神と罪のカルマ オープニングeighth【02】
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処女作にしての売り上げ書籍第三位を記録した若手作家。
作家名、新屋 万
作品名、『狂い人』。
とある青年が不幸により永遠の愛を誓った恋人を失ってしまう。
そのあまりにもの深い悲しみに落ちていってしまった彼は世界に絶望し、そんな運命を作り上げた世界を憎み、恨んだ。
家族や親友の声も聞かず自暴自棄になる青年。そんな彼の前にその想いに答えたかのように『死神』が現れる。
「世界を恨むということは、何かを失っても構わないということだ」
「それでも、会いたい」
世界の理から外れても、愛おしい恋人に会いたい。
「ならば……」
死神は恋人を生き返させる条件に青年にいくつかの命令を出していった。
それは道徳も人としての誇りも何もない。生きる者として道をはずれし非道の命令の数々。
人を一人生き返らせることは多くの犠牲を必要とする。
だが、全ては恋人のため。青年は犯罪を繰り返していき、最後には戸惑っていた人殺しでさえも容易に行ってしまう。
目的に近づくたびに理性は無くなり、ただその身に『罪』を重ねていく。
罪悪感などとうに枯れて果てていた。
「近寄らないで!」
そして。狂いに狂った自分を恋人に拒絶された。
「女が生き返ればお前への感情はいらないだろ」
結果、恋人は自分のために罪を犯した青年を軽蔑し彼の前から姿を消すことなる。
消えた彼女を崩れていく心で探していくが叶わず。ついに青年は警察に捕まってしまう。
青年は重過ぎる罪により刑務所に連れていかれ、日に日に壊れていった。
そして、最後には彼女に拒絶された真実が心を蝕み、まともに話が聞けない状態となって狂いに狂って……死んでいく。
その姿を死神は歪んだ笑みで見つめていた――
「所詮人間の愛などそんなものだ」
「面白くねェ……」
久し振りの読書であったが無駄な時間を過ごしたようだと仁樹は落胆した。
朋音も知人から借りていたという話題の作品。偶然にも職場で借りることができたため時間があるときに読み進んでいたのだが、途中でページをめくる動きが重くなっていった。
何とか最後まで読み切ることはできたがはっきり言って胸糞悪いラストであり、何故これがベストセラーになっているのか仁樹には全く分からない。
「あぁ、仁樹くんもそう思うんだね」
隣で趣味の刺繍をしていた朋音も同じ感想だったのだろう。眉を八の字にしている表情から、以前読んでいって悲しくなったと言っていたことを思い出す。
「罪を犯してまで会いたかった人に拒絶されて、心が病んで死んでいく……みんなは物語が面白いって言うけれど、それはなんだか男性の想いを笑ってるみたいで辛い……」
この物語の語り部である作者も捻くれた書き方をしていると世間では話題になっている。その捻くれた書き方が斬新で主人公の青年を酷く、汚く、罵った表現で読者を楽しませる。
それはまるで青年を下らない人間だと言うかのように──
「所詮人間はそんなもんだって言ってるようで腹が立つ」
この本では主人公を『暴走した狂愛』として表しているが、仁樹にはどうしてもそうと思えなかった。
一途で、『揺ぎ無き愛』――
「『愛』を馬鹿にするようなことを書くんじゃねェよ」
『愛』によって救われ、『愛』によって絆が生まれた仁樹にとってそれをを馬鹿にされるのは許せないことだった。
「これ読むぐらいなら冷蔵庫にある材料で料理研究するんだったなァ」
「……まだお仕事まで時間あるよ。少し眠ったら?」
眠る――とても魅力的な提案だが仁樹は顔を曇らせる。
「いや、でも……また『夢』を見るかも……」
朋音の呼びかけにより目を覚ましてから仁樹は眠れずにいた。
もう一度眠るとまたあの暗闇の世界連れていかれるかもしれない。その『恐怖』で一杯だった。
その気持ちを理解してくれたのか、朋音も一緒に寝ずに起きていてくれる。
「大丈夫。私がいるよ。それに今は仁樹くんを守っている『念』の方が強いからいま眠っても見ることはないと思う」
怖い――そんな気持ちが表れている仁樹を安心させるように朋音は優しく微笑みその手撫でる。
いつも事件が終わる度に……『人の死の運命』を壊した時に仁樹は暗闇の世界の夢を見る。
忘れるな。どれだけの善行を為そうとお前は所詮罪を持つ者――、と。
断罪されし存在であると殺した人々の魂全てに責め立てられる。
「仁樹くん……」
「……?」
朋音の手が仁樹の頬に触れた。
思い出した夢によって無意識に流れていたのだろう。触れられるまで涙が溢れていたことに気づきもしなかった。
「情けなねェなァ。本当に……」
逃れてはいけないと分かっていながらも覚悟していながらも。暗闇の世界ではその身は恐怖に縛られる。
「情けなくていいんだよ。人なんて元々情けないんだってお兄ちゃんも言ってたよ」
「先輩がいうとなんか説得力あるなァ」
流れる涙を優しく拭ってくれる小さな手。それでも止まらず静かに涙を流し続ける仁樹だが、朋音は呆れることなく微笑み続ける。
人に与えた『死の恐怖』が廻り巡って違う『恐怖』という形として己に戻ってくる罰。
それは、世の理。人の理――
(理から……、〝世界から除外された俺〟に、与えられる『罰』か……)




