神と罪のカルマ オープニングfirst【06】
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「すまない……!!」
目の前に座る『少年』へと、『着物の男』は戸惑いも無くその額を畳へと叩きつけて土下座をした。
それは謝罪。
プライドも何もかも捨てて、ただひたすらに偽りなき、「謝りたい」という意思を強く表す。
この日本屋敷にて一番大部屋では歓喜ある声で溢れていた。
それもそうだろう。長年の『我が一族の願い』を叶えられると確信した記念すべき日なのだ。
喜ばずにはいられない。酔わずにはいられない、と。各々豪華な料理やら酒やらを口に運び騒ぎ立てている。
そんな声が届く、少し離れた和室。いるのは『少年』と『着物の男』の二人だけ。
食べ物も水もなければ、月明かりしか降り注がない部屋。
声も『着物の男』しか発することが無く、『少年』の方は口を一切開かない。
「私は……、いや、私たちは君に……取り返しのつかないことをしてしまった! 謝っても謝り切れないほどの、償っても償いきれないことを、君に……!!」
その手に力が入る。爪が畳を削り、肉との間にその繊維が入り込む。
だが、その手を握る感情は、先ほどの『東の者』とは全く違うものであった。
後悔――そして、自分への怒り。その感情を表す力の入れ方だった。
「……」
『少年』は何も言わない。
何も映らない瞳をただ開いたまま座り続けているだけ。
その姿に、〝人間味〟を感じない。
「言い訳はしない。私も、『一族の思い』に溺れていた」
「……」
「『成功作』と聞いて喜んだ」
「……」
「やっと果たされるのだと……、いままでのことが報われるのだと……」
「……」
「君を見るまでは……」
「……」
「間違えだったんだ」
「……」
「私たちは、この世で最も醜いことを、最低で最悪なことを……」
「……」
「君にしてしまった」
「……」
「自分たちがされて嫌だったことを」
「……」
「苦しんだこと全てを……」
「……」
「君にしてしまったんだ……!」
「……」
「何が『一族の思い』だ!」
「……」
「道徳も人としての誇りも何もないじゃないか!」
「……」
「多くの人生を、この子の人生を壊してまで果たすべきものなのか!!」
「……」
「私たちは人間でもなんでもない!!!」
「……」
『着物の男』は、一体どのような顔をしているのだろうか。
顔は一切上げなかった。
土下座したままの姿で自分たちの過ちを悔い――『一族の思い』に捕らわれていた自分を責め、少年へと謝罪の言葉をひたするに並べていく。
その間でも、『少年』は一度も口を開かなかった。
その間でも、『それ』は一度も口を開かなかった。
ただ存在するだけのように。
ただ其処で息をしているだけ、ただ其処で心臓が動いているだけのように――
呼吸と鼓動。
それだけしか、『それ』から感じることが出来なかった。
違和感に気付いて頂けたら、もっとお話が面白くなるかもです。