」

「うん」

「それと、一人で突っ走ったら駄目」

「・・・うん」

「もっと私達を頼って」

「・・・う、ん」

「あと、自分を大切に思っている人をもっと大切にして」

「・・・っうん」

「リネア、おかえりなさい」


その一言に、涙が止まらなかった。

泣かないでよ、とカーラが私を抱きしめる。ふわっと安心する花の香りが、鼻腔をくすぐった。


「カーラはこれからどうするの?」

「私は・・・、消滅する」

「え」


目の前が真っ暗になった。嘘だ。


「・・・嫌」

「300年も待ったのよ。本当はもう、魔力がもちそうに無かったの」

「・・・嫌だよ。私が出来る事なら何でもする」

「ありがとう。その言葉が聞けて嬉しい」

「本当に無理なの?」

「私の目的は4人でまた出会う事。それが達成された今、未練はないわ」


泣きながらカーラを見上げると、清々しい表情をしていた。


「大丈夫、きっとまた会える」


カーラは泣きじゃくる私の頭をひと撫でして、クラウスとバーンに近寄る。


「二人共、これからもリネアを守りなさいよ。もう二度と目を離さないで」

「あぁ」「もちろん」


その言葉を聞いて、カーラは安心したように笑う。


「そろそろね・・・」


快晴の空を見上げ、彼女が呟いた。足が輝く粒子となって散ってゆく。


「カーラ、ありがとう」


300年間、私を待ち続けていた親友に別れを告げる。


―さようなら。

孤独な私に、初めて人の温もりを教えてくれた人。あの時の温かさは一生忘れない。


「次は会うのは、300年後かしら?」


無邪気な笑顔を残し、カーラは消えた。

輝く粒子を乗せた心地よい風が、3人の間を抜けていった。


次で最終話です。カーラとの再会はいつか書けたらいいな、と思っています。


閲覧ありがとうございました!

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