第1話 再会
前作は、ブクマ・評価ありがとうございました!めちゃくちゃ嬉しいです!
読む人が少しでも作品に浸かれるように頑張ります。
『じゃ■、■■!もし、来■で■■■■ら・・・。私から、■■■■に気■■を伝■■よ』
―これは私がついた、最期の嘘だった。
『おい、待て。駄目だ。っやめろ・・・!』
目の前の彼は悲痛な面持ちで、必死に手を差し伸べてくる。
私はその手を一瞥し、頭を振った。
瞬間、普段表情を変えない彼は泣きそうな顔になる。
そんな彼とは対称的に、私は笑顔をつくった。
奥歯を噛み締めて、零れ落ちそうな涙を堪える。
最期くらい彼の記憶に残る私は笑顔であって欲しい。
(あぁ、こんな別れ方したら絶対許してくれないだろうな。・・・もう、会えることは無いけれど)
『―ごめんね』
こんなことなら、もっと、もっと早く気持ちに気付いていたら。
今更気づいたってもう―。
闇に向かって歩み寄る。
そして、目の前が黒に染まった。
*****
どこからか鶏の鳴き声が聞こえる。窓から眩しい日光が差し込んでいた。
「あ、朝・・・」
懐かしい夢を見ていた気がする。悲しくて、切なくて、微かに罪悪感のある夢だった。
「・・・よし!」
夢見が悪かったことは忘れて、気合を入れる。何といっても今日は記念すべき入学の日なのだ。
私が通う全寮制の王立魔法学園には、魔力を持った優秀な人が集まる。平凡な村から入学者が出るなんて稀有な事態らしく、小さな村はお祭り状態だった。
その上、同じ村から私以外にもう一人いる。
学園から支給された制服を身にまとい、村を振り返る。
「じゃあ、行ってきます!」
「リネアちゃん、頑張ってね!」「応援しているぞー」「休みには帰ってきな!」
私の門出を祝う温かな声に包まれる。
「はーい!」
私は村の人に手を振り、自然豊かな故郷をあとにした。
***
「おおー。流石、大きいなぁ」
学園の門を見上げ、一人感嘆する。黒を基調とした質の良い制服から察してはいたが、村とは比べ物にならない絢爛な建物だ。
絵本でしか見ないような大きな門をくぐり、遠くの校舎まで続くレンガの道を歩く。
脇にある噴水のバシャバシャという音が心地よい。
どこからか微かにバラの匂いもする。
初めての光景に圧倒されていると、突如、後ろから腕を掴まれた。
「うわっ」
立ち止まり、掴まれた手から上に視線を上げていく。
(私、何かした?・・・もしかして、こういう正門って真ん中は貴族しか通ってはいけない、っていう規則とか?)
ビクビクしながら、腕を掴んできた人物を見上げる。
とはいえ、予想以上に力強く腕を掴まれたなと感じる。まるで、逃げている人を全力疾走してやっと捕まえたような・・・。
「・・・誰、ですか?」
そこには、明らかに高貴な雰囲気を纏った青年が立っていた。端正な顔つきに、光で煌めく銀糸のような髪。透き通るような蒼い瞳は、氷を思わせる透明度だ。
「あの、私、何か粗相をしましたでしょうか・・・」
怯えながら、何とか言葉を発する。
「・・・おい、ふざけてんのか」
「えっ」
明らかに、怒っている。
「ご、ごめんなさい?」
(ど、どうしよう。私、この人に何かしちゃった・・・?)
