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神と罪のカルマ  作者: 乃蒼・アローヤンノロジー
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神と罪のカルマ 敗者復活戦first【03】

 

『息が止まるほど美しい』

『美しさに心が奪われる』

『絵にも描けない美しさ』


 まさに目の前にいる女性に相応しい言葉たちであろうか。

 光に照らされることでより一層の輝きを見せる髪。色は明るい。

 まつ毛は誰もが羨ましく思う程に長く。桃色を帯びた頬と形のいい唇はきっと触ると柔らかいであろう。

 服から除く肌は白さを持ち、身体は女性としての魅力に溢れ整っている。


 全てに恵まれたその姿は、すれ違う者すべてが振り向く。見た者は全て見惚れてしまう。

 そう、誰もが彼女のことをこう表現するだろう――


 『絶世の美女』と――……


「朋音?」


 彼女は、仁樹にとって愛しき存在。

 愛しき女性であり、かけがえのない者――……


 縁 朋音(ゆかりともね)

 財峨仁樹の初恋であり、最後の恋。


 そして、一生の愛を――、

 一途で『揺ぎ無き愛』を誓った、たった一人の女性である。


「どうして朋音が? 何かあったか?」

「うん、幸せを届けに来たの」


 愛しき彼女の来訪。驚きを隠せないまま拘束を解きながらも問い掛けると、こんな光景に首を傾げながらも彼女は微笑みながら答えてくれた。

 その微笑みで先程まで荒々しかった心が癒されたような気がする。


「ぼくもいるよー!」

 すると、今度は下の方から彼女とは違う――幼い声が聞こえた。朋音から視線を下へと移動させると〝仁樹にそっくりな〟子どもの顔がそこにはいた。


 その姿はまるで仁樹をそのまま子どもに戻したようであった。

 切れ長の目でも幼さゆえの柔らかさを持ち、その漆黒の髪は仁樹のような染める痛みを知らない。

 まだ男前には程遠いが子どもらしく可愛らしいその顔は、将来が期待できそうな顔立ちだとよく言われている。

 大人とは違い、純粋さ溢れる可愛いい子ども。

 名前は、財峨灯真(ざいがとうま)

 仁樹のたった一人の弟である。


「灯真まで?」


 朋音に灯真。子ども好きな朋音はよく灯真の面倒を見てくれている。その為に組み合わせとしては珍しくないのだが、その二人がどうしてこんな平日の時間に自分の目の前にいるのか。


「裏口にいらしていたので中に案内致しましたわ」


 すると二人の後ろから希世が現れた。先程からの騒ぎに彼女がいなかったのは裏口に行っていたからか、と少しずつ冷静になっていく頭の中で一つ一つ浮かんでいく謎を解いていく。


「やぁ朋音ちゃんに灯真君。こんにちは」


 先程まで傍観者として騒ぎを楽しんで見ていた料理長が二人に挨拶をして灯真の丸い頭を笑顔で撫で回す。


「こんにちは。お久しぶりです」

「料理長! こんにちはー!」

「はい。こんにちは。灯真君は元気だね」

「お兄ちゃんたちも元気だよー」

「元気にさせられたんだよォ……」


 当の本人からしてみれば「大変」「疲れる」ものも、純粋な子どもから見れば「元気」で片づけられるものらしい。

 実の兄の返事が理解できなかったのか。灯真はその小さい頭を傾け、そんな弟の頭を今度は店長が優しく撫でる。

 次屋夫婦は揃って子ども好きなのだが、二人の間には子どもはいない。

 雅晴とは親子のような関係ではあるが出会った当時の彼は既に中学を卒業していた。そんな子どもと中々接することのなかった二人にとって灯真はとても可愛いらしく、店に訪れた際には手が空いていれば必ず可愛がってくれるのだ。

