神と罪のカルマ 敗者復活戦 before
〇
「「「ワァァァァアアアアアアアアア!!」」」
とある都会のとある夜。
時刻は眠りにつく深夜。だが、都会の街が眠ることはない。
ただ昼の世界に生きるものが眠り、夜の世界に生きるものが活動しているだけ。
そんな人々が生きる世界の中。多くの若者たちが騒いで集まっている場所があった。
明るきネオンの街に存在する地下ハウス。アルコールと煙草の独特な匂いがハウス内に漂っている。
若者の年齢は幅広く、明らかに大人という年齢に達している者もいればまだ義務教育を終えていないであろう子供まで。
ピアス、染髪、カラコンは当たり前。それどころか肩から派手に掘った刺青を隠そうともしない。
そんな彼らは現在、歓声を上げるにあげて目を生き生きとさせながら輪となって何かを囲んでいた。
「もっとヤレ!!」
「ステキぃー!!」
「スゲぇー!!」
「カッコイいぃ!!」
「兄ちゃん、サイコー!!」
「写真撮らせてー!!」
男だ。輪の中心で一人の男が激しく身体を動かしていた。
腕を目の前に突き出して大きく足を振りあげて回す。次に高くジャンプしたと思っていたら着地後すぐに綺麗なバク中を決める。
ハウス内の所々にあるスピーカーからはテンポの早い明るい曲が流れ、天井から吊るされたキラキラとしたミラーボールが男の動きをより一層輝かせて周りの者を魅了していく。
休むことなく続くリズミカルな動き。この説明から分かるように男は輪の中心でダンスを披露しているのだ。
「――!!」
足も腕も頭も。どの動きも止まらない。
全てのものに自分という記憶に叩きつけるかのように激しく踊り続け、強く床を蹴って膝を曲げ、再び男の身体は宙に浮かんだ。
「セリャー!!」
そしてそのまま足の裏を床に叩きつけた。
叩きつけたことで生まれた大きな音――同時に曲が消えた。
叩き付けた音。曲の終わり。
それは、ダンスの最後を告げた。
「「「ヤッホォォォオオオイィィイイイ!!」」」
観客の声と拍手がハウス内に響きわたる。
「颯爽と現れたお兄さん!! サイコーの興奮をありがとう!!」
人の輪から何やら司会者らしき男がマイクを持って輪の中心へと現れる。
「みんな、興奮したかぁぁあ!?」
「「「イエース!!」」」
「感動したかぁぁ!?」
「「「イエース!!」」」
「夜はまだまだこれからだ!! この熱が冷め切るまで踊り騒ぎまくるぞぉぉぉぉお!!」
「「「イエッサー!!」」」
司会者の言葉で更に若者達は盛り上がり、ハウス内には新たな曲が流れ始めた。興奮冷め切れない身体を動かし各々踊り始める。
そんな元気な若者達を見ながら多くの人に興奮と感動を与えた男は輪から外れ、疲れた身体をカウンターの椅子に預ける。
周りを「若者達」と表しているが、男も十分に若かった。見たところ二十代前半といったところだろうか。自分が買った物か、はたまた貰ったものか。近くにあったペットボトルのキャップを外して水を喉に通す。
あれだけ踊ったのだ。音を鳴らしながら飲んでいく水の減りは早く、腕に付けるリストバンドで額に流れる多くの汗を拭った。
「ねぇねぇ、お兄さん!」
素晴らしいダンスを披露したのだから声を掛ける者がいない筈がない。
前から呼びかけてきた声に反応して男が顔を上げると、そこには目が痛くなってしまいそうなほどに多くの明るい色に染めた髪に、露出度の高い服を来た女……いや、少女がいた。
「オレ?」
「ふ~ん……」
男は自分の顔に指を差し確認するが少女は男の反応を無視し、化粧で塗りに塗りまくった顔で男のつま先から頭の先まで品定めするような目で見てきた。
「背オッケー、顔オッケー、服もオッケーじゃん」
第一印象はチャラい男。しかしよく見ると顔はなかなかのイケメンと言っていいところか。
何処にでもあるような作業着をオシャレに着こなし、最も目を引く薄い紫の髪には何やら顔のように見えるツギハギ柄ニット帽を身に着けている。
「もしかして、オレ逆ナンされてる?」
「そうそう!! 誰もが憧れる逆ナン~♪ 誘いに乗ってくれる~?」
「あんたの努力で決まるかな~」
「キャッホ!! 今回当たり!!」
チャラい感じに答える男に少女は大袈裟に手を叩いて甲高いを上げた。
「何? 前回ハズレだったの?」
「そう! メッチャマジオッケーな奴がいたんだけどぉ、考えがキモかったっていうか~……」
男の質問にハズレだと称する前回の逆ナンを少女は思い出す。
背も顔も服装も性格も。全て少女好みだった男。だが、その逆ナンは男の「ある考え」により失敗……、ではなく少女の言う通り〝ハズレ〟に終わったのであった。
「いまで言う『残念イケメン』ってやつ?」
「そんな感じ~」
だが、しかし。今回の逆ナンは当たりだ。前回のような好みの性格ではないが、男のノリの良さが自分に合っているような気がした。
