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私が約束を果たすまで  作者: Neko
16/18

第16話 融解

リネアとクラウスメインです。

少しでも楽しんでいただけると幸いです!


文化祭の後夜祭の夜。

私は、ホールの入り口でそわそわして立っていた。

クラウスがやってくる時は女性の姿が増えることを知っている。

案の定、女性の声が大きくなってきた。


「ふぅ・・・」


緊張してきた。バレッタから借りた白と水色の間のドレスは、私に合っているだろうか。実はクラウスの瞳の色に合わせてみたり。ニヤニヤしながらドレスを着つけてくれたバレッタには、バレていたようだけれど。。


「後夜祭前に謝りたいな・・・」


出来れば気兼ねなく、文化祭の余韻を楽しみたい。不安だったバーンは告白前と一切変わらない態度で安心した。「クラウスと仲直りできなくても、僕がいるから」とか何とか耳元で囁かれた。むしろ、前より・・・、積極的で困っている。


「あ・・・」


クラウスが女性の取り巻きをそのままに、前方を通過する。彼はその輪を抜ける術を身に付けているはずなのに。チラリと盗み見ると、何と薄く笑っていた。


「・・・ぐっ」


おそらく彼なりの意趣返しだ。酷いことを言った自覚はあるので、私から声を掛けようと、一歩を踏み出す―。


「リ、リネアさんっ」

「?」

「あの、良かったらっ、僕がエスコート、してもいいですか?」


顔を真っ赤にした見知らぬ青年が私を誘ってくれていた。片手を私に差し出し、返事を待っている。


「え、と」


困ったな。しかし、バーンの告白の時にも感じたが、勇気を振り絞った人には誠心誠意対応しなければならない。エスコートくらいなら、と手を伸ばす。クラウスには後で話しかけよう。


「いいです―」


よ、と伸ばした手は横から伸びた手にかっさらわれた。

私の手より少し大きくて骨ばっている手。この手で握られるのは三回目だ。


「よ・く・ね・ぇ」

「ひぇ」


青筋を浮かべたクラウスがこちらを見て、笑った。

が、目が笑っていない。



「ご、強引なエスコートだね」


私の手、というより腕を掴んだまま。クラウスはホールの入り口とは反対方向にずいずい進んでいく。


「この辺でいいか」


立ち止まった所は、静かなテラスだった。賑やかなホールとは正反対の静けさ。秋だから風が吹くとハラハラ木の葉が舞い落ちる。


「クラ、ウス・・・、ごめんね。ずっと待ってくれたのに、私、貴方に酷い事言っちゃった」

「・・・ふん」

「え?ここは、クラウスも謝る流れじゃないの?」


てっきり、私と同じように謝ると思っていた。こちらは、腕を凍らされたのだ。


「お前が自分で言った約束を思い出すまで、俺は謝らない」

「【約束】以外は・・・、思い出してるんだけど」

「はぁ!?お前、俺がどれだけ信じて待ってたと思ってる」

「ごめん・・・」


ううん、と悩むときの癖で顎に手を当てようとする。


「手、離して?」

「無理。逃げるだろ」

「・・・逃げないよ」


そういえば、300年前の私はクラウスの手を握り返すことは無かった。彼は何度も私を助けようとしてくれたのに。


「じゃあ、今度神殿行くか」

「うん。バーンも―」


誘う?・・・って、そう言いたかった。

気付けば、彼の整った顔が、近くて。

クラウスも香水付けるんだ、石鹸みたいないい匂い、なんて考えて現実から目を背ける。

思わず後ずさるも、後頭部に手が添えられているので叶わない。


・・・何よりも、く、口が。


「~~~!」


驚いて目を見開く。そんな私を笑いながら解放し、クラウスは私の顔を両手で挟んだ。


「な、なにすんの」

「ふっ。アホ顔。耳まで赤い」

「うるさいっ」

「なぁ、今だけはバーンの名前出すのやめてくれる?」


どうやら幼馴染の彼に嫉妬しているようだ。


「ふふっ」

「何笑ってんの」

「いや?可愛いところあるんだなって」

「・・・ファーストキス奪われたくせによく言う」

「300年前にあったかもしれないよー?クラウス達と会う前にね」


嘘だ。キスどころかハグもされたことない。・・・いや、初めてのハグはカーラだった。


「本当か?」


彼は気分と魔力がよくリンクするようだった。喧嘩した際の寒気が襲ってくる。


「ごめん、嘘、嘘。クラウスが最初だから!」

「次、嘘吐いたら凍らせるからな」


そういば、前も言っていた。人間を凍らせるなんて物騒な冗談だ。


「前にも怒った時言ってたけど、それって氷魔法ジョーク?」

「本気だけど」

「・・・えっ」


今後、彼を怒らせないようにしよう。そう己に誓った。




煌びやかなホールに戻るも、クラウスの顔が見れない。何故か彼を見ると顔が熱くなってしまうのだ。


「・・・その顔は、何かあったねぇ」

クラウスから距離を取っていたら、バーンが近づいてきた。こういう時は彼の鋭い観察眼が憎い。


「な、なにも?」


先ほどの光景がフラッシュバックしてしまう。


「・・・それ、僕とも想像できる?」

「ぅえ!?」

「あはは、嘘だよ」

「意地悪」


あれ以来バーンはこんな調子だ。私をちょくちょく、からかってくる。


「おい、リネア。そのドレス似合っているな」

「ありがとう。ジェット」

「お前にこれを持ってきた」


彼が差し出す皿には、可愛いケーキが乗っていた。


「わ、嬉しい!」


笑顔で彼に感謝する。その言葉にジェットは満足したようで、


「気に入ってもらえたら、それでいい!」


と同じ笑みを返してくれた。




「美味しいなぁ」


ジェットから貰ったケーキを一人頬張っていた。文化祭の疲れが癒されていく。


「・・・なぁ」

「!」


思わず席を立ちあがる。ぶわ、と顔が熱を持ち始めた。制御ができない顔に少々苛立ちを感じる。


「さっきから、避けてるよな?」

「避けて、ない」

「・・・じゃあ、逃げるなよ」

「う、ん」


俯き、顔を隠しながら座る。


「そのドレス、似合ってるな。俺の目と合わせたのか?」


茶化すように笑われ、顔を覗き見られる。

・・・駄目だ。今、見られると、


「―お前」


バレてしまう。


「わ、わ、私!ちょっとバーンの所行かなくちゃ!クラウスもカッコいいね!」

「おい」

「ま、またね!」


本当に申し訳ないが、今は顔を見れない。私はドレスをたなびかせて走った。


**


「早く、思い出さねぇかな・・・」

リネアにつられて顔を真っ赤にしたクラウスが、呻くように言った。


登場人物の気持ちが大きく動く話は、書いていてものすごく楽しかったです。


閲覧ありがとうございました!

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