 実の弟がこうやって沢山の人に可愛がって貰い、沢山の愛情を貰えるということは兄として嬉しいことであると仁樹はしみじみと思っていつも感謝している。


「灯真、いま学校帰りなのか?」

「そーだよー!」

「学校帰り?」


 店長がわざわざ事務室から持ってきた飴玉を灯真にあげて問い掛けると元気な声で答えが返ってきた。その姿を朋音が微笑ましく見ている。

 よくよく見ると朋音の服装がいつもと違うことに気付く。いつもはスカートを好んで履いている彼女だが、いまは動きやすそうなズボンスタイルだ。灯真も同じくジャージといった動きやすい服装で黒いランドセルを背負っている。そんな二人の服装に「あッ」と短い声を出し、仁樹は今日が何の日であるかを思い出した。


「今日は参観日だったな」

「そうなの。それでいまはその帰りなの」


 合点がいった。どうやら本日の参観日では親子競技といった運動するレクを行ったのだろう。

 いつもなら灯真の父親――博士がウキウキとしながら参観しに行くのだが、何せ彼は多忙な人物だ。愛息子のためなら死に物狂いで時間を作るのだがどうしても無理な時があるもので。そういう時は決まって仁樹か朋音のどちらかが参観しに行くことにしている。

 灯真に寂しい思いをさせたくない――ということもあるが、博士が『せめて息子の成長を写真に……!!』という親バカが炸裂したのも理由の一つだ。ちなみに、授業参観時の写真撮影は基本禁止なのでルールを守って息子の成長は口頭で伝えている。


「あのね! なわとびとかリレーとかやったんだよ!」

「そうかァ。リレーは楽勝だっただろ?」

「うん!お姉ちゃん、速かった!」

「おう。俺たちの学年の伝説だからな」


 その時の興奮が蘇ったのか。その場で手を大きく動かして感動を伝える灯真に笑いながら視線を合わせるようにしゃがんだ。

 朋音はその美しき見た目から誤解されがちだが運動神経は想像できない程に抜群だ。高校時代、体育祭のクラス対抗全員リレーでは一人で最下位だったクラスを二位へ導いたという伝説は仁樹たちの学年にて知らない者はいない。


「ほかにもケーキ作ったよー!」

「ケーキ?」

「灯真君、ランドセルから出しちゃおうか!」

「うん!」


 ケーキとは一体。クリームと苺が飾られている丸いケーキを一瞬仁樹は想像したが、学校のレクにてそのようなものを作るだろうか。朋音にランドセルを持ってもらい中身を漁る灯真の姿を見ているとお目当てのものが見つかったらしい。二人は嬉しそうに笑い合ってランドセルから取り出したものを仁樹へと差し出した。


「はーい!」

「パウンドケーキ?」


 綺麗に包装された袋に入っていたのは数切れのパウンドケーキ。


「レクで作ったんだもんね~」

「ねー!」


 どうやら、今回のレクは運動するだけではなかったらしい。


「それで上手に出来たから仁樹君にプレゼントしたくてね」

「俺に?」

「はい、プレゼント!」


 二人で渡したかったのだろう。ニコニコと満面な笑顔で差し出す灯真とその傍で膝をつけて微笑む朋音。

 そんな可愛らしい二人の姿に口元を緩めながら仁樹はプレゼントを受け取った。

 見た目からでもおいしそうな雰囲気を出すパウンドケーキに嬉しさが生まれる。


「でも、博士のは?」

「お父さんのはあるよー」

「別々に用意したもんね~」

「じゃぁ本当に貰っていいんだな?」

「渡したくて来たんだもん!」


 今の仁樹にとっては二人は天使に見えたに違いない。先程まで誰一人として味方がいなかったが自分の為に作って持ってきてくれた優しさが嬉しくてその笑顔が眩しすぎる。本当になんて可愛い者たちであろうか。


