神と罪のカルマ オープニングeighth【01】
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暗闇の世界。
真っ黒に染められた世界にてポツリ、と仁樹は立っていた。
暗闇は何処まで続いていて自分以外誰もいない。
まるでそれは仁樹を―――……
逃がさないように、
歩かせないように、
留まらせるように、
閉じ込めるように、
封じ込めるように、
縛り付けるように、
光を奪うように、
道を消すように、
希望なんかないかのように、
仲間なんかいないかのように、
独りぼっちにさせるかのように、
お前なんかいらないと、
押し殺すかのように────
広がっている。
《――ッ!》
そんな世界に立っていると、『声』が聞こえてくるのだ。
《消えろ!》
《死ね!》
《いなくなれ!》
《悪魔!》
《鬼神!》
《死神!》
《生きるな!》
《人類の敵!》
《害虫!》
《鬼!》
《二度と生まれてくるな!》
《死んでしまえ!》
《災いの塊!》
《化け物!》
《モンスター!》
《怪物!》
《人でなし!》
《屑!》
《死ね!》
《窒息死しろ!》
《溺れて死ね!》
《刺されて死ね!》
《消えろ!》
《価値無し!》
《死ねよ!》
《消えろ!》
《悪魔!》
《化け物!》
《生きるな!》
《死ね!》
《処刑されろ!》
《殺されろ!》
《害虫!》
《消えろ!》
《消えろ!》《悪魔!》
《死ね!》《鬼神!》《処刑台にいけ!》
《死んでしまえ!》《生まれてくんな!》《消えろ!》
《死ね!》《消えろ!》《消えろ!》《死ね!》《死ね!》《消えろ!》
《死》《消》《消》《死》《消》《死》《死》《死》《消》《消》《死》《死》《消》《消》《死》《消》《死》《死》《消》《消》《死》《死》《死》《死》《死》《消》《死》《消》《消》《死》《死》《消》《死》《消》《死》《消》《消》《死》《消》《死》《死》《死》《消》《消》《死》《死》《消》《消》《死》《消》《死》《死》《消》《消》《死》《死》《死》《死》《死》《消》《死》《消》《消》《死》《死》《消》《死》《消》《死》《消》《消》《死》《消》《死》《死》《死》《消》《消》《死》《死》《消》《消》《死》《消》《死》《死》《消》《消》《死》《死》
「……」
怒号と罵声に満ちた世界から逃れたくて耳を塞ぎたくなる。
だが、塞いではいけない。夢の中で必死に手を握り締めて目を瞑って耐え続けなければならない。
この『魂』たちの叫びは仁樹への『罰』だ。
多くの『人』を殺めてしまった仁樹の『罪』へ。〝死者の『魂』〟が与える『罰』なのだから――
『許さねェから……』
広がる暗闇の世界にて。手四方八方から声を槍として、矢として、刀として仁樹を狙うこの空間で。
一人。たった一人の『人』が目の前に現れた。
声の嵐は止まらないけれど。闇の世界に仁樹以外の色が現れる。
しかし。だからといって仁樹に友好的とは限らない。
口を開いて出た言葉。それは当然のように魂の声たちと同じ「憎しみ」「恨み」「悪意」を隠すことなく含んでいた。
『みんな』
身分を表す学ランに少々収まりの悪い黒髪。幼さを残すその顔と合わせるとまだ少年と言えるであろうその姿。
だが――その姿から感じさせるものは年相応のものでは無い。
『順一……! 吉平、大和……! 昇……!』
「――――ッ!」
その手を伸ばして。すべてその想いのままに動かぬ仁樹の首を絞めることなど簡単であっただろうに。
しかし、少年は動くこともなくただ、ジッと睨み続ける。
『怨念』と『侮辱』を宿らした目に少年らしさなど何処にも無い。
『なんで、なんでだよ…………』
「あ……、あァ……!」
沈黙を続けていた仁樹の口から声が零れる。
決してこの世界では弱音を吐かないように我慢していたのに。『罰』を受ける存在として耐え忍ばなければならないのに。
現れた一人の少年の眼差しと言葉。彼の『憎悪』の炎〟に仁樹は思わずしてはならないことをしてしまった。
その想いに圧倒され、〝後ずさりをしてしまったのだ。
「……!」
その一瞬で身動きが出来なくなった。
《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》《逃げるな!!》
魂たちの見えない言葉の鎖が仁樹の身体に絡まってそこに留まり続けるようにキツく縛り付ける。
死ではないけれど。それとは違った『恐怖』に怯えるその目に少年の姿は徐々に大きく映し出される。
逸らすことを知らない少年の目。
そして――
「アァ……!」
仁樹は少年を知っている。
自分へと向けるその顔を。それと同時に仁樹の目に入ってくる何処にでもあるようなもの。
『人』が必要なときに使うような『もの』を、はっきりと覚えていた。
『俺たちが何したってんだよ……』
ただ、それがあり得ない部分にあるのだ。
少年の手ではなく、足でもなく、肩でもない。考えられない。何故そこにあるのかと疑問を持つ部分に。
……いや、考えることは出来るであろう。だが、それはあまりにも惨くて考えたくもない理由。
「……!」
腹に突き刺さる。真っ赤に染まった『傘』――……
『何もしてねェだろ……!!!」
『少年』が『仁樹』に、怒りをぶつけた。
「アァ……!! ウアァァア……!!」
その言葉が過去の、刹那の、残酷の、後悔の記憶を呼び覚ます。
感情も自我も何もない。ただの『人形』であった自分を。
震える声。溢れる涙。だが、この世界には仁樹の味方など何処にもいない。
友達も。家族も。愛しい彼女もいないこの世界で。
拒絶することが許されぬ、背を向けてはならない『罪』と『罰』に、『精神』を捧げ続けなければならない。
それが、彼が『人』に犯した罪の――……
〝『人』からの罰〟だ――……
だが――
「仁樹くん、起きて!!」
慈悲はあった。