このままではバラ色の学園生活に支障が出てしまう。とりあえず、穏便に事が進むことを期待して謝罪をしたが、効果は無いようだった。
「―お前は、リネアか?」
「は、はい。ソウデス」
「っやっと―」
そう言い、彼は黙ってしまった。
「?」
「・・・何でもねぇ」
何か深く考え込んでいる様子だ。手持ちぶさたの私は、ちらりと掴まれたままの腕を見る。
「ちっ」
彼は存外優しい手つきで私の腕を解放し、スタスタと校舎に向かって行ってしまった。
「えぇ・・・」
一人取り残された私はひたすら困惑する。
(名前まで知られている。初対面の・・・。しかも、貴族に・・・)
「あぁー、私、何かしちゃったかな」
夢の学園生活に、早速影が差し掛かったようだ。
***
入学式を終え、教室に移動した。
教室は講堂のようで、自由に席を選べた。どの席に座ろうか悩んでいると声を掛けられる。
「やぁ」
「その声は・・・。やっぱり、バーン!」
赤茶色の頭をした彼は、私の幼馴染であるバーンだ。同じ村で育った私の唯一の親友。
「リネアと同じクラスで良かったな」
「私も。この学校馴染めるまで時間かかりそうだから、知り合いがいて良かった」
馴染みの顔を見て、緊張の糸が解けた気がした。
自然あふれる村と、豪華絢爛な校舎のギャップについて語っているうちにホームルームが始まった。
先生の話を流し聞きしながら、隣の彼に話しかける。
「あのさ、白?銀?の髪の毛で青い目をした男子生徒って知ってる?」
「ううーん。僕もここに来て短いからなぁ。・・・あ、でも」
と言ってバーンが視線で誘導してきた先を見る。私の斜め後ろだ。
私もそっと振り返る。そこには、透き通る銀髪の、青い目の―
「げっ」
「・・・まさか、当たり?」
こくこくと頷く。
何かあったの?と問うバーンに朝の出来事を話す。
「気にしない方がいいよ。彼は僕たちとは育ちが違うし、価値観も違う。リネアが面倒に巻き込まれないためにも、極力関わらないで」
「う、うん」
私は少したじろいでしまった。いつも穏やかな彼が、負の感情をむき出しにしている。
「バーンはあの人の事、よく知ってるんだね」
「まぁ、彼は有名だしね。この辺では大きな貴族の息子だよ」
「へ、へぇ、そうなんだ」
私はどっと冷や汗をかいた。「大きな貴族の息子」・・・。それこそ、目を付けられたら一巻の終わりだ。彼のファンに攻撃される学園生活の予感しかしない。
私は何もしていない・・・はずなのに、どうして。
「どうにかしないと」
何とかして彼の好感度を取り戻さなければ。
***
「これで得意魔法が分かるの?」
配られた小さな紙を太陽に透かしてみるも、何も変化はない。
「そうだよ。この紙がその人にとって得意な属性を教えてくれるんだ」
「バーンは何だった?」
「僕は・・・、何だと思う?」
「えっと、火かな?」
彼の赤茶色の髪を見て答えると、何故か彼は嬉しそうにした。
「僕、リネアは風だと思うよ」
「そう?・・・・あ、ほんとだ。凄い!」
私が紙に力を込めると、風を表す緑色が浮かんできた。
「なんで分かったの?」
「え?・・・あ、えっと。リネアの髪が緑色に近い・・・から」
「なぁんだ。私と同じ考え方か」
ふと、辺りを見渡すと例の彼がいた。まだ白紙の紙を持っている。
「チャンス」
リネアは一人でそっと近づいた。
「あ、あのー」
思い切って声を掛けると、彼は振り向いた。
「・・・」
「この前は、私何かしちゃったかなぁって」
「何かした記憶があるのか?」
「いや、全然思い当たらないんですけど、それが逆に怖いっていうか」
「・・・」
「あは、は」
(会話が続かない・・・)
気まずさから、話題を変えてみることにした。このままでは私の学園生活が危ういのだ。
「その紙、面白いですよね!私、風の魔力でした」
「・・・俺は?」
「え」
「あいつの魔力は当ててただろ。俺はどうだって聞いてる」
「あぁ、えっと、貴方はですね・・・」
チラリと髪を見ると、銀だ。
(・・・分からない!)
「うーん、水とかですかね?」
当てずっぽうで答える。そもそも、髪色で魔力が分かる訳がないのだ。
「はぁ・・・。もういい」
違ったようだ。例の彼はため息をついて、こちらをじとっと見つめてきた。
「あ、氷」
透き通る蒼い瞳。何故か、氷の青だと思った。
「ふん」
その言葉に満足したのか、彼は紙に浮かび上がってくる白を見せつけてきた。
―氷の白だった。
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