「二人とも、ありがと──ッ!?」


 お礼の言葉を伝えようとした――が、言いたかったのだが言えなかった。

 首から派手な音が鳴っても可笑しくなさそうな程の力で押さえ倒された為に言えなかった。


「マジで!! 甘いもんか!?」


 言葉から分かるであろう。仁樹の首を押さえ倒したのは先程彼で大いに楽しんでいた雅晴大先輩様だ。


「流石、灯真~!! いいもん持ってきてくれたな~!!」

「先輩。俺が貰ったんスからね」

「ありがとー!! さっき辛いもの食べてたの!! 嬉しい!!」

「だから、美佳先輩。俺のッスから」

「コレは切り分けたほうがいいですね」

「おい、和成。何、全員喰うの決定なんだよ」

「包丁持ってきますわ」

「持ってくんな、希世!!」

「ケチケチすんなよー。心せめぇなー」


 誰一人として仁樹の話を聞こうとしない。

 まるで「お前の物は俺の物」というように雅晴は仁樹の手からパウンドケーキを奪い取る。


「いいかぁ。食いもんてのは等しく分けて喰うと一番旨いんだよ」

「そうスか。なら、さっきのカレーも等しく分けましょうか」

「でも、独り占めするという違う特別な旨さもある」

「んなもん、知るか」


 ああ言えばこう言う。そんなやり取りをしているといつの間にか希世が包丁を持って戻ってきた。


「親父とお袋は喰わねぇだろー」

「あぁいいよ」

「灯真。もしよかったら今度私たちにも作ってくれないか?」

「あ、うん。いいよ~……?」

「なら五等分なー」

「ちょっと先輩!?」


 本気だ。本気に本人の許可なくパウンドケーキを五等分に分けようとしている。


「パウンドケーキなら今度灯真と一緒に作ってきますから!!」

「今度じゃねぇ今食いてぇんだ!!」

「自分勝手にも程があるだろうアンタ!?」


 やはり納得はいかない。故に、雅晴を止めようと立ち上がった仁樹だった―――が、その時タッパに入った赤々としたものが視界の端に映った。

 もう一度言おう。

〝タッパ〟に入った赤々としたもの──……


「あ゛あァァー!!」


 仁樹のタッパにギリギリまで入れられたら激辛カレーの姿がしっかりと目に映った。


「いつの間に!?」

「朋音ちゃんたちといい雰囲気の時に☆」

「最低だなアンタ!?」


 ウィンクしてきた美佳に本気で殺意を持ちそうになった。そんな彼に彼女は子供らしく口を膨らませる。


「もー。そうなる運命だったんだよー」

「なら、その運命に逆らうッスよ!!」


 そもそもその運命にしたのは美佳であるのだが。


「よし!! 切れたから喰うぞ」

「わーい!」

「わーいじゃねェ!!」


 しかし、当然のように仁樹の言葉は届かず。各々がどれにするか選びながら悩み始めた。


「あーもうわかった!! 全員で喰いましょう!! けど、一番いい奴は俺のッスから!!」

「はぁ!! それは最年長者に譲れよ!!」

「レディーファーストでしょー!!」

「あ、それは僕の!!」

「年下に譲ってくださいませ」


 パウンドケーキを巡る壮絶な戦い。第三者から見てみたら呆れてしまう程に大人気ない戦いがいま始まった。


 そんなどうしようもない程にくだらない戦いをみる外野が四名。


「えーと……?」

「大変なことに……なったね?」

「いや~本当に今日も元気だねぇ~」


 まさか自分たちが持ってきた数切れのパウンドケーキがこんな争いを生むとは思わなかっただろう。呆然とする二人にまたもや料理長はマイペースに若者衆への感想を述べる。……そもそもこの争いは彼が作った激辛カレーパスタを食したという天才の遊びに振り回されたことから始まったのはずなのだが完全に傍観者となって楽しんでいる。


「元気なのはいいが静かにすることも覚えて欲しいな」

「元気駄目なの?」

「駄目というわけではないが、時と場所を考えろってことだな」


 そう言って店長は争う若者たちを尻目に彼らのタッパにカレーを注いでいくのであった。

 勿論、仁樹のタッパの量はそのままで。



仁樹は一見クールに見えて年相応です。

第一巻の時は口の悪くてクールキャラに見えた方もいるかもしれませんが、根は真面目の負けず嫌いです。

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