第16話 融解
リネアとクラウスメインです。
少しでも楽しんでいただけると幸いです!
文化祭の後夜祭の夜。
私は、ホールの入り口でそわそわして立っていた。
クラウスがやってくる時は女性の姿が増えることを知っている。
案の定、女性の声が大きくなってきた。
「ふぅ・・・」
緊張してきた。バレッタから借りた白と水色の間のドレスは、私に合っているだろうか。実はクラウスの瞳の色に合わせてみたり。ニヤニヤしながらドレスを着つけてくれたバレッタには、バレていたようだけれど。。
「後夜祭前に謝りたいな・・・」
出来れば気兼ねなく、文化祭の余韻を楽しみたい。不安だったバーンは告白前と一切変わらない態度で安心した。「クラウスと仲直りできなくても、僕がいるから」とか何とか耳元で囁かれた。むしろ、前より・・・、積極的で困っている。
「あ・・・」
クラウスが女性の取り巻きをそのままに、前方を通過する。彼はその輪を抜ける術を身に付けているはずなのに。チラリと盗み見ると、何と薄く笑っていた。
「・・・ぐっ」
おそらく彼なりの意趣返しだ。酷いことを言った自覚はあるので、私から声を掛けようと、一歩を踏み出す―。
「リ、リネアさんっ」
「?」
「あの、良かったらっ、僕がエスコート、してもいいですか?」
顔を真っ赤にした見知らぬ青年が私を誘ってくれていた。片手を私に差し出し、返事を待っている。
「え、と」
困ったな。しかし、バーンの告白の時にも感じたが、勇気を振り絞った人には誠心誠意対応しなければならない。エスコートくらいなら、と手を伸ばす。クラウスには後で話しかけよう。
「いいです―」
よ、と伸ばした手は横から伸びた手にかっさらわれた。
私の手より少し大きくて骨ばっている手。この手で握られるのは三回目だ。
「よ・く・ね・ぇ」
「ひぇ」
青筋を浮かべたクラウスがこちらを見て、笑った。
が、目が笑っていない。
「ご、強引なエスコートだね」
私の手、というより腕を掴んだまま。クラウスはホールの入り口とは反対方向にずいずい進んでいく。
「この辺でいいか」
立ち止まった所は、静かなテラスだった。賑やかなホールとは正反対の静けさ。秋だから風が吹くとハラハラ木の葉が舞い落ちる。
「クラ、ウス・・・、ごめんね。ずっと待ってくれたのに、私、貴方に酷い事言っちゃった」
「・・・ふん」
「え?ここは、クラウスも謝る流れじゃないの?」
てっきり、私と同じように謝ると思っていた。こちらは、腕を凍らされたのだ。
「お前が自分で言った約束を思い出すまで、俺は謝らない」
「【約束】以外は・・・、思い出してるんだけど」
「はぁ!?お前、俺がどれだけ信じて待ってたと思ってる」
「ごめん・・・」
ううん、と悩むときの癖で顎に手を当てようとする。
「手、離して?」
「無理。逃げるだろ」
「・・・逃げないよ」
そういえば、300年前の私はクラウスの手を握り返すことは無かった。彼は何度も私を助けようとしてくれたのに。
「じゃあ、今度神殿行くか」
「うん。バーンも―」
誘う?・・・って、そう言いたかった。
気付けば、彼の整った顔が、近くて。
クラウスも香水付けるんだ、石鹸みたいないい匂い、なんて考えて現実から目を背ける。
思わず後ずさるも、後頭部に手が添えられているので叶わない。
・・・何よりも、く、口が。
「~~~!」
驚いて目を見開く。そんな私を笑いながら解放し、クラウスは私の顔を両手で挟んだ。
「な、なにすんの」
「ふっ。アホ顔。耳まで赤い」
「うるさいっ」
「なぁ、今だけはバーンの名前出すのやめてくれる?」
どうやら幼馴染の彼に嫉妬しているようだ。
「ふふっ」
「何笑ってんの」
「いや?可愛いところあるんだなって」
「・・・ファーストキス奪われたくせによく言う」
「300年前にあったかもしれないよー?クラウス達と会う前にね」
嘘だ。キスどころかハグもされたことない。・・・いや、初めてのハグはカーラだった。
「本当か?」
彼は気分と魔力がよくリンクするようだった。喧嘩した際の寒気が襲ってくる。
「ごめん、嘘、嘘。クラウスが最初だから!」
「次、嘘吐いたら凍らせるからな」
そういば、前も言っていた。人間を凍らせるなんて物騒な冗談だ。
「前にも怒った時言ってたけど、それって氷魔法ジョーク?」
「本気だけど」
「・・・えっ」
今後、彼を怒らせないようにしよう。そう己に誓った。
煌びやかなホールに戻るも、クラウスの顔が見れない。何故か彼を見ると顔が熱くなってしまうのだ。
「・・・その顔は、何かあったねぇ」
クラウスから距離を取っていたら、バーンが近づいてきた。こういう時は彼の鋭い観察眼が憎い。
「な、なにも?」
先ほどの光景がフラッシュバックしてしまう。
「・・・それ、僕とも想像できる?」
「ぅえ!?」
「あはは、嘘だよ」
「意地悪」
あれ以来バーンはこんな調子だ。私をちょくちょく、からかってくる。
「おい、リネア。そのドレス似合っているな」
「ありがとう。ジェット」
「お前にこれを持ってきた」
彼が差し出す皿には、可愛いケーキが乗っていた。
「わ、嬉しい!」
笑顔で彼に感謝する。その言葉にジェットは満足したようで、
「気に入ってもらえたら、それでいい!」
と同じ笑みを返してくれた。
「美味しいなぁ」
ジェットから貰ったケーキを一人頬張っていた。文化祭の疲れが癒されていく。
「・・・なぁ」
「!」
思わず席を立ちあがる。ぶわ、と顔が熱を持ち始めた。制御ができない顔に少々苛立ちを感じる。
「さっきから、避けてるよな?」
「避けて、ない」
「・・・じゃあ、逃げるなよ」
「う、ん」
俯き、顔を隠しながら座る。
「そのドレス、似合ってるな。俺の目と合わせたのか?」
茶化すように笑われ、顔を覗き見られる。
・・・駄目だ。今、見られると、
「―お前」
バレてしまう。
「わ、わ、私!ちょっとバーンの所行かなくちゃ!クラウスもカッコいいね!」
「おい」
「ま、またね!」
本当に申し訳ないが、今は顔を見れない。私はドレスをたなびかせて走った。
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「早く、思い出さねぇかな・・・」
リネアにつられて顔を真っ赤にしたクラウスが、呻くように言った。
登場人物の気持ちが大きく動く話は、書いていてものすごく楽しかったです。
閲覧ありがとうございました!




