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神と罪のカルマ  作者: 乃蒼・アローヤンノロジー
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神と罪のカルマ オープニングfirst【05】



「プライドのために警察が割り込んできてドローにして欲しいんだろうけど。さっきまであっちで事件起きてたから多分来ないよ」


 このまま第二ランドに入るか、引き上げるか。どっちを選ぶ?――、と海琉はしゃがみ込んで目の前に倒れているリーダーらしき男に提案する。

 どちらを選んでも自分たちはなんともないといった風に聞いてくるので、リーダーらしき男は顔面蒼白にさっさと仲間を引き連れて逃げていったのであった。


「ありがとうございました!」


 喧嘩といパフォーマンスに周りの人々は拍手喝采。労いの言葉まである。

 そんな中心で二人に助けられた女性は何度も頭を下げる。勿論、彼女には怪我が一つない。


「どういたしまして~」

「でも、あんた。今度から彼氏を待つならもう少し安全なとこ選べよ」


 お礼を受け取ると同時に注意勧告。

 人が多い街中であるから油断したのかもしれないが、先程のように人の目などを気にしないガラの悪い奴らは当然いるわけで。

 今回はたまたま仁樹が助けに入ったが、世の中非情な人の方が多い。今回のように傍観者となる者はいるものの、勇気を出して助けてくれる者などそうそういない。


「お兄さんの言う通りです……すみません。日本に帰ってきたばかりで、昔の感覚のままでした……」

「え、お姉さん海外に行ってたの?」

「はい、十年振りに帰国しました」

「それは、仕方ないかァ……」


 しょんぼりと落ち込む彼女だったが、彼女の言葉を聞いて驚いた海琉は思わず質問を投げかけた。そして、彼女からの返答に仁樹もまた納得したように頷く。


「お姉さん、『眠れない四年間』の時、日本にいなかったんだね」

「はい。なので、こんなにも日本の治安が変わってしまったのかと思ってびっくりしました」

「日本に住んでいると、()()()()()()()()()()()って感じるけどな」

「帰ってきた人からしてみれば変わり過ぎているものなんだぁ……」


『眠れない四年間』

 その名の通り、安心して眠ることができなかった四年間から名付けられた時代の名前。

 

 九年前。

 誰もが怯え、誰もが最低最悪と称した時間の始まり。


 『大量無差別殺人事件』。

 突如と現れた『恐怖』は世界に『安全な国』『平和の国』と評価される日本という島国を襲った。

 時間も環境も関係無しに数多の殺人が可能な方法で人々に『死』を与え続けた事件。

 それは誰もが知る有名人から何処にでもいる幼い子どもまで。

 日本であれば何処でも起きたという恐ろしくも奇妙な殺人事件はいとも簡単に『人の命』を奪っていったのであった。


 後にこの『眠れない四年間』と名付けることとなる悲しき時間は、『国内犯罪率の急激上昇』という真実と共に歴史に残される。


 人々は〝感化〟されたのだ。

 日本を包み込んだ『恐怖』に――――。

 憧れを抱き、自らを事件の首謀者だと名乗り出す者。

 事件に紛れ、欲望のまま強盗や性犯罪、放火などを行う者。

 表から裏の世界へと引き摺り込む者、踏み込んでしまった者。


 街中では殴り合い。蹴り合い。刺し合い。他人同士喧嘩を初め。抗争を初め。殺し合い初め。

 次々と人は踏み外してはいけない世界へと簡単に落ちていった……。


 しかし、五年前。その勢いは急激に沈静化していったのであった。

 警察が犯罪巨大組織次々と摘発し、それに伴って『恐怖』にされた者たちが激変したと思われる。

 

 ある程度の大きな犯罪組織を捕まえ、警察の力が隅々まで渡り切ったとき。政府は宣言した。

『幕は下りた』と――


「でも、たかが五年だ。平和ボケしてた頃のようにはすぐ戻らねェだろ」

「そうだね。あともう五年ぐらいかかるんじゃないかな。そう簡単に変わっちゃった恐怖心は変えられないからね」

「わかりました。今度彼を待つときはお店などに入って――」

「裕美!!」


 突然、背後から大声が聞こえ、二人して驚いて振り向くとスーツ姿の男が必死にこちらへと走ってきた。そしてそのまま二人と――裕美と呼ばれた女性の間に入り込み、彼女を守るように両手を広げる。


「か、彼女に何の用ですか!! ナンパならお断りです!?」

「「へっ?」」


 まさか自分たちがナンパと間違われるとは。

 思わず二人して間抜けな声を上げてしまったが、そんな反応に気付かない彼は必死に声を上げて二人を睨みつける。


「彼女に触れていいのは、ぼ、僕だけだ!!」


 (―ーあ、)