所詮、好みは好み。理想は理想。自分はこのようなタイプの男との方が相性がいいのだろう、と少女は喜ぶ顔の下でそう悟った。
「つーか、お兄さん。ここら辺では見ない顔だねぇ。それとさっきのダンスチョーカッコ良かったぁ」
さぁこの男を落とすことに集中しよう、と。男の隣のカウンター席に座り、色気と可愛さを同時に出そうと上目づかいに男を見上げる。
「子どもが頑張ってる~」
「子どもを舐めてると痛い目見るよぉ~」
からかうように笑う男に少女は生意気そうに口元をニヤリと上げた。
子どもは凄い。自分たちは凄い。
自分たちは強い。腕の喧嘩も口の喧嘩も負けやしない。自分たちは正しい。周りが間違っていて可笑しい。
自分たちは偉い。弱い低下層な奴らは逆らうな。自分たちは素晴らしい。みんなルール守って馬鹿みたい。
凄い自分たちを舐めてんじゃねぇよ、と。自分たちを舐めてかかる大人たちを自分たちは――少女は見下す。
能無し如きが。凄いウチに指図すんじゃねぇよ、と。
……だが、所詮は狭き世界での考え。守られている籠の中の考え。子どもの自分勝手な考え。
少女の甘い考えであり、世の中の辛さを知らない。辛さを経験しててもそれに甘える『甘い考え』。
その『甘い考え』に気づかない狭き世界の、籠の中の、子供の少女は自分よりも大人である目の前の男を軽く見ていた。
(どうせ、最後はあたしが勝つ)
こんな規則も法律も丸無視な場所に来る男だ。この勝負は若い高校生である自分が勝つに決まってる。
過信しすぎる愚かな少女は自分の勝利を疑わなかった。
「そうだな。子どもを舐めきった大人が痛い目にあったことをオレは知っている……」
「そうでしょ! そうで……!?」
自分から目を逸らした男に少女は「勝った」と。その女子高校生特有の高い声で追い討ちを掛けるように言葉を発しようとした。
……が、しかし。言葉を、少女は続けて発することが出来なかった。
「子どもは舐めちゃいけねぇよ。子どもはスゲぇ武器を隠してるから……」
逸らした先で踊り続ける若者たちを眺めているように見える。だが、その目には映っていないように少女には見えた。
さっきまで調子のいいチャラそうな雰囲気も、笑った顔も無い。何処か悟ったような冷たい顔。
「いや、その……」
男の顔に、少女の体に一瞬恐怖が走る。
誰だ、この男は――?、と。本当に先程まで自分と話していた男かと疑いたくなるような急な変わりように戸惑ってしまう。
だが、そんな少女の様子に気づいたのか。男は慌てることなく先程までの明るいチャラけた顔に戻して少女の方へと向き直った。
「あー悪いな!! えーと、ダンスのことはサンキュ!!」
「へっ!」
「いやーオレ田舎もんだからさー。ぜッてーオレのダンスとか都会の人に受け入れられないと思ったもん」
「へ、へ~」
冷たい顔はもう何処にも無い。最初と同じノリのいいチャラい男が目の前にいた。
(気のせい。 あの感覚は気のせいだ――……)
気のせいにしておこう。そうでなければ前回に引き続き、今回のイケメンもハズレになってしまうのだから。
スルー出来ることはスルーしておこう。
「……え。ていうか、お兄さん田舎者なの!?」
冷静を取り戻した少女だが、先程男が口にした言葉を思い出し驚きの声を上げる。
「マジマジ」
「有り得ないし、信じられないんですけどー!!」
「マジだってー。東北のド田舎から来ましたともー」
新たな驚きを隠せないまま目を皿のようにして再び男の足の先から頭のてっぺんまで見た。
何処をどう見ても都会にいそうな今どきの男。田舎者に見えるものか。
「だから、ここら辺とかよくわかんないんだよね~」
それは本当に困っているようで。頭を掻きながら男は眉間に皺を寄せる。
(これって、もしかしてチャンス?)
このイケメンを逃がすものか。他の女達に取られないように、ずいっと鼻同士がぶつかる程の距離に顔を近づける。
「ねぇ。ならウチが街とか案内しよっか? ここら辺ならよくわかってるし~」
嘘ではない。若者に人気な中古ファッション店から人気料理店まで。長くここに住んでいる少女にとってはこの都会は庭みたいなものだ。それをアピールしてまた出会う日を決めてしまえばこの逆ナン勝負は勝ったも当然。
「へ~。それは嬉しいこと聞いたな」
「分からないことがあったら、ウチに聞いてよ~。なんたっってウチはこの都会の都会っ子なんだから~」
「ふーん。じゃぁさ、あんた…………」
開けっ放しであったペットボトルを閉めながら、男は自信満々に自分をアピールしまくる少女に一つ、問うことにした。
「『ヒトキ』って知ってる?」
神と罪のカルマ 敗者復活戦 befor 終
神と罪のカルマ 敗者復活戦 first 続
こうして第二巻が始まります!
キャラも結構覆う目に出るので、皆さん頑張って!!




