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私が約束を果たすまで  作者: Neko
11/18

第11話 追憶2

リネアの過去がメインです。

「過去で魔法は一般的ではなく、畏怖の対象にもなれば、信仰の対象にもなる」という設定の下読み進めていただければと思います。


「・・・あ、ぁ」


頭を抱えて廃墟の影にうずくまる。

私の過去、そして出会い。辛い記憶と救われた記憶。

気持ちの整理が追い付かない。

バーンが何故、私の記憶を塞ごうとしていたのか合点がいった。迫害された記憶はかつての私の心に暗い影を落とし続けていたのだ。そして、今も。




―続けざまに、過去の記憶が掘り起こされる。



カーラ、と呼ばれた女性から手当てを受けていた。


『もう大丈夫よ。安心して』


彼女の魔力は安心する。温かな春の日差しのようだ。


『リネアさん、だよね?僕はバーンです。・・・君も僕らと同じ体質みたいだけど、どうしてこんな所に・・・』


バーンは優しいのだろう、泣かない私の代わりに悲しんでくれている。


『村に、私の居場所は無いから・・・』

『は?』


クラウスという青年がカーラに詰め寄る。


『どういう事だ?こいつは俺達と同じ魔力量で―』

『落ち着いてクラウス。多分、ここは王都から隔離された集落よ。・・・魔力を忌み嫌っているの』


カーラは申し訳なさそうな顔をしていた。


『リネア、私達は貴方をただ助けに来た訳じゃない。王命を伝えに来たのよ』

『王、命?』


私なんかに何が出来るだろう。何もしたくない。


『封印の使命。隠されている闇の魔力を突き止めて、4人で封印をするのが私達に課せられた使命よ』


闇?封印?あぁ・・・、どうでも良いや。この世界がどうなろうとも。


『私じゃなきゃダメなんですか?』


吐き捨てるように言う。この世界を助けて、その先に何がある?


『駄目。拒否権は無いわ』


ばっさりと断言される。強い言葉とは裏腹に、カーラが懇願するようにこちらを見ていた。


『お願い。やっと見つけたのよ』


掠れた声で、そう言われると断れなかった。私は渋々頷いた。



―そして流されるようにして始まった4人の旅。カーラの探知能力を頼りに、眠る闇の魔力を探す旅だ。

ある日私は周りに馴染めず、隅で風と遊んでいた。その時さっと背後から影が落ちる。


『・・・ごめんな』


彼は私の隣に腰を下ろす。


『えと、クラウスさん。大丈夫です。どうせ死ぬところだったし』

『俺達、何も知らなかった』

『・・・』

『王都では、魔法を使える奴は貴重だ。・・・俺達みたいな奴らは、一部から崇拝さえされている』

『・・・そうですか』


何が言いたい?迫害されていた私に同情しているのだろうか。


『だから、自分の見分の狭さを恥じたよ。お前はその魔力のせいで・・・』


ぐっと言葉を詰まらせている。この人も根は優しい人なのだろうか。私には関係ないけれど。


『お前は魔法を嫌ってるだろうが、今回だけは協力して欲しい。でないと、カーラが救われねぇ』

『どういう意味ですか』

『封印は元来一人で、歴代の聖女が命を賭して行ってきたんだ。だが、今はカーラが莫大な魔力量を持った人を探知できる魔法を生み出した。俺達が力を合わせれば、誰も死なない』

『・・・そうですか』


私はそうつぶやき、興味を失ったように前を向く。

そんな私の横顔を、クラウスさんは悲しい目で見ていた。




―場面が変わり、荒廃した土地で私は横たわっていた。呼吸するたびに腹部が大きく上下する。


『失敗したな・・・。うっ』


訪れた地で内戦に巻き込まれ、風魔法で逃げようとしたら追い回された。挙句、弓矢で腹を射抜かれてしまった。じわじわと温かい血が滲んでいく。


『はぁ、はぁ』


目の前が暗くなる。音が消えていく。


『ここまで、かぁ・・・』


忠告を無視して、深夜に一人で行動してしまったのだ。

夜だというのに光が灯っていて、まるで祭りみたいだと思った。私も参加したい、なんて不相応な願いを持ったのが誤りだった。

三人は村のはずれで寝ている。気付く人はいないだろう。

・・・あの時と同じように生を諦めて目を閉じる。


『リネア!!』


突如、声が、響く。

誰かが私を呼んでいる。


『・・・クラウス、さん?』

『喋るな、カーラを呼ぶ』


彼は私の腹部の血を氷で凍らせた。痛みが一瞬冷たさに変わる。


『もう大丈夫だ、お前は一人じゃない』


そう言って彼は初めて笑った。視界がぼやけていたから、幻覚かもしれないけれど。




『二度と!勝手なことは!するなよ!』


あの時の笑顔はどこへやら。早朝から、クラウスさんはベッドに横たわる私をギッと睨みつけていた。


『・・・ごめんなさい』

『本当にそう思ってるのか?』

『・・・』


逃げるように顔を逸らす。


『あのな、お前が死んだら困るんだ』

『そうですよね。封印が終わるまで、自分の役割を全うします。もう勝手な行動はしないので安心してください』

『それもあるが・・・。じゃなくって・・・』


苛立ったように頬を掻き、クラウスさんは窓の外を見た。耳が若干赤い。


『俺が、困るんだよ。お前が居なくなったら』

『何でですか?』


出会って数か月という短い期間で、私が彼にどのような影響を与えたというのだろう。不思議な人だ。


『だから―』


怒ったように、彼はこちらを向く。が、扉を蹴破る勢いでカーラとバーンが突入してきた。


『リネア!私も貴方が大切よ!』

『ぼ、僕も』

『お前ら!散れよ!』


しっしっとクラウスさんが手を振る。


『クラウス、その先の言葉はまだ取っておきなさい。早いわ』


一気に、部屋が騒がしくなる。

ギャーギャーと騒いでいる彼らを見ていたら、笑いが込み上げてきた。


『ちょっと、皆さん、まだ朝ですよ』


あはは、と自分でも聞いたことのない笑い声が出た。人は笑うと涙が出るんだ。


『『『・・・』』』


ひとしきり笑い、顔を上げると・・・、

三人がぽかんとした顔で見ていた。


『初めて笑った・・・』


誰かが零した声に、はっとする。私、今まで笑ったことなんてほとんどない。


『その調子よ、リネア!』


がばっとカーラが私に抱き着いてきた。初めて、人に触れて、


『あったかい・・・』


今度は違う涙が出た。悲しみでも、笑いでもない涙。



―あぁ、そうか、私、寂しかったんだ。

 初めて誰かを大切にしたいと思った。

 この3人だけは、何があっても守りたい。

 そのためならば、何を犠牲にしてもいい。


リネアが人の温もりに触れた物語でした。

今のリネアの明るさは3人のおかげです。


閲覧ありがとうございました!

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