 これは威嚇だ――

 仁樹は遅れながら理解した。


 走ってきた男は裕美と呼ばれた女性の彼氏で、いま必死に彼女を守ろうとしている。

 特別体形がいいわけでもないメガネをかけている優男。

 どう見ても仁樹や海琉に敵うはずのない普通のサラリーマンの男性。

 それでも、敵わない相手だとわかっていながらも。声を震わせながらも。

 必死に威嚇をして彼女を守ろうとしている。


「健太!! 違うの!! 逆!! 逆なの!! この人たちがナンパから守ってくれたの!!」

「へっ?」


 今度は彼――健太の方が間抜けな声を上げたのであった。



 その後、彼女の説明で誤解はすぐに解けて彼氏の方は何度も頭を下げて謝罪の言葉を述べる。


「大変申し訳ありません!! 助けて頂いたのに勘違いしてしまいまして!!」

「いや、もう大丈夫ッスよ。想いは伝わってるんで」

「そうそう。かっこよかったですよ~!」


 必死に何度も謝る姿に二人の方が気圧されて何とか説得をして頭を上げて貰った。


「さっきのあれ、彼氏きたの?」

「くるの遅くねぇか」

「だっさー」

「しかも恩人をナンパ間違い」

「サイテー」


 先程の野次馬傍観者たちがこぞって遅く表れた彼氏を罵り始める。

 その言葉は彼氏の耳にも届いているようで、せっかく顔を上げて貰ったのにその顔を羞恥で真っ赤になってしまって目線を下げてしまった。


(最低なのはお前らだろう)


 仁樹には彼がどうして罵られなければいけないのかわからなかった。

 恥ずかしいことなど、一つもしていない。

 罵られるべきは――責められるべきはあの時、彼女をいとも簡単に見捨てた傍観者たち。

 ここにいる全員が力を合わせれば勝てたはずなのに誰も助けない。

 まるでそれが正しいかのように。

 敵わない敵でありながらも、一人立ち向かった彼が間違いだったように。


「俺はあんたのことを恥ずかしいと思わないッスよ」

「へっ」


 罵りの言葉で下を向いていた彼の目線が、仁樹と交わる


「あんたは誇らしい人だ。彼女とはいえ人のために前に飛び出した。……こんなに人がいるのによォ。できた奴は片手のみだ」


 そう言って自分の右手の指を三本立てて周りを見渡す。

 その言葉と数の意味を察した傍観者たちはさっと気まずそうに目線は外した。

 目線を外した人たちの共通点は言わずもがな、である。


「そうだね。あなたは自分の『正義』を貫いた強い人だ。俺は敬意を持つよ」


 流石、親友といったところだろう。

 仁樹の考えを理解した海琉もまた、周りを一瞥し、彼の行動に賛称をする。


「そ、そんな、僕は……」


 そんな言葉をもらうとは普通は思わないだろう。

 先程とは違った羞恥心が彼を襲われているのが目に見てわかる。

 そんな彼氏の背を「しっかりしなさいよー」といって、優しくさすっている彼女。

 とても――お似合いの恋人同士だ。


「あんたの彼氏、男前だな」

「……!! そうなんです!! 男前なんです!!」


 仁樹の言葉に彼女は嬉しそうに笑った。

 それは彼の本当の強さを知ってもらえた彼女だけが出せる『笑顔』だった。



 数年ぶりに出会うという二人。

 遠くからでもわかるほど仲良く手を繋いで夜の街へと消えていった。

 きっと離れていた分、それを埋めるかのようにこれからも一緒に歩いていくのだろう、と仁樹は後姿を眺めながめていた。


「いや~本当に『愛』って凄いよね。俺たちに立ち向かってくるんだもん」

「そうだよなァ……」


『愛』――

 仁樹にとって、()()()()()()()()()()


「『誰かを深く愛せば、強さが生まれる。誰かに深く愛されれば、勇気が生まれる』

――」

「それ、誰の名言?」

「孔子。中国の思想家であり哲学者」


 そして、仁樹の名前文字に関係ある人物。


(『愛』は凄い。凄いから、()()()()()()()――)




「プライドのために、警察に割り込んできて欲しいんだろうけど」の意味について。

わかりづらかったかんぁと思い説明を……


このまま負けを認めてはプライドを傷つけてしまうので、警察が割り込んできて喧嘩がなぁなぁになってほしかった。つもり、勝敗が付かないようになってほしかったという意味。

だけど、警察来ないし、このまま第二ランドはガチでヤバい、死ぬと思い、プライドを捨てたってことです。

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